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第152話 《ナターシャの視点》そして運命の歯車は動き出す前編
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「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
転移を終えると私はその場に両膝を付き、必死に息を整えます。私は、いえ私達は本当にあの恐ろしい悪魔達から逃げられたのでしょうか?
それにしても今まで感じたことのないほどの隔絶した力の差を感じました。なんとか気丈にやり過ごしましたが精神的な消耗はかなりのものです。しかしこの全身にこびりついた血は厄介ですね。ううっ、早くお風呂に入って着替えたいものです。
「親父、ナターシャ無事か?」
「うむ。しかしここはどこなのだろうな。ナターシャは安全な場所と指定したはずなのだが、ここはどう見ても森の中だ」
「わかりません。ああ、偉大なるアルテア様我らをお導きください……」
本当にここはどこなのでしょう。わかるのは森の中というだけで、どこの国にいるのかもわかりません。マロルの指輪は神器に分類されるアーティファクトです。その転移場所には必ず意味があると言い伝えられていますが、私も使うのが初めてでしたからね。
「まいったな。せめて街なら良かったんだが、これではどこへ行けば街に出るのか皆目見当がつかない」
「そうだな。我々は一刻も早くこの世界の危機を報せなければならん」
周りに見えるのは木々ばかりで建物も見えません。護衛もいない以上ここに留まっていても良いことはないでしょう。
「そうだな。とにかく一刻も早く街を見つけないといけない。誰か人に出会えればいいのだが、こう血まみれでは怯えられてしまうかもしれないな」
「そうですね。でもこの血、私達に害はないのでしょうか?」
この血は魔の属性を持っていたはずです。とても人体に良いとは思えません。
「それはわからん。しかし血の匂いに魔物が引き寄せられる可能性はあるだろう。同じ所に留まるのは危険かもしれんな」
「そうですねお父様。先ずは川などの水場を探しましょう。特に人里は川のある場所に作られることも多いはずです」
人の生活に水は不可欠ですからね。人の住処を探す目安になるかもしれません。
私達はその場に留まることに不安を覚え、早々に移動を開始しました。しかし血が大量に服に染み込んだせいか衣類は予想以上に重く、私達の体力をいたずらに奪っていくのです。
そして悪いことは重なるもので、魔物たちの鳴き声が聞こえてきました。
「くそっ、近くに魔物が来ているな。やはりこの血に引き寄せられたのかもしれん。やるしかないか……」
お兄様が腰の剣を抜きます。確かにお兄様の腕は一流かもしれません。私も皇女の端くれですから魔法も使えますし、お父様も英雄王と呼ばれた初代様の系譜ですから多少なりとも戦えるでしょう。
ですが数の差というものは無慈悲なもの。私達を取り囲んでいたのはクラックオンと呼ばれる人型の蟻たち。普段は多くて20匹くらいの徒党を組むといわれていますが、それは徘徊時の話です。巣に近いところで遭遇した場合、100匹を超える大群と遭遇することもあるのだとか。
「完全に囲まれておるな……。蟻どもの巣が近いということだな」
気がつけばクラックオン達は木の上にもかなりの数がいました。そして当然逃げ道は大群によって封鎖されています。
「ナターシャ。お父上だけでも逃がすぞ」
「ならん。エスペラント再興のために生きるべきは皇子である貴様だ」
「お父上の仰る通りです。お兄様、私と父上で必ず突破口を開きます。御家のためにお逃げくださいませ!」
ここは腹を括るしかありません。私の体力も精神も正直限界に近いものがあります。一緒に逃げても足手まといにしかならないでしょう。ならば皇族として選ぶべき選択肢は一つしかありません。
「し、しかし……!」
ええーい、迷っている場合ではないというのにお兄様という人は!
敵は待ってはくれないのですよ?
そして木の上の蟻達が一斉に私達に向かって飛びかかってきました。くっ、私の光刃では数匹が限界。絶対絶滅であると私は死を覚悟しました。
そのときでした。魔法の発動が聞き取れたのです。
「防壁、光膜」
私達の周りを半透明な壁が包みました。私の知っている防壁は壁の魔法のはず。なのにどういうことでしょうか、その壁は球体となって私達の周りを守ってくれたのです。
「氷結地獄」
そしてクラックオンたちを極寒の冷気が襲いました。この魔法は確か高位の氷結魔法のはず。その威力は凄まじく並み居るクラックオン達を氷の彫像に変えていき、空中にいた者達もその姿を凍らせ、真っ逆さまに落ちて来ては地面に、そして防壁にぶつかりその姿を欠損させていきます。
不思議なのはこれだけの冷気魔法が発動しているにも関わらず、私は全く寒さを感じていなかったのです。もしかしてこの防壁のおかげなのでしょうか?
「間一髪だったな」
「だ、誰かいるのですか!?」
後ろの方から声が聞こえました。こんな所に人がいるなんて、私達はなんと運が良いのでしょうか。
「ああ、怪しいもんじゃない。これでもSランクの冒険者をやっている。それにしてもあんたら凄い血まみれだな。もしかしてあんたらもクラックオンの殲滅依頼を受けていたとかか?」
「返り血にしては随分多いな。もし獲物を横取りしてしまったのなら申し訳なかった」
私達の前に現れたのは四人の若者でした。
一番背の高い男性は短髪で精悍な顔つきをしていて逞しさを感じます。そしてもう一人の背の高い女性はなんと美しい方なのでしょう。凛とした佇まいは格好良く、学園にいれば多くの女性ファンが生まれるでしょう。
もう一人の女性はショートカットの似合う可愛らしい方ですね。それでいて芯の強そうな目をしています。使用した魔法といい、きっと高名な魔道士なのかもしれませんね。
そして一番小さい男の方ですが、あのような子供も冒険者として頑張っているのですね。しかし小さいながらも落ち着いた雰囲気があって、それでいて強い意思を感じさせるいい目をしています。もしかしたら油断ならない方かも知れませんね。
転移を終えると私はその場に両膝を付き、必死に息を整えます。私は、いえ私達は本当にあの恐ろしい悪魔達から逃げられたのでしょうか?
それにしても今まで感じたことのないほどの隔絶した力の差を感じました。なんとか気丈にやり過ごしましたが精神的な消耗はかなりのものです。しかしこの全身にこびりついた血は厄介ですね。ううっ、早くお風呂に入って着替えたいものです。
「親父、ナターシャ無事か?」
「うむ。しかしここはどこなのだろうな。ナターシャは安全な場所と指定したはずなのだが、ここはどう見ても森の中だ」
「わかりません。ああ、偉大なるアルテア様我らをお導きください……」
本当にここはどこなのでしょう。わかるのは森の中というだけで、どこの国にいるのかもわかりません。マロルの指輪は神器に分類されるアーティファクトです。その転移場所には必ず意味があると言い伝えられていますが、私も使うのが初めてでしたからね。
「まいったな。せめて街なら良かったんだが、これではどこへ行けば街に出るのか皆目見当がつかない」
「そうだな。我々は一刻も早くこの世界の危機を報せなければならん」
周りに見えるのは木々ばかりで建物も見えません。護衛もいない以上ここに留まっていても良いことはないでしょう。
「そうだな。とにかく一刻も早く街を見つけないといけない。誰か人に出会えればいいのだが、こう血まみれでは怯えられてしまうかもしれないな」
「そうですね。でもこの血、私達に害はないのでしょうか?」
この血は魔の属性を持っていたはずです。とても人体に良いとは思えません。
「それはわからん。しかし血の匂いに魔物が引き寄せられる可能性はあるだろう。同じ所に留まるのは危険かもしれんな」
「そうですねお父様。先ずは川などの水場を探しましょう。特に人里は川のある場所に作られることも多いはずです」
人の生活に水は不可欠ですからね。人の住処を探す目安になるかもしれません。
私達はその場に留まることに不安を覚え、早々に移動を開始しました。しかし血が大量に服に染み込んだせいか衣類は予想以上に重く、私達の体力をいたずらに奪っていくのです。
そして悪いことは重なるもので、魔物たちの鳴き声が聞こえてきました。
「くそっ、近くに魔物が来ているな。やはりこの血に引き寄せられたのかもしれん。やるしかないか……」
お兄様が腰の剣を抜きます。確かにお兄様の腕は一流かもしれません。私も皇女の端くれですから魔法も使えますし、お父様も英雄王と呼ばれた初代様の系譜ですから多少なりとも戦えるでしょう。
ですが数の差というものは無慈悲なもの。私達を取り囲んでいたのはクラックオンと呼ばれる人型の蟻たち。普段は多くて20匹くらいの徒党を組むといわれていますが、それは徘徊時の話です。巣に近いところで遭遇した場合、100匹を超える大群と遭遇することもあるのだとか。
「完全に囲まれておるな……。蟻どもの巣が近いということだな」
気がつけばクラックオン達は木の上にもかなりの数がいました。そして当然逃げ道は大群によって封鎖されています。
「ナターシャ。お父上だけでも逃がすぞ」
「ならん。エスペラント再興のために生きるべきは皇子である貴様だ」
「お父上の仰る通りです。お兄様、私と父上で必ず突破口を開きます。御家のためにお逃げくださいませ!」
ここは腹を括るしかありません。私の体力も精神も正直限界に近いものがあります。一緒に逃げても足手まといにしかならないでしょう。ならば皇族として選ぶべき選択肢は一つしかありません。
「し、しかし……!」
ええーい、迷っている場合ではないというのにお兄様という人は!
敵は待ってはくれないのですよ?
そして木の上の蟻達が一斉に私達に向かって飛びかかってきました。くっ、私の光刃では数匹が限界。絶対絶滅であると私は死を覚悟しました。
そのときでした。魔法の発動が聞き取れたのです。
「防壁、光膜」
私達の周りを半透明な壁が包みました。私の知っている防壁は壁の魔法のはず。なのにどういうことでしょうか、その壁は球体となって私達の周りを守ってくれたのです。
「氷結地獄」
そしてクラックオンたちを極寒の冷気が襲いました。この魔法は確か高位の氷結魔法のはず。その威力は凄まじく並み居るクラックオン達を氷の彫像に変えていき、空中にいた者達もその姿を凍らせ、真っ逆さまに落ちて来ては地面に、そして防壁にぶつかりその姿を欠損させていきます。
不思議なのはこれだけの冷気魔法が発動しているにも関わらず、私は全く寒さを感じていなかったのです。もしかしてこの防壁のおかげなのでしょうか?
「間一髪だったな」
「だ、誰かいるのですか!?」
後ろの方から声が聞こえました。こんな所に人がいるなんて、私達はなんと運が良いのでしょうか。
「ああ、怪しいもんじゃない。これでもSランクの冒険者をやっている。それにしてもあんたら凄い血まみれだな。もしかしてあんたらもクラックオンの殲滅依頼を受けていたとかか?」
「返り血にしては随分多いな。もし獲物を横取りしてしまったのなら申し訳なかった」
私達の前に現れたのは四人の若者でした。
一番背の高い男性は短髪で精悍な顔つきをしていて逞しさを感じます。そしてもう一人の背の高い女性はなんと美しい方なのでしょう。凛とした佇まいは格好良く、学園にいれば多くの女性ファンが生まれるでしょう。
もう一人の女性はショートカットの似合う可愛らしい方ですね。それでいて芯の強そうな目をしています。使用した魔法といい、きっと高名な魔道士なのかもしれませんね。
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