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でも、私の涙を止めたのは、意外にもずっと包まれていたと願った遼平くんの腕だった。
その手に徐々に込められていく力に、驚いたのだ。
いつまでも泣き止まないせいで、迷惑に思われたかもしれない。
手の甲で雑に涙を拭い、そっと遼平くんの腕から逃れる。
「ご、ごめんなさい。もう大丈夫」
「ちーちゃんが謝ることなんて何もないよ」
違う。
遼平くんにも永美ちゃんにも、謝らないといけないことしかない。
困ったように微笑まれ、一層胸が痛むんでも、狡い私は小さく首を振ることしかできないけれど。
「むしろ俺が椎名くんに謝らないといけないかな」
「…どうして晴臣に?」
「婚約者なんでしょ?それに、ちーちゃんはどうか知らないけど、少なくとも彼はちーちゃんのこと好きみたいだし」
「…何で知って!?」
「ポスター撮りのときの態度、凄かったもん。同じ男として分からないでもないもんね。好きな子を自分だけのものにしておきたい独占欲」
つまり、モデルを後押しした遼平くんは、私のことを何とも思っていないということ。
分かってはいるけれど、明言されてしまうとせっかく引っ込めた涙が戻って来そうだ。
そんな私の気持ちなど露ほども知らない遼平くんは、更に追い打ちをかける。
「…ちーちゃんは?椎名くんのこと好きじゃないの?」
ほら。
何とも思っていないから、こんなことも軽く聞けちゃう。
「私、は…」
『遼平くんが好き』
そう言えたらどれだけ楽か。
でも、そんなことしても遼平くんを困らせるだけ。
苦しいー
側にいることがこんなにも辛いなんて。
怖いー
これ以上近づけば、姪の仮面も、eternoの一社員の仮面も剥がれ落ちてしまいそう。
ついさっきまで一秒でも長く一緒にいたいと願っていたのに。
今は一秒でも早くここに来た目的を果たしてこの場から離れたい。
「そんなことより、資料を…」
喉に手を当てて震えを抑え込み、何とか声を振り絞った。
「…あれ?うまくはぐらかされちゃった?」
「あんまり遅くなるとお父さんに怒られちゃう。遼平くんが」
「それは困る。義兄さん、ちーちゃんのこととなるとおっかないから」
遼平くんは、悲しくなるほどあっさりと、しかも柔らかに微笑んで引き下がると、書棚の扉を開き、資料のファイルを指でなぞった。
「えーっと、ここから、ここまでかな…って、思ったより量あるね」
全部に目を通すとなると、軽く一時間はかかりそうだ。
「義兄さんには俺から少し遅くなるって連絡しておくよ。僕はあっちにいるから、終わったら声掛けて」
集中したいからと一人にしてくれるよう頼むと、遼平くんはそう言い残して部屋を出ていった。
それでもしばらく資料の内容が全然頭に入ってこなくて、結局全てに目を通し終えたのは2時間後だった。
その手に徐々に込められていく力に、驚いたのだ。
いつまでも泣き止まないせいで、迷惑に思われたかもしれない。
手の甲で雑に涙を拭い、そっと遼平くんの腕から逃れる。
「ご、ごめんなさい。もう大丈夫」
「ちーちゃんが謝ることなんて何もないよ」
違う。
遼平くんにも永美ちゃんにも、謝らないといけないことしかない。
困ったように微笑まれ、一層胸が痛むんでも、狡い私は小さく首を振ることしかできないけれど。
「むしろ俺が椎名くんに謝らないといけないかな」
「…どうして晴臣に?」
「婚約者なんでしょ?それに、ちーちゃんはどうか知らないけど、少なくとも彼はちーちゃんのこと好きみたいだし」
「…何で知って!?」
「ポスター撮りのときの態度、凄かったもん。同じ男として分からないでもないもんね。好きな子を自分だけのものにしておきたい独占欲」
つまり、モデルを後押しした遼平くんは、私のことを何とも思っていないということ。
分かってはいるけれど、明言されてしまうとせっかく引っ込めた涙が戻って来そうだ。
そんな私の気持ちなど露ほども知らない遼平くんは、更に追い打ちをかける。
「…ちーちゃんは?椎名くんのこと好きじゃないの?」
ほら。
何とも思っていないから、こんなことも軽く聞けちゃう。
「私、は…」
『遼平くんが好き』
そう言えたらどれだけ楽か。
でも、そんなことしても遼平くんを困らせるだけ。
苦しいー
側にいることがこんなにも辛いなんて。
怖いー
これ以上近づけば、姪の仮面も、eternoの一社員の仮面も剥がれ落ちてしまいそう。
ついさっきまで一秒でも長く一緒にいたいと願っていたのに。
今は一秒でも早くここに来た目的を果たしてこの場から離れたい。
「そんなことより、資料を…」
喉に手を当てて震えを抑え込み、何とか声を振り絞った。
「…あれ?うまくはぐらかされちゃった?」
「あんまり遅くなるとお父さんに怒られちゃう。遼平くんが」
「それは困る。義兄さん、ちーちゃんのこととなるとおっかないから」
遼平くんは、悲しくなるほどあっさりと、しかも柔らかに微笑んで引き下がると、書棚の扉を開き、資料のファイルを指でなぞった。
「えーっと、ここから、ここまでかな…って、思ったより量あるね」
全部に目を通すとなると、軽く一時間はかかりそうだ。
「義兄さんには俺から少し遅くなるって連絡しておくよ。僕はあっちにいるから、終わったら声掛けて」
集中したいからと一人にしてくれるよう頼むと、遼平くんはそう言い残して部屋を出ていった。
それでもしばらく資料の内容が全然頭に入ってこなくて、結局全てに目を通し終えたのは2時間後だった。
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