【本編、番外編完結】血の繋がらない叔父にひたすら片思いしていたいのに、婚約者で幼馴染なアイツが放っておいてくれません

恩田璃星

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見ないように。
聞かないように。
考えないようにしていた名前を連呼され、どうしようもなく胸がザワついた。

どうしてお父さんがもう知ってるの?
晴臣から報告を受けたのだろうか。

晴臣一人、どんな気持ちで?

想像するだけで床に頭を擦り付けて謝りそうになるのを、自分を正当化することでしか抑えられない。


だからって、eternoこんなところまで乗り込んで来る?
ちょっと晴臣の姿が見えないからって大騒ぎし過ぎじゃない?

私だって以前遼平くんを諦めたときは、数日は部屋に引きこもってたし。
晴臣だって、二、三日もすれば立ち直って出勤して来るはず。

それに、どれだけ心の中で謝っても、私と晴臣がただの幼馴染になったのは紛れもない事実だし、週末にお父さんが家に居てくれさえすれば、遼平くんとのことも含めてきちんと報告して、今頃とっくに話がついていたはず。

今更騒ぎ立てた所で、結果は同じ。

私は遼平くんを選んだ。

最初は面食らっていた真由先輩も、固唾を飲んで私の答えを待っている。

「…うん。私から晴臣に頼んで、婚約を解消してもらったの」

潔く認めると、父は遂に膝から崩れ落ちてしまった。

「なんてことを…!!」

慌てて父の体を起こそうとしていると、今度は遼平くんが姿を現し、こちらに駆け寄ってきた。

義兄にい…っ、蓮見社長!?」

遼平くんの顔を見て、少し父が安堵したのが見て取れた。

「ああ、遼平…すまない」

「立てますか?ここじゃ人目につくので、社長室に移動しましょう」

父は何とか自力で社長室にたどり着くと、憔悴しきった顔でソファに沈み込んだ。

「千歳ちゃんも、座りなさい」

気怠そうに隣の空いたスペースをポンポンと叩いて促される。
どうしようか迷っていると、遼平くんがじっとこちらを見ていて、目配せをして来た。
どうやら自分の隣に座れということらしい。

二人並んで父と向かい合う形で座ると、父が怪訝そうにグッとまゆ根を寄せる。

すると、突然遼平くんが座ったまま深く頭を下げた。

「…今回の件は、全て僕に責任があります」

そんな訳ない。
私が決めたことなのに。
遼平くんだけが悪いわけじゃない。

「違う!!私が…」

思わず声を上げると、遼平くんは頭を下げたまま静かに言った。

「いや、僕のせいだ」

「…千歳ちゃんはちょっと黙っていなさい。遼平、頭を上げて、どういうことか説明してくれ」

いつも穏やかで優しい遼平くんの顔が、今日は精悍に見える。

「僕は…千歳さんを好きになってしまいました」

「何だと!?」

自分で歩くのがやっとだった父が、勢いよく立ち上がった。
更には拳を固く握りしめ、今にも遼平くんに殴りかかりそうだ。

でも、遼平くんは全く動じることなく続けた。

「…申し訳ありません。千歳さんには晴臣くんという婚約者がいると分かっていたのに…どうしても我慢できず、想いを伝えてしまいました」
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