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立ち上がった遼平くんが、もう一度頭を下げると、長い沈黙が続いた。
父の重い口を開いたのは、深く、長い、ため息。
「…永美が…あんなことになってしまって…遼平には義兄として幸せになって欲しいと、ずっと思ってはいた」
固く握られていた拳が、ゆっくりと解かれる。
「だがしかし、よりによって…相手が千歳ちゃんとは…」
父はよろよろと再びソファに沈み込むと、困り果てたように天を仰ぎ、掌で目を覆った。
さっき程は長くない沈黙の後に聞こえたのは、大きな深呼吸と、身体を起こすと軋むソファの音。
「…それで、千歳ちゃんはどうなんだ?晴臣との婚約を解消して、遼平とここにいるとういことは…?」
「…うん。私も遼平くんの側に居たいと思ってる」
予想していた答えとは言え、父にとっては受け入れ難かったらしい。
「…そうか」
という一言に、苦渋の色がありありと滲んでいた。
「お前たちの気持ちはよく分かった。これから遼平に大切な話をするから、千歳ちゃんは仕事に戻っていなさい」
穏やかながらも、明らかに私だけ蚊帳の外に出そうとする父の言葉に食ってかかる。
「どうして私だけ?それに…私達のことは?許してくれないの!?」
「まさか。世界一可愛い娘の決めたことだ。反対なんてしない。今から遼平とするのは完全にビジネスの話。いくら可愛くても、千歳ちゃんは娘であるだけじゃなく、eternoの一社員だ。聞かせられない話があることくらい分かるね?」
とりあえずは許して貰えたみたいだし。
遼平くんもアイコンタクトで父に従うように言っている。
こうなったらもう、退室するしかない。
「お父さん、私がいなくなった後遼平くんのことあんまり苛めないでね」
ドアを閉める直前、しっかり釘を刺してから販売促進部に戻った。
一人販売促進部に戻れば、当たり前だけど飛鳥先輩の席ががらんと空いていて、見慣れたフロアが一変した印象。
私に気付いた真由先輩が、駆け寄って来て、声を掛けられる。
ただし、他の社員もいる手前、ボリュームは控えめだ。
「ちょっとこっち来て」
連行されたのは廊下の自販機前。
温かい缶コーヒーを手渡された。
「蓮見社長、すごく慌ててたみたいだけど、大丈夫だった?」
「…ええ、まあ」
「そう、良かった。それから…さっきは話が途中になっちゃったけど…その…」
真由先輩がとても聞き辛そうにしているので、私の方から切り出した。
「手塚社長とのことなら、今父に報告して来ました」
真由先輩はほんの一瞬、辛そうに息を飲んだ後、すぐに心からの穏やかな笑み浮かべた。
「そう…そうなの。私がお礼を言うのは変だって分かってるけど…どうしても言わせて欲しい。ありがとう」
缶コーヒーごと私の手を包み込む手が、本当に優しくて、温かい。
やっぱりこの女性には、誤解のないようちゃんと言っておかなければならない。
そっと手を握り返す。
「…さっき言いかけのは…手塚社長とのことは、飛鳥先輩のしたこととは関係ないってことです。私…実は…子どもの頃から手塚社長のこと好きだったので」
晴臣以外の人間に、初めて遼平くんへの想いを打ち明けた。
「だから…その、真由先輩には感謝される謂れもありません。もちろん、謝ってもらう謂れも」
言い終えるころには、鏡なんて見なくても自分で分かる程頬が赤くなっていた。
真由先輩は大きな目をぱちくりと瞬かせると、
「そりゃ社長も堕ちるわー」
と言いながら、私の頭を撫でくりまわした。
父の重い口を開いたのは、深く、長い、ため息。
「…永美が…あんなことになってしまって…遼平には義兄として幸せになって欲しいと、ずっと思ってはいた」
固く握られていた拳が、ゆっくりと解かれる。
「だがしかし、よりによって…相手が千歳ちゃんとは…」
父はよろよろと再びソファに沈み込むと、困り果てたように天を仰ぎ、掌で目を覆った。
さっき程は長くない沈黙の後に聞こえたのは、大きな深呼吸と、身体を起こすと軋むソファの音。
「…それで、千歳ちゃんはどうなんだ?晴臣との婚約を解消して、遼平とここにいるとういことは…?」
「…うん。私も遼平くんの側に居たいと思ってる」
予想していた答えとは言え、父にとっては受け入れ難かったらしい。
「…そうか」
という一言に、苦渋の色がありありと滲んでいた。
「お前たちの気持ちはよく分かった。これから遼平に大切な話をするから、千歳ちゃんは仕事に戻っていなさい」
穏やかながらも、明らかに私だけ蚊帳の外に出そうとする父の言葉に食ってかかる。
「どうして私だけ?それに…私達のことは?許してくれないの!?」
「まさか。世界一可愛い娘の決めたことだ。反対なんてしない。今から遼平とするのは完全にビジネスの話。いくら可愛くても、千歳ちゃんは娘であるだけじゃなく、eternoの一社員だ。聞かせられない話があることくらい分かるね?」
とりあえずは許して貰えたみたいだし。
遼平くんもアイコンタクトで父に従うように言っている。
こうなったらもう、退室するしかない。
「お父さん、私がいなくなった後遼平くんのことあんまり苛めないでね」
ドアを閉める直前、しっかり釘を刺してから販売促進部に戻った。
一人販売促進部に戻れば、当たり前だけど飛鳥先輩の席ががらんと空いていて、見慣れたフロアが一変した印象。
私に気付いた真由先輩が、駆け寄って来て、声を掛けられる。
ただし、他の社員もいる手前、ボリュームは控えめだ。
「ちょっとこっち来て」
連行されたのは廊下の自販機前。
温かい缶コーヒーを手渡された。
「蓮見社長、すごく慌ててたみたいだけど、大丈夫だった?」
「…ええ、まあ」
「そう、良かった。それから…さっきは話が途中になっちゃったけど…その…」
真由先輩がとても聞き辛そうにしているので、私の方から切り出した。
「手塚社長とのことなら、今父に報告して来ました」
真由先輩はほんの一瞬、辛そうに息を飲んだ後、すぐに心からの穏やかな笑み浮かべた。
「そう…そうなの。私がお礼を言うのは変だって分かってるけど…どうしても言わせて欲しい。ありがとう」
缶コーヒーごと私の手を包み込む手が、本当に優しくて、温かい。
やっぱりこの女性には、誤解のないようちゃんと言っておかなければならない。
そっと手を握り返す。
「…さっき言いかけのは…手塚社長とのことは、飛鳥先輩のしたこととは関係ないってことです。私…実は…子どもの頃から手塚社長のこと好きだったので」
晴臣以外の人間に、初めて遼平くんへの想いを打ち明けた。
「だから…その、真由先輩には感謝される謂れもありません。もちろん、謝ってもらう謂れも」
言い終えるころには、鏡なんて見なくても自分で分かる程頬が赤くなっていた。
真由先輩は大きな目をぱちくりと瞬かせると、
「そりゃ社長も堕ちるわー」
と言いながら、私の頭を撫でくりまわした。
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