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飛鳥先輩が突然抜けた仕事の穴は予想以上に大きく、集中して取り組まないといけないのに、どうにも落ち着かない。
お父さんと遼平くんの話…もう終わったかなと何度も時計を気にしながら、やっと昼休みを迎えた。
ーのは良いんだけど。
もう嫌がらせの件も解決しちゃったのに、今までみたいに一緒にランチとかってアリなのかな?
これまでだって、ただでさえ忙しい中私のためにスケジュール調整してくれてたみたいだし、お父さんとの話の内容も複雑そうだったし。
仕事の邪魔になったりしない?ー
一人悶々とスマホと睨めっこをしていたら、背後から肩を叩かれた。
「何してるの?」
尋ねて来たのは勿論真由先輩で。
「いえ、あの…」
「社長のとこ行かないの?」
事情を話すと、お腹を抱えて笑い出した。
「そんな事気にしてたの?中学生じゃあるまいし。さっさと行っておいで!」
背中を叩かれ、販売促進部から押し出されてしまったので、意を決して社長室へ向かう。
エレベーターに乗り、最上階ボタンを押して籠に揺られていると、別の階で停止した。
ここは、人事部のある階。
今日は出勤していないみたいだし、晴臣が乗り込んで来ないと分かっていても、身構えてしまう。
ゆっくりとドアが開くと、扉の向こうにいたのは渡さんだった。
「お疲れ様です」と挨拶をするより早く、相手が持っていたクリアファイルの中のものに目が釘付けになる。
封筒に書かれている文字は、見慣れた筆跡だった。
「渡主任、それ…もしかして…」
「うん…椎名の退職届。午前中に届いた」
嘘!?
まさか晴臣が本当に退職するなんて。
全く予想していなかったわけではない。
けれど、いざ現実になるとかなりショックが大きい。
「優秀な人材だったから、すごく残念だけど…婚約者を社長に奪られちゃったら辞めざるを得ないよね。今から社長のところに行くんでしょ?ついでに渡しといてもらえる?」
呆然としている間にエレベーターは最上階に着き、ドアが開いた。
反射的に箱から降りる。
「よろしくね」
渡さんはクリアファイルを私に押し付けるようにして手渡すと、扉の向こうに消えてしまった。
晴臣のこと、本当に気に入ってたんだろうな。
ちょっと言葉に刺があった…。
晴臣の退職届と渡さんの嫌味のダブルパンチのお陰ですっかり意気消沈してしまった。
このまま販売促進部にUターンしたいくらいだけど、頼まれたからには遼平くんに晴臣の退職届を渡さないといけない。
仕方なく社長室を尋ねると、遼平くんの秘書から、父は既に話を終えてLotusへ戻ったと聞かされた。
私に何も言わず、大人しく退散するなんて珍しいこともあるものだ。
そんなことを考えながら、室内に通された。
入室前にノックはした。
しかし、遼平くんは、こちらに背を向けて三人で話した時と同じ場所に座り込んだまま動かず、こちらに気付かない。
「…遼平くん…?」
躊躇いがちに声を掛けると、遼平くんは弾かれたように立ち上がり、振り向いた。
その顔は酷く思い詰めた表情をしていた。
お父さんと遼平くんの話…もう終わったかなと何度も時計を気にしながら、やっと昼休みを迎えた。
ーのは良いんだけど。
もう嫌がらせの件も解決しちゃったのに、今までみたいに一緒にランチとかってアリなのかな?
これまでだって、ただでさえ忙しい中私のためにスケジュール調整してくれてたみたいだし、お父さんとの話の内容も複雑そうだったし。
仕事の邪魔になったりしない?ー
一人悶々とスマホと睨めっこをしていたら、背後から肩を叩かれた。
「何してるの?」
尋ねて来たのは勿論真由先輩で。
「いえ、あの…」
「社長のとこ行かないの?」
事情を話すと、お腹を抱えて笑い出した。
「そんな事気にしてたの?中学生じゃあるまいし。さっさと行っておいで!」
背中を叩かれ、販売促進部から押し出されてしまったので、意を決して社長室へ向かう。
エレベーターに乗り、最上階ボタンを押して籠に揺られていると、別の階で停止した。
ここは、人事部のある階。
今日は出勤していないみたいだし、晴臣が乗り込んで来ないと分かっていても、身構えてしまう。
ゆっくりとドアが開くと、扉の向こうにいたのは渡さんだった。
「お疲れ様です」と挨拶をするより早く、相手が持っていたクリアファイルの中のものに目が釘付けになる。
封筒に書かれている文字は、見慣れた筆跡だった。
「渡主任、それ…もしかして…」
「うん…椎名の退職届。午前中に届いた」
嘘!?
まさか晴臣が本当に退職するなんて。
全く予想していなかったわけではない。
けれど、いざ現実になるとかなりショックが大きい。
「優秀な人材だったから、すごく残念だけど…婚約者を社長に奪られちゃったら辞めざるを得ないよね。今から社長のところに行くんでしょ?ついでに渡しといてもらえる?」
呆然としている間にエレベーターは最上階に着き、ドアが開いた。
反射的に箱から降りる。
「よろしくね」
渡さんはクリアファイルを私に押し付けるようにして手渡すと、扉の向こうに消えてしまった。
晴臣のこと、本当に気に入ってたんだろうな。
ちょっと言葉に刺があった…。
晴臣の退職届と渡さんの嫌味のダブルパンチのお陰ですっかり意気消沈してしまった。
このまま販売促進部にUターンしたいくらいだけど、頼まれたからには遼平くんに晴臣の退職届を渡さないといけない。
仕方なく社長室を尋ねると、遼平くんの秘書から、父は既に話を終えてLotusへ戻ったと聞かされた。
私に何も言わず、大人しく退散するなんて珍しいこともあるものだ。
そんなことを考えながら、室内に通された。
入室前にノックはした。
しかし、遼平くんは、こちらに背を向けて三人で話した時と同じ場所に座り込んだまま動かず、こちらに気付かない。
「…遼平くん…?」
躊躇いがちに声を掛けると、遼平くんは弾かれたように立ち上がり、振り向いた。
その顔は酷く思い詰めた表情をしていた。
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