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一階より更に一段照明を落とした部屋には革張りの3人がけソファと、大きめのテーブルが置かれていた。
「いきなり取って食べたりしないから、こっちにおいで」
光城がメニュー片手に可笑しそうに笑いながら、警戒心剥き出しで壁に張り付いていた私に手招きをする。
「ここに置いてある酒は全部美味いよ。体も温まるし」
てっきりまた命令口調で呼びつけられるのかと思っていたのに。
野良猫を手懐けるときみたいに静かな優しい口調で呼びかけてくる。
随分と機嫌が良さそうだ。
これなら大丈夫かも。
でも、油断は禁物。
なんてったって、相手はバツ5。
ソファの端っこに腰掛けて、メニューを受け取る。
「わあ…ビールにワイン、日本酒からウィスキーまで。すごいラインナップ」
「でしょ。ここのママ、ビアテイスター、ソムリエ、利酒師の資格まで取ってる無類の酒好きなんだよ」
「すごい…!しかも、すっごく綺麗な人でした」
「でしょ?」
光城は自分のことのように得意気に微笑むと、いきなり間合いを詰め、私の肩を抱き寄せた。
すると、それと同時にノックの音が聞こえ、光城の手を振り払う間もなくママさんが入ってきた。
「…ちょっと、宗一郎。あんたがどこの誰とどうなろうと知ったこっちゃないけど、私の店で盛るのは止めてもらえる?」
「ああ、ごめん。彼女があまりに素直で可愛らしかったから、ついね」
「あっそ。で、オーダーは?」
「僕はいつもので。彼女は…千歳ちゃん、日本酒飲める?」
二人のやり取りを注視しつつ、コクリと頷く。
「じゃあ、東洋美人の純米大吟醸出してあげて」
「かしこまりました。光城社長」
ママさんが去っていくと、光城は満面の笑みを浮かべて私に言った。
「よし!千歳ちゃん、結婚しよう」
「いやいやいやいや!誰が見ても光城さん、ママさんのこと好きでしょう!?」
「うん。だから結婚して」
え?
この人、日本語通じないんだろうか。
「私とじゃなくてママさんと結婚すればいいじゃないですか!!」
「…それができれば僕は5回も離婚なんてしていない」
吐き捨てた光城は、驚くほど苦しそうな顔をしていた。
お金も地位も全てを手にしているように見えていた光城が、急に哀れに思える。
「どうして…?あ。もしかしてママさんの方は光城さんのこと好きじゃないとか?」
「そんなわけないだろう!さっき僕と君を見てめちゃめちゃ妬いてくれてたじゃないか!」
「…そうでしたっけ?」
それにしては私に対する敵対心なんて微塵も感じなかったけど。
「そうだ!普通の人には分からないだろうけど、長年の付き合いだから僕には分かる!!」
「じゃあ、どうして?」
「光越の社長夫人なんて御免だからよ」
いつの間にかママさんがお酒の乗ったトレーを持って立っていた。
驚く私を意にも介さず、無駄のない動きでお酒やおつまみをセットしていく。
「私とその人、幼馴染なの。だから子どもの頃から嫌というほど住む世界が違うことは思い知らされていたし。それに、私、あなたの年くらいからやってる今の仕事が好きだから」
「志織…店は続けていいし、家や会社のことも何もしなくていいってずっと言ってるだろう?」
「そういうわけにはいかないってば。だから千歳さん…だっけ?この人のこと、よろしくね。まあ、どうせ長くは続かないでしょうけど」
ゾッとするほど綺麗な笑み。
敵対心なんて見せるはずがない。
端から私なんて眼中にないのだから。
光城は自分のものだという絶対的な自信を見せつけて、ママさんは再び颯爽と仕事に戻っていった。
「いきなり取って食べたりしないから、こっちにおいで」
光城がメニュー片手に可笑しそうに笑いながら、警戒心剥き出しで壁に張り付いていた私に手招きをする。
「ここに置いてある酒は全部美味いよ。体も温まるし」
てっきりまた命令口調で呼びつけられるのかと思っていたのに。
野良猫を手懐けるときみたいに静かな優しい口調で呼びかけてくる。
随分と機嫌が良さそうだ。
これなら大丈夫かも。
でも、油断は禁物。
なんてったって、相手はバツ5。
ソファの端っこに腰掛けて、メニューを受け取る。
「わあ…ビールにワイン、日本酒からウィスキーまで。すごいラインナップ」
「でしょ。ここのママ、ビアテイスター、ソムリエ、利酒師の資格まで取ってる無類の酒好きなんだよ」
「すごい…!しかも、すっごく綺麗な人でした」
「でしょ?」
光城は自分のことのように得意気に微笑むと、いきなり間合いを詰め、私の肩を抱き寄せた。
すると、それと同時にノックの音が聞こえ、光城の手を振り払う間もなくママさんが入ってきた。
「…ちょっと、宗一郎。あんたがどこの誰とどうなろうと知ったこっちゃないけど、私の店で盛るのは止めてもらえる?」
「ああ、ごめん。彼女があまりに素直で可愛らしかったから、ついね」
「あっそ。で、オーダーは?」
「僕はいつもので。彼女は…千歳ちゃん、日本酒飲める?」
二人のやり取りを注視しつつ、コクリと頷く。
「じゃあ、東洋美人の純米大吟醸出してあげて」
「かしこまりました。光城社長」
ママさんが去っていくと、光城は満面の笑みを浮かべて私に言った。
「よし!千歳ちゃん、結婚しよう」
「いやいやいやいや!誰が見ても光城さん、ママさんのこと好きでしょう!?」
「うん。だから結婚して」
え?
この人、日本語通じないんだろうか。
「私とじゃなくてママさんと結婚すればいいじゃないですか!!」
「…それができれば僕は5回も離婚なんてしていない」
吐き捨てた光城は、驚くほど苦しそうな顔をしていた。
お金も地位も全てを手にしているように見えていた光城が、急に哀れに思える。
「どうして…?あ。もしかしてママさんの方は光城さんのこと好きじゃないとか?」
「そんなわけないだろう!さっき僕と君を見てめちゃめちゃ妬いてくれてたじゃないか!」
「…そうでしたっけ?」
それにしては私に対する敵対心なんて微塵も感じなかったけど。
「そうだ!普通の人には分からないだろうけど、長年の付き合いだから僕には分かる!!」
「じゃあ、どうして?」
「光越の社長夫人なんて御免だからよ」
いつの間にかママさんがお酒の乗ったトレーを持って立っていた。
驚く私を意にも介さず、無駄のない動きでお酒やおつまみをセットしていく。
「私とその人、幼馴染なの。だから子どもの頃から嫌というほど住む世界が違うことは思い知らされていたし。それに、私、あなたの年くらいからやってる今の仕事が好きだから」
「志織…店は続けていいし、家や会社のことも何もしなくていいってずっと言ってるだろう?」
「そういうわけにはいかないってば。だから千歳さん…だっけ?この人のこと、よろしくね。まあ、どうせ長くは続かないでしょうけど」
ゾッとするほど綺麗な笑み。
敵対心なんて見せるはずがない。
端から私なんて眼中にないのだから。
光城は自分のものだという絶対的な自信を見せつけて、ママさんは再び颯爽と仕事に戻っていった。
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