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目の前で人が振られるところなんて初めて見た。
何と声をかけて良いか分からず、オロオロしていると、光城がテーブルに置かれたロックグラスの中身を一気に飲み干した。

かと思ったらフハハハハハハッ!と笑い出す。

「み、光城さん!?」

気でも触れたのかと覗き込むと、光城の目は至って正常だった。

「あの志織が宣戦布告するなんて!やはり僕の目に狂いはなかった。若く、美しく、家柄も悪くない君と結婚すれば、嫉妬に狂った志織は近いうちに必ずや僕のものになってくれるはず!!」

「な、何バカなこと言ってるんですか!…ってまさか、これまでの結婚も全部ママさんを手に入れるために…!?」

「千歳ちゃんから見ればバカバカしいかもしれないけど、こっちは大真面目でね」

呆気にとられていると、光城がポンとテーブルの上の呼び鈴を押し、すぐに新しいウイスキーの入ったロックグラスが運ばれてきた。
ただし、それを運んできたのはママさんではなかった。

「ほら、もう僕と君の顔を見たくないほど怒ってる」

歪んでる。
こんなことで子どものように目を輝かせるなんて。

「間違ってます!ママさんが本当に光城さんのこと好きなら尚更!!絶対傷ついてる!!」

「どうしてそんなことが分かるの?」

「…え?」

「君も、同じだったから?」

思いがけない指摘に、胸の奥がギクリと嫌な音を立てて軋んだ。

「…だから君は、晴臣という者がありながら手塚くんと寝たの?」

「そ…そんなことありません!私はずっと、遼平くんのことが好きで…!」

「本当に?」

光城の目が鋭く光った。

光城家ウチはさ、僕がこんなだから、かなり前…晴臣が中学生の頃くらいからアイツのこと狙ってたんだよね。でも、毎回『自分は千歳と結婚してLotusを継ぐから』の一点張りで」

中学生?
そんなに前から晴臣は自分が光越の創業者一族だということを知っていたの?

「今年の夏頃に、正式に断られたんだ。『やっと男として見てもらえるようになったから』って。呆れたよ。そんなので今までよく結婚するって言ってたなって。でも、あんなに嬉しそうな晴臣は初めてだったよ」

夏―。
私が一度遼平くんのことを諦める決意をして、晴臣と試しに付き合ってみることにしたときだ。
さっき私を追い出した晴臣と別人のような、当時の晴臣が脳裏に浮かんで胸が痛い。

いたたまれなくなって、目の前のグラスを呷ると、果実のような香りと、爽やかな酸味が口の中に広がって、余計に胸が詰まった。

そんな私に光城が追い打ちをかける。

「ねえ?アレは本当に、単に晴臣の独りよがりだったの?だとしたら、千歳ちゃん、相当悪い女だね」
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