社長の×××

恩田璃星

文字の大きさ
87 / 131

暴かれた秘密 1

しおりを挟む
 結局、そのまま三人で明け方近くまで話した後、仮眠をとってから帰路についた。

 律はそのまま本家に私を連れて帰ると言ったけれど、お爺様や東雲家に配慮すべきだと元おじさんに一蹴された結果、自宅に送ってくれることになった。

 そんな中、私の頭の中は時間が経つにつれ、唯人に埋め尽くされていった。

 彼が私に近づいたのが、お爺様の差し金だったのは間違いないらしい。
二人の間で、一体どんな密約が結ばれていたのだろう?

 それがバレて、目的を果たせなくなってしまった今、もう私は用済みということなんだろうか。

 考えても考えても答えは出なくて、今日はとにかく一人で、色々なことをゆっくり考えたかった。

 「ありがとう、りっちゃん」

 やっと家に着いて、車から降りようとドアノブに手をかけると、律が腕を掴んで引き寄せた。

 「離れるのがイヤなのは俺だけ?」

 律の、律らしからぬ言葉に、驚きを隠せない。

 「ど、どうしたの?りっちゃんらしくないよ」

 「俺らしくないって何?今まで我慢してただけだ。これからは遠慮なんてしないから」

 肩を掴まれて、強引に唇を重ねられた。

 「…ん、律…ハァッ、お父さん、出てくるかもしれないから」

 何度も重ねられる唇の隙間から、必死にそう訴えた。

 「アオは俺のことだけ考えてればいいんだよ」

 私の頭の中を見透かしてみたいにそう言うと、「また電話する」と、律は私を解放して車を発進させた。






 家に入ると、父が自室から飛び出して来た。

 「ただいま、お父さん。あの…心配かけてごめんなさい」

 ずっと離れて暮らしていた私たちは、いきなり『一人娘の、初めての朝帰り』というシチュエーションに直面し、ぎこちない空気に包まれた。

 「おか、おかえり。その、だ、大丈夫か?」

 大丈夫って…体のことだろうか。
 だとしたら生々しすぎるよ、お父さん。

 赤面しながら話を変える。

 「…お父さんこそ大丈夫だった?本家のお爺様に何か言われなかった?」

 「あ、ああ。もうかなり高齢だからな。昔ほどの威圧感も力もないよ。今はもう完全に元さんが実権を握ってるみたいなものだしね。それよりも葵、天澤くんのことは良いのか?」

 思いがけず、父から唯人の名前を聞いて、履こうとしたスリッパを思い切り蹴飛ばしてしまった。

 「…いいの。何か、裏でお爺様と取引してたみたいだから…」

 「取引?そんな…何かの間違いじゃないのか?昨日も真剣な顔で、近々正式にプロポーズさせてもらうって言っていたのに…」

 「プロポーズ?それ…いつの話?」

 「お前たちの騒ぎが起こる前だよ。天澤くんと、お爺様の控え室の前で偶然会ったんだ」






 もし、昨晩私が律に連れて行かれなければ、唯人は私に結婚を申し込むつもりだったのだろうか。

 付き合って一ヶ月でプロポーズだなんて。
 普通ありえない。
 やっぱりお爺様と取引をしているから?

 それとも本当にー?

 頭を掠めた考えを打ち消すかのように、首を振る。

 私は律の気持ちに応えた。
 唯人は、お爺様とのことが元おじさんにバレて私から手を引いた。

 これが現実。

 これ以上考えても仕方ない。

 「葵、もし律くんと天澤くんのことで悩んでるならー」

 「大丈夫。悩んでなんてないから」

 父の言葉を遮り、自分の部屋に引っ込むと、すぐに机に向かった。

 退職届を書くのは、これで2回目。
 押印を終えたところで、スマホが震えた。
 そう言えば、律が後で電話するって言ってたっけ。

 通話の相手が律だと思い込んだ私は、ディスプレイをろくに確認することなく、通話ボタンをタップして、スマホを耳に当てた。

 「もしもし」

 「…葵?」

 相手の声を聞いた途端、驚きのあまりスマホを床に落としてしまった。





しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。

如月 そら
恋愛
父のお葬式の日、雪の降る中、園村浅緋と母の元へ片倉慎也が訪ねてきた。 父からの遺言書を持って。 そこに書かれてあったのは、 『会社は片倉に託すこと』 そして、『浅緋も片倉に託す』ということだった。 政略結婚、そう思っていたけれど……。 浅緋は片倉の優しさに惹かれていく。 けれど、片倉は……? 宝島社様の『この文庫がすごい!』大賞にて優秀作品に選出して頂きました(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎) ※表紙イラストはGiovanni様に許可を頂き、使用させて頂いているものです。 素敵なイラストをありがとうございます。

年上幼馴染の一途な執着愛

青花美来
恋愛
二股をかけられた挙句フラれた夕姫は、ある年の大晦日に兄の親友であり幼馴染の日向と再会した。 一途すぎるほどに一途な日向との、身体の関係から始まる溺愛ラブストーリー。

冷酷な王の過剰な純愛

魚谷
恋愛
ハイメイン王国の若き王、ジクムントを想いつつも、 離れた場所で生活をしている貴族の令嬢・マリア。 マリアはかつてジクムントの王子時代に仕えていたのだった。 そこへ王都から使者がやってくる。 使者はマリアに、再びジクムントの傍に仕えて欲しいと告げる。 王であるジクムントの心を癒やすことができるのはマリアしかいないのだと。 マリアは周囲からの薦めもあって、王都へ旅立つ。 ・エブリスタでも掲載中です ・18禁シーンについては「※」をつけます ・作家になろう、エブリスタで連載しております

社長はお隣の幼馴染を溺愛している【宮ノ入シリーズ④】

椿蛍
恋愛
【改稿】2023.5.13 【初出】2020.9.17 倉地志茉(くらちしま)は両親を交通事故で亡くし、天涯孤独の身の上だった。 そのせいか、厭世的で静かな田舎暮らしに憧れている。 大企業沖重グループの経理課に務め、平和な日々を送っていたのだが、4月から新しい社長が来ると言う。 その社長というのはお隣のお屋敷に住む仁礼木要人(にれきかなめ)だった。 要人の家は大病院を経営しており、要人の両親は貧乏で身寄りのない志茉のことをよく思っていない。 志茉も気づいており、距離を置かなくてはならないと考え、何度か要人の申し出を断っている。 けれど、要人はそう思っておらず、志茉に冷たくされても離れる気はない。 社長となった要人は親会社の宮ノ入グループ会長から、婚約者の女性、扇田愛弓(おおぎだあゆみ)を紹介され――― ★宮ノ入シリーズ第4弾 【シリーズ① 若き社長は~コミカライズされました】 【規約のため、引き下げました。他サイトのみの掲載となります】

ホストと女医は診察室で

星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。

君に何度でも恋をする

明日葉
恋愛
いろいろ訳ありの花音は、大好きな彼から別れを告げられる。別れを告げられた後でわかった現実に、花音は非常識とは思いつつ、かつて一度だけあったことのある翔に依頼をした。 「仕事の依頼です。個人的な依頼を受けるのかは分かりませんが、婚約者を演じてくれませんか」 「ふりなんて言わず、本当に婚約してもいいけど?」 そう答えた翔の真意が分からないまま、婚約者の演技が始まる。騙す相手は、花音の家族。期間は、残り少ない時間を生きている花音の祖父が生きている間。

処理中です...