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暴かれた秘密 1
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結局、そのまま三人で明け方近くまで話した後、仮眠をとってから帰路についた。
律はそのまま本家に私を連れて帰ると言ったけれど、お爺様や東雲家に配慮すべきだと元おじさんに一蹴された結果、自宅に送ってくれることになった。
そんな中、私の頭の中は時間が経つにつれ、唯人に埋め尽くされていった。
彼が私に近づいたのが、お爺様の差し金だったのは間違いないらしい。
二人の間で、一体どんな密約が結ばれていたのだろう?
それがバレて、目的を果たせなくなってしまった今、もう私は用済みということなんだろうか。
考えても考えても答えは出なくて、今日はとにかく一人で、色々なことをゆっくり考えたかった。
「ありがとう、りっちゃん」
やっと家に着いて、車から降りようとドアノブに手をかけると、律が腕を掴んで引き寄せた。
「離れるのがイヤなのは俺だけ?」
律の、律らしからぬ言葉に、驚きを隠せない。
「ど、どうしたの?りっちゃんらしくないよ」
「俺らしくないって何?今まで我慢してただけだ。これからは遠慮なんてしないから」
肩を掴まれて、強引に唇を重ねられた。
「…ん、律…ハァッ、お父さん、出てくるかもしれないから」
何度も重ねられる唇の隙間から、必死にそう訴えた。
「アオは俺のことだけ考えてればいいんだよ」
私の頭の中を見透かしてみたいにそう言うと、「また電話する」と、律は私を解放して車を発進させた。
家に入ると、父が自室から飛び出して来た。
「ただいま、お父さん。あの…心配かけてごめんなさい」
ずっと離れて暮らしていた私たちは、いきなり『一人娘の、初めての朝帰り』というシチュエーションに直面し、ぎこちない空気に包まれた。
「おか、おかえり。その、だ、大丈夫か?」
大丈夫って…体のことだろうか。
だとしたら生々しすぎるよ、お父さん。
赤面しながら話を変える。
「…お父さんこそ大丈夫だった?本家のお爺様に何か言われなかった?」
「あ、ああ。もうかなり高齢だからな。昔ほどの威圧感も力もないよ。今はもう完全に元さんが実権を握ってるみたいなものだしね。それよりも葵、天澤くんのことは良いのか?」
思いがけず、父から唯人の名前を聞いて、履こうとしたスリッパを思い切り蹴飛ばしてしまった。
「…いいの。何か、裏でお爺様と取引してたみたいだから…」
「取引?そんな…何かの間違いじゃないのか?昨日も真剣な顔で、近々正式にプロポーズさせてもらうって言っていたのに…」
「プロポーズ?それ…いつの話?」
「お前たちの騒ぎが起こる前だよ。天澤くんと、お爺様の控え室の前で偶然会ったんだ」
もし、昨晩私が律に連れて行かれなければ、唯人は私に結婚を申し込むつもりだったのだろうか。
付き合って一ヶ月でプロポーズだなんて。
普通ありえない。
やっぱりお爺様と取引をしているから?
それとも本当にー?
頭を掠めた考えを打ち消すかのように、首を振る。
私は律の気持ちに応えた。
唯人は、お爺様とのことが元おじさんにバレて私から手を引いた。
これが現実。
これ以上考えても仕方ない。
「葵、もし律くんと天澤くんのことで悩んでるならー」
「大丈夫。悩んでなんてないから」
父の言葉を遮り、自分の部屋に引っ込むと、すぐに机に向かった。
退職届を書くのは、これで2回目。
押印を終えたところで、スマホが震えた。
そう言えば、律が後で電話するって言ってたっけ。
通話の相手が律だと思い込んだ私は、ディスプレイをろくに確認することなく、通話ボタンをタップして、スマホを耳に当てた。
「もしもし」
「…葵?」
相手の声を聞いた途端、驚きのあまりスマホを床に落としてしまった。
律はそのまま本家に私を連れて帰ると言ったけれど、お爺様や東雲家に配慮すべきだと元おじさんに一蹴された結果、自宅に送ってくれることになった。
そんな中、私の頭の中は時間が経つにつれ、唯人に埋め尽くされていった。
彼が私に近づいたのが、お爺様の差し金だったのは間違いないらしい。
二人の間で、一体どんな密約が結ばれていたのだろう?
それがバレて、目的を果たせなくなってしまった今、もう私は用済みということなんだろうか。
考えても考えても答えは出なくて、今日はとにかく一人で、色々なことをゆっくり考えたかった。
「ありがとう、りっちゃん」
やっと家に着いて、車から降りようとドアノブに手をかけると、律が腕を掴んで引き寄せた。
「離れるのがイヤなのは俺だけ?」
律の、律らしからぬ言葉に、驚きを隠せない。
「ど、どうしたの?りっちゃんらしくないよ」
「俺らしくないって何?今まで我慢してただけだ。これからは遠慮なんてしないから」
肩を掴まれて、強引に唇を重ねられた。
「…ん、律…ハァッ、お父さん、出てくるかもしれないから」
何度も重ねられる唇の隙間から、必死にそう訴えた。
「アオは俺のことだけ考えてればいいんだよ」
私の頭の中を見透かしてみたいにそう言うと、「また電話する」と、律は私を解放して車を発進させた。
家に入ると、父が自室から飛び出して来た。
「ただいま、お父さん。あの…心配かけてごめんなさい」
ずっと離れて暮らしていた私たちは、いきなり『一人娘の、初めての朝帰り』というシチュエーションに直面し、ぎこちない空気に包まれた。
「おか、おかえり。その、だ、大丈夫か?」
大丈夫って…体のことだろうか。
だとしたら生々しすぎるよ、お父さん。
赤面しながら話を変える。
「…お父さんこそ大丈夫だった?本家のお爺様に何か言われなかった?」
「あ、ああ。もうかなり高齢だからな。昔ほどの威圧感も力もないよ。今はもう完全に元さんが実権を握ってるみたいなものだしね。それよりも葵、天澤くんのことは良いのか?」
思いがけず、父から唯人の名前を聞いて、履こうとしたスリッパを思い切り蹴飛ばしてしまった。
「…いいの。何か、裏でお爺様と取引してたみたいだから…」
「取引?そんな…何かの間違いじゃないのか?昨日も真剣な顔で、近々正式にプロポーズさせてもらうって言っていたのに…」
「プロポーズ?それ…いつの話?」
「お前たちの騒ぎが起こる前だよ。天澤くんと、お爺様の控え室の前で偶然会ったんだ」
もし、昨晩私が律に連れて行かれなければ、唯人は私に結婚を申し込むつもりだったのだろうか。
付き合って一ヶ月でプロポーズだなんて。
普通ありえない。
やっぱりお爺様と取引をしているから?
それとも本当にー?
頭を掠めた考えを打ち消すかのように、首を振る。
私は律の気持ちに応えた。
唯人は、お爺様とのことが元おじさんにバレて私から手を引いた。
これが現実。
これ以上考えても仕方ない。
「葵、もし律くんと天澤くんのことで悩んでるならー」
「大丈夫。悩んでなんてないから」
父の言葉を遮り、自分の部屋に引っ込むと、すぐに机に向かった。
退職届を書くのは、これで2回目。
押印を終えたところで、スマホが震えた。
そう言えば、律が後で電話するって言ってたっけ。
通話の相手が律だと思い込んだ私は、ディスプレイをろくに確認することなく、通話ボタンをタップして、スマホを耳に当てた。
「もしもし」
「…葵?」
相手の声を聞いた途端、驚きのあまりスマホを床に落としてしまった。
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