聖女は友人に任せて、出戻りの私は新しい生活を始めます

あみにあ

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40.収穫祭

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収穫祭まで後一週間と迫ったある日。
日が大分傾き、オレンジの光が次第に薄れていく頃、街は収穫祭の準備で大忙し。
ラムへの出勤途中、大きな弾幕や三角旗が街中に飾られていた。
夕刻なのに街中は賑わう中、酒場のラムへと向かって行く。
裏口から店へ入ると、開店の準備を進めるオリヴィアに挨拶し作業着へと着替えた。

収穫祭の日は店は休み。
街中お祭り騒ぎで、貴族たちが豪華な食事を振舞うから、店を開けていてもお客は来ないわ。
オリヴィアさんも恋人と収穫祭を祝い約束をしているようだし。

私はどうしようかしら?
懐かしいイベントだし、ぜひ参加してみたい。
それにクリスと杏奈の婚約発表も気になるわ。
彼のことだから壮大に盛り上げるでしょうし。
だけれども貴族が大勢参加するのよね。
エリザベスの家族ももちろん、そうなれば見つかるリスクは高くなってしまう。

リックは当日クリスの護衛として参加するわよね。
それなら一人で祭りに参加しても、昔のようには楽しめない……。
そんな事を考えながらテーブルの上から椅子を下ろし、入口のカギを開ける。
最後の仕上げに布巾でテーブルの上を拭いていると、カラカランと扉が開いた。

まだ開店前よね?
時計を見上げると、開店まで後30分ほどある。
誰かしら……?とおもむろに顔を上げると、扉の前には杏奈の姿。
どうして杏奈がここに……お城で何かあったのかしら?
驚き目を丸くすると、私は慌てて布巾を置き彼女へ駆け寄った。

「杏奈、どうしてここに?何かあったの?」

彼女の瞳を覗き込むと、今にも泣きそうな顔をしていた。
そっと彼女の手を握り中へ案内すると、ポロポロと涙が溢れ出す。
どうしたのかしら……?
怪我はないようだけれど、よほど辛い事があったのかしらね……。
涙を流す彼女の様子に不安が胸に渦巻く。
落ち着かせるように背中を擦ると、ガタンとまた入口から音が響いた。

「ごめんなさい、今取り込んでいるのよ。それにまだ開店していないの、後にしてくれる?」

やってきた客を追い出そうと顔を上げると、私は言葉を失った。
扉の前にはここにいるはずのない彼が居たから。

「里咲さん……ごめんなさい」

その言葉に、彼女が連れてきたのだと理解すると、私は慌てて王子とは逆の方へと逃げた。

なんでクリスがこんなところにいるのよ。
杏奈と一緒に来たみたいだけれど、どうして!?
街から離れたこんな馬車に貴族がやってくるなんてありえないんだから。
ましてや彼は王族よ、どうなっているのよ!

裏口へ続く狭い通路を抜け後ろを振り返ると、追いかけてくるクリスの姿。
あーまずいわ、逃げなきゃ。
そのまま裏口の扉を開き、勢いのまま外へと飛び出す。
すぐに扉を閉めようと振り返った刹那、扉の隙間から腕が伸び捕らえられると、ガクンッと中へ引き寄せられた。

「はぁ、はぁ、はぁ、捕まえた」

「ちょっと、何するのよ!」

思いっきり彼を突き飛ばし外へ逃げるが、すぐに捕らえられる。
腰に腕を回され拘束される中、必死に逃れようと抵抗していると、強引に肩を引き寄せ、琥珀色の瞳に私の姿が映し出された。

「俺から逃げようなんて百年早い。エリザベス、どうしてこんなところにいるんだ!戻ったのなら連絡ぐらいよこせ!」

「……エリザベスなんて知らないわ。人違いよ」

「はぁ?俺の顔を視て逃げ出したくせに、よく誤魔化そうと思ったな」

クリスは呆れた表情を浮かべながら、私の強く腰を引き寄せると、そのまま胸の中に閉じ込める。
厚い胸板に圧迫され息苦しい。
バシバシと彼の胸を叩いていると、ようやく力が緩んだ。

「離してッッ、よく見なさいよ、エリザベスじゃないわ」

胸を押し返し見せつけるように顔を上げると、琥珀色の瞳と視線が絡む。

「……髪と瞳の色は違うな。だがその失礼な態度と言葉使い、それにその生意気な目はエリザベスそのものだ」

「違うっていってるでしょ!話にならないわね」

違うと何度否定しても、話を聞いてもらえない。
琥珀色の瞳を睨みつけていると、杏奈のか細い声が耳にとどいた。

「あの、里咲さん……その……」

裏口から杏奈が申し訳なさそうにやってくると、こちらへ顔を向ける。
その声に重なるように、別の声が後方から響いた。

「リサ、騒がしいようですが、何かあったのですか?」

外から裏口へ回ってきたのだろう、リックが顔を出すとクリスが目を丸くし動きを止めた。

「リック……?お前知っていたのか……」

クリスはボソッと呟くと、瞳に怒りが浮かび上がっていく。

「クリストファー王子ッッ、どうしてここに」

私達を茫然と眺めるリックの姿に、クリスは私を抱えたまま向かって行くと、胸倉を掴み壁に叩きつけた。
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