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あみにあ

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幼少期

ある日の下校①:後編

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中等部への進学が近づいたある日。
授業が終わりカバンをもって下駄箱へやってくると、二条が待っていた。

「悪い、言い忘れた。今日は道場休みだからな」

「えっ、そうなんだ残念……。じゃまた明日ね!」

何やら急いで帰ろうとする二条へ元気よく手を振ると、大きく手を振り返してくれた。

校門へやってくると、迎えの車が到着する。
乗り込み座席に体を預け、車窓からゆったり流れる景色を眺めていると、赤い橋で泣いている少女の姿が目に入った。

「車を止めて」

運転手へ向かってそう叫ぶと、止まったのを確認し、私はすぐさま外へと飛び出した。
どうしたのかと慌てる運転手をよそに、私は急いで橋まで向かうと、少女の泣き声が耳にとどく。
私はその少女へ歩み寄ると、前にしゃがみ込み、優しく頭を撫でた。

「大丈夫?怪我したの?どうして泣いているの?」

少女は突然現れた私に驚いた様子を見せると、ゆっくりと川の方を指さした。
指し示す先を目で追っていくと、そこには可愛らしい猫のぬいぐるみが、緩やかな波の上でゆらゆらと揺れている。
良く目を凝らしてみると、どうやら川の中央で何かに引っかかっているようだ。
猫のぬいぐるみはその場でプカプカ浮き、動く様子はない。
私は赤い橋の手すりから顔をだし、川を覗き込むと様子を確認してみる。
うーん、結構深そうだし、流れも緩やか。
最近体も鍛えているし、これぐらいちょろいわ!
私は少女の頭を撫で、泣かないでと笑顔を向けると、橋の手すりによじ登り、躊躇することなく川へと飛び込んだ。

ザッバァーンッ

「お嬢様!!!!!」

「おいっ!!!!」

良く知る運転手さんの声と、幼い少年の声が耳に届いた瞬間、私の視界は泡で埋まっていた。
私は水を掻き分けるように上へ上へと進むと、水面から顔を出す。

足をゆらゆらと動かしながら、水面を浮遊し辺りをキョロキョロと見渡すと、先ほど橋の上で見た猫のぬいぐるみが目に入った。
私は手で大きく水をかき、ぬいぐるみまで進んでいくと、絡まっていた水草から離し、ぬいぐるみを優しく抱きかかえる。
目を丸くして橋の下を呆然と見ていた少女と目があうと、私は空いている手で、大丈夫だと示すように手を振って見せた。


ぬいぐるみを抱えたまま岸へと泳いでいくと、叢へそっとぬいぐるみを置き、水の中から這い上がる。
少女は私の姿に慌てて川岸まで滑り降りてくると、私は少女へ猫のぬいぐるみを手渡した。

「おねぇちゃん、ありがとう!」

少女は満面の笑みを浮かべると、ぬいぐるみを大事そうに抱える。

「家に帰ってお母さんに洗ってもらうんだよ」

私も少女に笑顔を返すと、真っ青な顔をした運転手さんが堤防を滑りおりてきた。

「おッ、お嬢様!!!!」

彼は今にも泣きだしそうな顔で私を軽々と抱き上げると、堤防をすごい速さで駆け上っていく。
私は彼に抱かれながら運転手の肩越しに少女に手をふると、おねぇちゃん~~~ありがとう!!と少女は嬉しそうに大きく手を振り返してくれた。

運転手は必死なのだろう、走る振動でグラグラと体が揺れる。
私はモゾモゾと体をくねらせると、ゆっくり体を起こした。

「ねぇ、お兄様には内緒にして、お願い。……また怒られちゃうわ」

運転手はその言葉に目を泳がせると、善処します……と弱弱しく呟いた。


屋敷へ着くと、またも運転手に抱き上げられたまま部屋へ運ばれ女中へと引き渡される。
水浸しになった私の姿に驚愕した表情を見せる女中は、私を慌てて抱き上げると、浴槽の方へと一目散に走っていく。
うーん、自分で歩けるんだけどな。
あぁ、そうか!私が歩くと廊下が水浸しになっちゃうか。
そんなどうでもいい事を考えながら女中に体を預けていると、脱衣所へ降ろされた。

水が滴り落ちる服を脱がされると、ふっかふかのバスタオルで包まれる。
揉みくちゃにされる中、女中に背中を押されるままに、私は浴槽へ向かうと温かいお湯で体を洗い流される。

もみくちゃにされながら女中は私の体を洗い流すと、そのまま私は湯船へと浸からせた。

「お嬢様のお転婆にはいつも驚かされますわ。はぁ……しっかり暖まって下さいね」

女中は心配そうな表情で優しく諭すと、綺麗な礼をし外へと出ていった。


部屋へ戻ると、なんだか鼻がムズムズする。
暑いといっても、もう9月だしなぁ~。
今日は早く休もう。

クシュン、クシュンとくしゃみを繰り返すと、なんだか寒気がしてくる。
風邪を引いたらお兄様にバレちゃう、布団の中で温まろう。
寝着を整え布団へ潜り込むと、襖の向こうから入るよ、と兄の声が聞こえた。
慌てて体を起こすと、心配そうな表情をした兄が私の前にしゃがみ込む。

「彩華……川に飛び込んだんだって?」

うっ、あの運転手、もうしゃべっちゃったのね。
まずいと思った私は、咄嗟に布団の中へ潜り込むと、兄は深いため息が耳にとどく。

「はぁ……、あまり心配させないでくれ。彩華が川へ飛び込んだと聞いて、僕の心臓は止まりかけたんだよ」

心配そうなその声に、私は布団からちょこんと顔を出し目線を上げると、ごめんなさい謝った。
すると兄は少し怒った様子で私の顔を覗き込む。

「彩華、そのお転婆もほどほどにしなさい。もうすぐ中等部になるんだからね」

私はコクコクと頷くと、兄は布団ごと私を優しく抱きしめ、頭にキスをおとす。

「はい……心配かけてごめんなさい……」

「彩華の優しいところはとても良いことだと思う。だけどね自分を犠牲にして助けるなんて、何の意味もないよ。それだけ覚えておいて欲しい」

私はコクリと深く頷くと、布団へ潜り兄の言葉の意味をじっと考えていた。
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