悪役令嬢エリザベート物語

kirara

文字の大きさ
51 / 82
エリザベート嬢はあきらめない

生まれた日の映像

しおりを挟む
 新しい学年になって私の周りは少し変わった。
 アメリアの他にマルティナが何時ものメンバーに入ったから。

 あれから毎日、彼女は私のクラスに話をしに来た。ロリエッタの取り巻きメンバー達に『裏切り者』と呼ばれても全く気にした様子もなく、いつも楽しそうにやってくる。

 アメリアとも打ち解けて、「アメリア」「マルティナ」「エリザ」と名前で呼び合うようになっていった。

 マルティナとは友達になったけれど、残念ながら私の周りから、少しずつ友人がいなくなっていった。

 我が国の次期聖女のロリエッタ・トリエール男爵令嬢と、金髪の貴公子ウィリアム王太子殿下の恋を邪魔するエリザベート・ノイズ公爵令嬢。

「エリザベート様は幼い頃から最有力婚約者候補ではあるけれど、まだ婚約はしていないわ」

「彼女のワガママな性格に、ウィリアム殿下も嫌気がさしているのだとか」

「最近はウィリアム殿下も、優しく気取らないロリエッタ様に心惹かれているらしいわ」

「私も聞きましたわ」

「それに嫉妬したエリザベート様が、ロリエッタ様に辛く当たっていらっしゃるらしいわよ」

「まあ!怖い!」

 貴族のご婦人方や学園の噂好きな生徒達は、この楽しい噂話に花を咲かせる。

 ウィリ様、エド、サウスパールの2人、と、アメリア、マルティナ。

 それと聖女レティシアの誕生パーティーで『幸運を呼ぶお守り』をもらって、そっと身体に付けている人達。

 その他の皆さまは、彼女に魅了され、噂を信じて私から離れて行ってしまった。  

 マルティナもどうやら、あの誕生パーティーに参加していたようだ。

「幸運を呼ぶお守り」がなかったらどうなっていただろうと、考えただけで怖くなる。お祖母様(レティシア様)守って下さってありがとうございます。

 私はこの『幸運を呼ぶお守り』の発案者がお兄様だという事をしらなかった。

 お兄様が私達に起こった『1度目の惨劇』を聞いて、私を守るために、『幸運を呼ぶお守り』をパーティーの参加者全員に渡す事をレティシア様に提案して下さっていたのだ。

 そして残念な事がもう一つある。私とアメリアはもう生徒会の会長には行っていない。『アル』は『アルベール会長』に戻ってしまった。いや、以前よりも、もっと遠い存在になってしまった。

 生徒会の会長室の前で、ロリエッタがドルマンの声と共に消えて行った日を最後に、アルは私を避けるようになった。せっかく『エリザ』『アル』そう呼び合って心を通わせる事が出来たのに。

 あの日、お兄様が現れてアルと話をしている。その数日後にまるで人が変わったように、ロリエッタの言いなりになってしまったのだ。

 魅了魔法とは、こんな風に人を変えてしまうのか。

 だとしたら、あれはアルの本心ではない。魅了の力で心を操られているだけ。人の心はその人のものだ。許せない!

 私はフツフツと怒りが込み上げて来るのを止めれなかった。人の心を操る彼女が許せなかった。

 何かがプツリと外れた。

 それが何なのか分からなかったけれど、沢山の情報が急に私の中に流れてきて、魔力が驚くほど強くなっていくのを感じた。

「エリザベート!」

 その時、レティシア様が現れて私の名前を呼んだ。

 私は急に身体の力が抜けて、レティシア様の腕の中に倒れ込んだ。

 どれくらい時間が経ったのだろう。先ほどのアレは、夢だったのだろうか?目覚めた時には身体も魔力もいつもと変わっていなかった。

 けれど、アレは本当にあった事だ。何故なら先ほど流れて来た莫大な情報が、今も私の中に残っているから。

 私は自分の生まれた日の、レティシア様と両親の話し合いを見ていた。先ほど流れてきた膨大な情報の中にあったのだ。

『「マーガレット、アフレイド様、少しお話しないといけない事があります」』

 レティシア様は話し始めた。

『「この赤ん坊、エリザベートは光魔法が使えるわ。ヴァイオレットの瞳を持つ聖女。私と同じ存在になり得る子供です」』
 
『「マーガレットが産んだエリザベートも、ヴァイオレットの瞳を持つけれど、小さな光魔法しか使えない」

 両王家にこう伝えて、マーガレットと同じく光魔法は使えないと公表する事もできるわよ』

『「ドリミア王国には、聖女はもう一人現れます。これこそ神託でわかっている事です。神託がなかったのは、この子の存在。

 どうしますか?
 アフレイド・ノイズ魔法騎士団総団長殿。」』

『「私は手元で育てたいわ。身内の聖女様はお母さま一人で充分です。娘まで教会に渡してしまいたくは、ありませんわ。」

「レティシア様にきちんと光魔法の魔力を封印して頂き、普通の娘として育てる事を希望致します。」』

『「光魔法は使えるけれど、聖女様になれるレベルではなく、小さな光を操れるだけ。屋敷の外でその力を使うと、聖女様と間違えられて、世間が混乱するから、外では絶対に使ってはいけません。」

 両王家にも、エリザベート本人にも、このように話せば良いではありませんか。』

『本当の事を話せば、王家に囲われてしまいますよ。それほど、魅力的な存在なのですから。』

『「後悔など致しませんわ

「レティシア様。宜しくお願い致します」』

 何ということだろう。私はこれほど両親やお祖母様に大切にされて来たんだ。

「お祖母様」

 私は側(そば)で見守ってくれているレティシア様に声をかけた。

「まだ、その時ではないわ」

 レティシア様が言った。

「何かあったのね。私の封印が解けるほど、貴方は憤って(いきどおって)いたわ」

 それももう分かってしまった。『魔法騎士団の特別室』での様子も、全て頭の中に流れて来たから。

「お祖母様、ロリエッタ様ではなくて、私が瘴気の浄化をしてはいけませんか?」

 そう尋ねてみた。私なら出来る。それならアルはあの人の側から離れられるではないか。

「それは出来ないの。時間が戻る前に瘴気を浄化したのがロリエッタ様だったから。貴方が浄化してしまうと、力が大き過ぎて、これからの全ての流れが変わってしまうのよ。

 でも、もし、アルベール様が側にいても、ロリエッタ様が聖女としての自覚をなさらず、瘴気を浄化しようとしなかったら、その時はエリザベート、貴方にお願いするわ」

「お祖母様、私を普通の娘として育てて下さって、ありがとうございます。2回目だという事も、はっきり思い出しました。

 お父様もお母様もお兄様も、ウィリさまも。皆んなが笑っています。勿論、お祖母様も。この様子を夢みていたんです。ずっとずっと、夢に見ていたんです。届かない願いだと思っていました。お祖母様・・」

 お祖母様が私を抱きしめて下さった。

「貴方が頑張ってくれたから、私もこうして笑って過ごせるのよ。貴方の母、マーガレットが生きて笑って、私に話しかけてくれるんですもの。これほど、嬉しい事はないのよ。エリザベート。本当にありがとう」

 この世界を護らなければ。
 今は、今できる事を頑張ろう
 アル、ゴメンね。力になれなくて。
 私も負けないわ。

「もう大丈夫そうね。」

 そう言ってお祖母様は帰っていかれた。
 ありがとうございました。
 お祖母様。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「イザベラ、お前との婚約を破棄する!」「はい?」悪役令嬢のイザベラは、婚約者のエドワード王子から婚約の破棄を言い渡されてしまった。男爵家令嬢のアリシアとの真実の愛に目覚めたという理由でだ。さらには義弟のフレッド、騎士見習いのカイン、氷魔法士のオスカーまでもがエドワード王子に同調し、イザベラを責める。そして正義感が暴走した彼らにより、イザベラは殺害されてしまった。「……はっ! ここは……」イザベラが次に目覚めたとき、彼女は七歳に若返っていた。そして、この世界が乙女ゲームだということに気づく。予知夢で見た十年後のバッドエンドを回避するため、七歳の彼女は動き出すのであった。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

【完結】立場を弁えぬモブ令嬢Aは、ヒロインをぶっ潰し、ついでに恋も叶えちゃいます!

MEIKO
ファンタジー
最近まで死の病に冒されていたランドン伯爵家令嬢のアリシア。十六歳になったのを機に、胸をときめかせながら帝都学園にやって来た。「病も克服したし、今日からドキドキワクワクの学園生活が始まるんだわ!」そう思いながら一歩踏み入れた瞬間浮かれ過ぎてコケた。その時、突然奇妙な記憶が呼び醒まされる。見たこともない子爵家の令嬢ルーシーが、学園に通う見目麗しい男性達との恋模様を繰り広げる乙女ゲームの場面が、次から次へと思い浮かぶ。この記憶って、もしかして前世?かつての自分は、日本人の女子高生だったことを思い出す。そして目の前で転んでしまった私を心配そうに見つめる美しい令嬢キャロラインは、断罪される側の人間なのだと気付く…。「こんな見た目も心も綺麗な方が、そんな目に遭っていいいわけ!?」おまけに婚約者までもがヒロインに懸想していて、自分に見向きもしない。そう愕然としたアリシアは、自らキャロライン嬢の取り巻きAとなり、断罪を阻止し婚約者の目を覚まさせようと暗躍することを決める。ヒロインのヤロウ…赦すまじ!  笑って泣けるコメディです。この作品のアイデアが浮かんだ時、男女の恋愛以外には考えられず、BLじゃない物語は初挑戦です。貴族的表現を取り入れていますが、あくまで違う世界です。おかしいところもあるかと思いますが、ご了承下さいね。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

【完結】 学園の聖女様はわたしを悪役令嬢にしたいようです

はくら(仮名)
ファンタジー
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にて掲載しています。 とある国のお話。 ※ 不定期更新。 本文は三人称文体です。 同作者の他作品との関連性はありません。 推敲せずに投稿しているので、おかしな箇所が多々あるかもしれません。 比較的短めに完結させる予定です。 ※

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

処理中です...