悪役令嬢エリザベート物語

kirara

文字の大きさ
52 / 82
エリザベート嬢はあきらめない

ドルマンの笑い

しおりを挟む
 宰相デイビス・ブルーノは、今、国王陛下との謁見室にいる。

 王都学園に現れた光属性の女生徒、ロリエッタ・トリエール嬢を、正式に我が国の聖女と認定するように国王に進言する為だった。

 彼の隣りには教会の神父ルタールがいた。

 王都学園で水晶玉の輝きを見た彼もまた、彼女こそ我が国の聖女にふさわしい人物だと、国王に進言しに来たのだ。

 他にも子息や令嬢が王都学園に通っている貴族達の多くが、ロリエッタ嬢こそが我が国の聖女にふさわしいと噂し、その噂は国王の耳にも届いていた。

 確かにあの入学式の日、彼女が手をかざした途端に水晶玉が輝いた。それを王もしっかりと見ている。

『彼女がエリザベート嬢が夢に見た、ウィリアムの真実の愛の相手かもしれない』

 あの時はそう思って、彼女に良い印象を持たなかった。アフレイドも同じ見解のようだった。

 彼女をドリミア王国の聖女にする事に反対しているのは、魔法騎士団総団長のアフレイド・ノイズだけだった。けれど、彼の意見は重視したい。

 しかし、彼女が本当に我が国の聖女に相応しい女性なら、息子ウィリアムの婚約者に欲しい。これが国王としての本音だった。

 昔、エリザベート嬢が見た夢の『真実の愛の相手』が彼女なら、それはそれで良いではないか。

『あの時』は、まさかその相手が、我が国の聖女になる女性だとは思いもしなかったのだ。

 聖女となる女生が、ウィリアムの真実の愛の相手であるなら、それは、我が国にとって喜ばしい事ではないのだろうか?

 国王陛下は迷っていた。

 ウィリアムには前々から決めてある、アミルダ王国のアントワーズ王女という婚約内定者がいる。   

 隣国の聖女レティシア様の孫で、エリザベート嬢の従姉妹(いとこ)にあたる。この縁談が破断になれば、隣国との関係は崩れるかもしれない。 

 どうしたものか?

 そんな時、隣国のアミルダ王国の片隅の街で瘴気が発生した。聖女レティシアは2年後だと言っていたのに!早すぎる。

 アミルダ国王から、正式に魔法騎士団の協力を要請してきた。

 このことは、前から聖女レティシアに頼まれていたので、国王も了承済みだった。

 ただ、そうなると、ドリミア王国の防衛の要(かなめ)、魔法騎士団総団長のアフレイドが国を離れることになる。

 アフレイドは自分と王妃の護衛を、親衛副隊長のホワイル・ブラウン伯爵に任せる事にしたようだ。

 彼はウィリアムの側近、エドモンド・ブラウンの父親で、信頼できる人物だった。

 魔法騎士団は第二部隊の隊長ベルトン・アラールに任せ、補佐役にリアム・ノイズを任命した。彼らなら大丈夫だろう。

 そして、アフレイド自身は、魔法騎士団の精鋭の集まりである第一部隊を引き連れて、〈発生した瘴気を追って異世界からやってくる魔物達〉との戦いに備えることになっている。

 聖女レティシアが瘴気を浄化し、結界を強化する。アフレイド達が、この世界に侵入してきた魔物を退治する。

 現れた場所で退治すれば、魔物のドリミア王国への侵入も防ぐことになる。彼ら魔法騎士団は、その為に出向いて行くのだ。

 ・・・・・

 異世界からの魔物は我々が必ず壊滅してみせよう。瘴気もレティシア様にお任せすれば大丈夫だ。

 アフレイドが気にしているのは、自分が留守の間にドリミア王国に発生する瘴気と、それを追ってやってくる魔物のことだった。

 魔物の退治はリアムとベルトンに任せておけば大丈夫だろう。

 問題は発生する瘴気・・

 ロリエッタ・トリエール。彼女で大丈夫だろうか?

 アルベール君に任せてはいるが、彼女に瘴気を浄化する事が出来るのだろうか?
 いや、そもそも彼女はこちらの味方なのだろうか?

 彼女が瘴気を浄化しない時、もしくは、浄化出ない時は、エリザベートの封印を解かなければならないだろう。

 最終的にはエリザベートがいる。だから我が国の事は心配いらない。

 心配なのはその後だ。

 エリザベートがヴァイオレットの聖女だと、皆が気づいてしまう。国民も国王陛下も。

 彼女は国を守る為に瘴気を浄化して、自分の自由をなくしてしまうのだ。

 だから、光魔法が使えるロリエッタ嬢に、我が国の聖女になって欲しい思いは、実は、アフレイドも同じだった。

 ただ、彼女には自覚が足りない。
 国を、民を、思う心が足りない。
 アフレイドはそう感じていたのだ。

 自覚のない聖女に自覚を促す必要がある。

 けれど、間に合わなかった。

 聖女レティシアの予言より、1年ほど早く発生した瘴気の報告があった数日後、

 国王陛下からの正式な任務の命令を受けて、魔法騎士団総団長アフレイド・ノイズと第一部隊のメンバーは、

 瞬間移動でアミルダ王国の聖女レティシアの元に向かったのだった。

 アフレイドが自国から出て行くのを待っていた人物がいた。

 宰相のデイビス・ブルーノと神父のルタールだ。

 彼らはその日から毎日、言葉巧みに国王陛下に進言し、とうとうロリエッタ・トリエールは、正式にドリミア王国の聖女として認定される事になった。

 その日ドリミア王国は国中が聖女ロリエッタの誕生に沸き返った。

「お嬢、お前が本当に聖女になるとはな」

 ドルマンが言った。

「私、本当に、『王国の聖女ロリエッタ』になったんだわ。やったわ!」

 ロリエッタが叫んだ。

「アフレイド・ノイズのいない今、聖女のお前の邪魔をする者はいない。これで、ドリミア城は手中に収めたようなものだな。

 ハッハッハッハ・・」

 女子寮からドリミア城に設けられた聖女の部屋に移り、人払いをして寛いでいるロリエッタの横には、高笑いをするドルマンの姿があった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

【完結済】悪役令嬢の妹様

ファンタジー
 星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。  そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。  ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。  やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。  ―――アイシアお姉様は私が守る!  最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する! ※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>  既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

ヒロイン? 玉の輿? 興味ありませんわ! お嬢様はお仕事がしたい様です。

彩世幻夜
ファンタジー
「働きもせずぐうたら三昧なんてつまんないわ!」 お嬢様はご不満の様です。 海に面した豊かな国。その港から船で一泊二日の距離にある少々大きな離島を領地に持つとある伯爵家。 名前こそ辺境伯だが、両親も現当主の祖父母夫妻も王都から戻って来ない。 使用人と領民しか居ない田舎の島ですくすく育った精霊姫に、『玉の輿』と羨まれる様な縁談が持ち込まれるが……。 王道中の王道の俺様王子様と地元民のイケメンと。そして隠された王子と。 乙女ゲームのヒロインとして生まれながら、その役を拒否するお嬢様が選ぶのは果たして誰だ? ※5/4完結しました。 新作 【あやかしたちのとまり木の日常】 連載開始しました

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!

naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』 シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。 そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─ 「うふふ、計画通りですわ♪」 いなかった。 これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である! 最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。

処理中です...