悪役令嬢エリザベート物語

kirara

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エリザベート嬢はあきらめない

決着は卒業パーティーで

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 最近、王都の各地で〈黒い霧〉が目撃されている。そして、その霧を目撃した人が口を揃えて言う言葉がある。

「霧の中に美しい女性がいたんだ。その透き通るようなヴァイオレットの瞳に、僕は魅了されてしまいそうだったよ」

「髪の色は、暗くてよく見えなかったけれど、ダークブロンドだった気がする」

 ダークブロンドの髪をして、ヴァイオレットの瞳を持つ美しい女性。こんな人物は1人しかいなかった。

 エリザベート・ノイズ公爵令嬢

 黒い霧による被害は報告されてはいない。
 けれど、人々は噂し、そして、恐れた。

 そんなある日、エリザベート・ノイズ公爵令嬢の義兄、リアム・ノイズが行方不明者になった。

 彼に引き続き、ドリミア王国の王太子である、ウィリアム殿下が行方不明者になった。

 ドリミア王国では、国を挙げて大捜索を行う事になった。

 国の防衛の要(かなめ)、魔法騎士団総団長であるアフレイド・ノイズは、愛娘エリザベートの無実を信じている。

 けれど、調べれば調べるほど、犯人像がエリザに近づいていくのだ。

 リアムが姿を晦(くら)ました夜、帰り支度をした執事のクロードが部屋の前を通った時に

「エリザ」

 と言うリアムの呼び声を聞いていた。しかし、その事を今朝までクロードは言わなかった。

「クロード、良く話してくれた」

 アフレイドが言った。エリザベートを信じたい・・2人の思いは同じだった。

 ウィリアム殿下が姿を消したのも城の自室だった。いつもは王都学園の男子寮で寝泊まりしている殿下は、学園の休日を利用して城に戻っていたのだ。

「私はウィリアム殿下に、冷たい飲み物をお出しして、すぐに部屋を出ました」

 聞き取り調査をしている魔法騎士団の隊員に、殿下のメイドがそう言った。

「私がお部屋を出てしばらくして、ウィリアム殿下がエリザベート様の名前を呼ぶ声を聞いた者がいます。

 声は殿下のお部屋の窓から聞こえたそうです」

 その事は国王陛下や妃殿下をはじめ、大捜索に関わった全ての者の知るところとなった。

「エリザベート嬢が?」

「エリザちゃんが?」

「エリザベート様が?」

「ノイズ公爵令嬢が?」

 幼い頃からエリザを慈(いつく)しんで見守って来た人々が、エリザを疑いはじめた。

 その波紋は大きく、人々は、今までのエリザの功績すらも否定しはじめた。

 1年前にエリザベート・ノイズ公爵令嬢は、瘴気を浄化して国を救ってくれた。しかし、それには、裏があったのではないのだろうか?

 黒魔術を使って瘴気を呼んだ者と、繋がっていたのではないのだろうか?

 魔物を呼んだ者と、繋がっていたのではないのだろうか?

 そして、その繋がっていた者が、ウィリアム王太子殿下やリアム・ノイズ公爵子息を誘拐したのではないのか?

 ウィリアム王太子殿下を誘拐した犯人と、エリザが繋がっていると断定されて、調査が進められていく。

 アフレイドは魔法騎士団の総団長の座をおりた。エリザの捜索に支障をきたすと、国の重鎮たちが判断したのだ。

 しかし、慎重にしなければならない。
 エリザベート・ノイズ公爵令嬢は、ヴァイオレットの聖女だ。悪に染まった聖女。

 彼女の能力を封印しなければ。
 彼女は闇の精霊テネーブとも繋がっている。

 何処にも逃げないように慎重に。

 今、彼女を捕らえる『力』が国にはない。
 ヴァイオレットの聖女の魔力はそれほど大きいのだ。
 彼女を捕らえる為の準備をしなければ。

「もうすぐ王都学園の卒業パーティーがある。そのパーティーには我が娘、エリザベートも出席する。あの子はこんな事で逃げ隠れするような子ではない。

 私は娘を信じたいが、諸君を説得するだけの証拠がない。諸君は娘を捕らえたいのだろうが、捕らえられない。

 卒業パーティーまでに全ての証拠を揃えて、決着をつけようではないか。

 諸君は娘を捕らえる為の証拠を。
 私は娘を助ける為の証拠を。

 我が息子リアムの行方も分かっていない。私は、息子の行方を探しながら、娘の無実の証拠を探させて頂こう。

 それと、もし王都学園の卒業パーティーまでに、証拠もなく娘を捕らえる者がいれば、このアフレイド・ノイズが相手をさせて頂く事を、ご承知願おう」

 国の重鎮達が集まる会議で、アフレイドはそう発言した。

「分かりました。アフレイド殿。しかし、もし、エリザベート嬢がウィリアム殿下の誘拐に関わっていた時は、極刑も免(まぬが)れぬこと、貴方にも、ここでご了承願おう」

 重鎮の1人がアフレイドにそう言った。

 卒業パーティーはもう目の前に迫っていた。
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