転生して王子になったボクは、王様になるまでノラリクラリと生きるはずだった

angel

文字の大きさ
44 / 84
こぼれ話

【44】 元【影】の告白

しおりを挟む
自己紹介をさせてもらえるならばオレは中流貴族の息子Aとでも言っておこう。

オレが生まれた年に皇帝陛下の第一子であるオーディン殿下がお生まれになったことで、オレは一族の期待を一身に浴びることになった。初等部に入学して以来、いつか殿下の側近になれるよう勉学に勤しみ級友としてお近づきになれる機会を伺っていた。だがあっという間に殿下は飛び級をされ同級生ではなくなり、それならば将来殿下の近衛兵になるんだとその後も努力を惜しまなかった。
その殿下がなぜか高等部2年にイキナリ編入されると知らされたのは新学期1日前だった。
教室に集められたのは、成績優秀で生まれも確かで王室への忠誠心にあふれている者ばかりだった。
【エーリス王子に話しかけること、見ることを禁ずる】
その2週間のことは説明するまでもないだろうから省くとして、鮮烈な思い出として今も心のなかにある。

今日は久しぶりに【影】として駆り出された。

帝国第一級ホテルの1階のモールで買い物客を装う任務だ。私服の【影】やその家族たち百人近くが集められ配置される。
お買い物をされるシルヴァリオン王子に不審に思われないよう、一般客を装い王子のお買い物が終わるまでショッピングしてる風でうろつくだけの簡単なお仕事だ。
貸し切りにしたほうがよっぽど楽だろうにと思うが、高貴な方のお考えはイマイチわからない。

遠くから煌めく光が近づいてくるのが見える。
じっと見ることは許されないのは学園にいたころと同じだ。
視界の端にだけ捕えながら、宝石店内のガラスケースを見ているフリをする。緊張する、早く通り過ぎてくれないかなと思う反面、近くでお声を聞けたらなと願ってしまう。
学園では同じクラスだったので、度々お声を聞くことはできていた。
ただ見ることも禁じられていたので、オーディン殿下を見るふりをして視界に端に入れるのがやっとだった。
そんなことを考えながら男性用アクセサリーを眺めていたらフワッと良い香りがした。

なんと…オレのすぐ右1Mほどの距離にプラチナブロンドの美しい髪が見えた。
ドキドキする、見てはならない、硬直する体で息を詰めていると「あれ?」と鈴の転がるような懐かしい声がした。

「あ…もしかして学園で同じクラスだった、かな?」

気が動転した、聞こえなかったフリでもしてさっさと立ち去るべきだったのに目が勝手に動いてしまった。
少し見上げるようにしてオレを見る王子の瞳が潤んだように揺らめいて、小首を傾げたせいで艷やかな髪がシャラリと肩を流れるのが見え生唾を飲み込んでしまう。
こんな近距離で…しかも話しかけられるなんて。心臓が破裂するかと思った。
オーディン殿下と初めてお話した日以上かもしれない、緊張と感動で返事をすることさえ頭から消えてボーッと見てしまった。
きれいな形の唇が動くのをただ見ていたら、王子の後ろの近衛が短く靴を鳴らしてオレを現実へと引き戻してくれた。

「し、知りません」

ようやく紡ぎ出した言葉に王子がガッカリした顔をする。
まさかだった、口をきいたこともない、ただ同じ教室にいただけのオレのことを覚えていてくれたなんて。

「そっか…そうだよね2年も前だし、1ヶ月も通ってなかったし覚えてないよね」

肩を落とし照れ笑いしながらショーケースに目線を落とされる王子に申し訳ない気持ちが湧き上がる。
王子をシゲシゲと見たり、話しかけたりした者、失態を犯した【影】や黒服、何人もが消えていった怒涛の2週間を忘れるはずがない。
『そんなわけないです、あなたと話してみたいと誰もが願ってましたよ』とお教えしたいがそんな事が出来るわけもない。
だけど次の王子の言葉に、オレは黙っていることができなくなってしまった。

「ボクは嫌われてたしね…」



「ああ そういえば思い出した、オーディン殿下の隣の席だった人だよね?」言ってしまった…

これで近衛になるという夢は儚く散った。
後ろの近衛たちに目線で殺されそうになったが今更引き返せない。ならばこの時間を一生の思い出になるよう元クラスメイトとしておしゃべりしようと決めた。

嫌われてたなんて勘違いだと思うよ?仲良くなる暇もなくいなくなっちゃって残念だったよと告げると、とてもうれしそうに笑ってくれた。このお顔を見れただけで何も思い残すことはない。

なんの買い物?と聞くと恥ずかしそうに
「たった一人だけ出来た友達の誕生日祝を買いに来たんだけど、何がいいかわかんなくて迷ってるんだ」と頬を染めた。
オーディン殿下の誕生日は4日後だった。

「去年は財布をプレゼントしたんだけど、自分でお金を払うことなんて無い人なのに去年のボクはなんてバカだったんだろうね」

ゲンコツで自分の頭を叩く真似をされる。うっ…可愛すぎる仕草に悶絶しそうになる。

なにかいい案はない?と聞かれる。シルヴァリオン王子にいただけるなら噛み終わったガムでも家宝にします!というのは心に秘めておいて…心を落ち着け考える。
オーディン殿下は何でも持ってるだろうからプレゼントは難しい、しかしシルヴァリオン王子からいただけるならばオレと同じで髪の毛1筋でも嬉しいに決まっている。
すがるようにオレを見つめる王子にようやく答える。

「想いがこもってれば何でも嬉しいんじゃないですか?それこそメッセージカード1つでも」

「そうか…そうだよね、でもいつももらってばかりだから何かしたいんだよねぇ…」

頬に手を当て考える仕草をする王子を瞼の裏に焼き付ける、この一瞬を一生忘れないようにと。
近衛の方々はスゴイな、毎日お仕えして心臓破裂の瞬間が何度もあるだろうに、自分はなれそうにないなと独り言ちた。

「…手作りとかもいいかもしれないね、気持ちを込めて作ってくれたってのが買ったものより嬉しいかもしれない」

何気なく言った言葉に最高の笑顔で微笑んでくださった。

「それ!それいいね!何か作れるかなぁ、工作は苦手だし…うーんスイーツがいいかな?」

相談するかのようにオレに目線を合わせてくださる、はぁぁ…なんでもいいです、焼け焦げた端くれでもいただけるならなんでも!

「そうだ、ねぇ今からでもお友達…「おまたせー!」」

殿下の言葉を遮るように、間に割って入った声の主がオレの腕にまとわりつく。それは、めかしこんだオレの妹だった。

「あっちに可愛いヒール見つけたの!買ってくれるんでしょ?早くきて~」

グイグイと腕を引かれる、近衛さんたちが顎で行けと合図する。

「ごめん、じゃ―――」 オレの言葉に手をヒラヒラと振ってくださった。
寂しそうな残念そうな顔をしていた、と思うのは勝手なオレの妄想だろうか。友達に…そう言ってもらえただけで充分だった。

こうしてオレの幸せ時間はあっけなく終わった。夢のような時間だった。



その後オレは連行され、厳しい尋問と叱責をくらい【影】でなくなったが後悔はしていない。

                          元【影】の告白
                           
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。 ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。 隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。 「愛してるよ、私のユリタン」 そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。 “最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。 成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。 怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか? ……え、違う?

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

塔の魔術師と騎士の献身

倉くらの
BL
かつて勇者の一行として魔王討伐を果たした魔術師のエーティアは、その時の後遺症で魔力欠乏症に陥っていた。 そこへ世話人兼護衛役として派遣されてきたのは、国の第三王子であり騎士でもあるフレンという男だった。 男の説明では性交による魔力供給が必要なのだという。 それを聞いたエーティアは怒り、最後の魔力を使って攻撃するがすでに魔力のほとんどを消失していたためフレンにダメージを与えることはできなかった。 悔しさと息苦しさから涙して「こんなみじめな姿で生きていたくない」と思うエーティアだったが、「あなたを助けたい」とフレンによってやさしく抱き寄せられる。 献身的に尽くす元騎士と、能力の高さ故にチヤホヤされて生きてきたため無自覚でやや高慢気味の魔術師の話。 愛するあまりいつも抱っこしていたい攻め&体がしんどくて楽だから抱っこされて運ばれたい受け。 一人称。 完結しました!

冷酷無慈悲なラスボス王子はモブの従者を逃がさない

北川晶
BL
冷徹王子に殺されるモブ従者の子供時代に転生したので、死亡回避に奔走するけど、なんでか婚約者になって執着溺愛王子から逃げられない話。 ノワールは四歳のときに乙女ゲーム『花びらを恋の数だけ抱きしめて』の世界に転生したと気づいた。自分の役どころは冷酷無慈悲なラスボス王子ネロディアスの従者。従者になってしまうと十八歳でラスボス王子に殺される運命だ。 四歳である今はまだ従者ではない。 死亡回避のためネロディアスにみつからぬようにしていたが、なぜかうまくいかないし、その上婚約することにもなってしまった?? 十八歳で死にたくないので、婚約も従者もごめんです。だけど家の事情で断れない。 こうなったら婚約も従者契約も撤回するよう王子を説得しよう! そう思ったノワールはなんとか策を練るのだが、ネロディアスは撤回どころかもっと執着してきてーー!? クールで理論派、ラスボスからなんとか逃げたいモブ従者のノワールと、そんな従者を絶対逃がさない冷酷無慈悲?なラスボス王子ネロディアスの恋愛頭脳戦。

悪辣と花煙り――悪役令嬢の従者が大嫌いな騎士様に喰われる話――

BL
「ずっと前から、おまえが好きなんだ」 と、俺を容赦なく犯している男は、互いに互いを嫌い合っている(筈の)騎士様で――――。 「悪役令嬢」に仕えている性悪で悪辣な従者が、「没落エンド」とやらを回避しようと、裏で暗躍していたら、大嫌いな騎士様に見つかってしまった。双方の利益のために手を組んだものの、嫌いなことに変わりはないので、うっかり煽ってやったら、何故かがっつり喰われてしまった話。 ※ムーンライトノベルズでも公開しています(https://novel18.syosetu.com/n4448gl/)

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました

あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。 完結済みです。 7回BL大賞エントリーします。 表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)

処理中です...