こじらせ委員長と省エネ男子

みずしま

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1.こじらせていることは自覚してます

1-8

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 改めて、自分の置かれた状況を理解する。

「わ、わ~~! 玖堂ってば、朝からセクシーだなぁ」

 俺は動揺を隠しながら、ヘラヘラと笑った。

 ゆるゆるTシャツは、襟の部分が伸びきってだるっとしている。鎖骨から胸元がバッチリと見える。

 玖堂が、少しずつ顔を近づけてくる。

「な、なん……」

 さすがにビビる。

 まさか、キスしようとかしてないよな? 

 そんなわけないと思いつつ、でも玖堂の美しすぎる顔面は近づいてくるわけで。

「ひょえーーー!」

 俺は、情けない悲鳴を上げた。

 その瞬間、玖堂の動きが止まった。

「なんだ、宮下か……」

 寝起き特有のかすれた声だった。

 玖堂が上体を起こす。その瞬間、ベッドがぎしりと音を立てた。

「だ、誰かと勘違いした……?」

「そうじゃない」

「じゃあ、何だよ」

「誰だろうと思って」

 玖堂が、乱れた前髪をかき上げる。その仕草も妙に色っぽかった。

「どっから見ても、宮下響くんだろうが」

「俺、目がわるいから」

「あ、そう……」

 普段はコンタクトらしい。

「でもさ、約束したじゃん。朝、迎えに来るって」

 ベッドから起き上がりながら、俺は抗議の声を上げた。

「わすれてた」

 目をこすりながら、玖堂が言う。

「忘れないでくれる!?」

 俺は、いつもより早く起きて! 身支度を整えて! わざわざ、玖堂のこと起こしに来てやったのに~~!

 心の中で文句を言いまくる。直接訴えないのは、玖堂の前でも外面を崩したくないからだ。

「……おこってる?」

 そう言って、玖堂が俺の顔を覗き込んでくる。

 一瞬、完璧な俺の外面が見破られたのかと思った。そろり、と玖堂の表情をうかがう。

 相変わらず無表情で、考えが読めない。

「なんで、俺が怒ってると思うんだ?」

「なんとなく」

 そう言って、玖堂がゆっくりと瞬きをする。

 怖ろしいくらいに長い玖堂の睫毛を見ながら、「バレてなさそうだ」と俺はひとまず安堵する。

 それにしても、寝起きの気だるさMAXの玖堂はすごい。

 なにがすごいって、それはもちろん色気の話。ちょっとなまめかしいが過ぎて、俺は目のやり場に困った。いい加減にTシャツ一枚でいるのはやめて欲しい。

 ここは玖堂の部屋だから、どんな格好をしていようと彼の勝手なんだけれども……。

 俺は、ふいと視線を外した。視界から玖堂の姿を排除する。

「すぐに準備するから」

「うん」

「だから、おこらないで。ね?」

 懇願するみたいに、玖堂が言う。かなりの至近距離で。

「玖堂」

「なに」

「触れそうだ」

「ふれる……? なにとなにが?」

「俺のぺちゃっとした鼻と、玖堂の高い鼻が」

 見ようによってはドラマのラブシーンだ。

 玖堂の相手が俺なので、まったく画面は映えないのだが。

「宮下の鼻はきれいだよ」

 いきなり玖堂が意味不明なことを言い出す。

「どこがだよ」

「目立たないから」

「それって褒めてんの? 確かに、俺の顔面パーツは地味で目立たないけど」

 ゆえに俺はモブ顔なのだ。

「宮下は、忘れ鼻ってしってる?」

「何だよそれ」

 俺は首を横に振った。

「印象に残らない鼻が最近のトレンドらしい」

「はぁ?」

「令和美人の条件だって。なにかで見た」

 いや、なにかってなんだよ? ずいぶん適当だな。

「だから、宮下は美人」

 思わず、俺はふき出した。

「ばか。俺が美人なわけないだろ」

 俺が美人なら、この世の人間はみんな美人だ。

 それを言うなら、玖堂のほうが美しい。今だって、寝起きのくせに圧倒的美貌を誇っている。

 寝起きは顔がむくんでいるし、髪だってボサボサになる。誰だって多少はブサイクになるのに、玖堂は目を開けた瞬間からキラキラしている。

 ……いや、寝ているときからきれいだったな。こいつは。

 まったく不公平な世の中だ。俺は理不尽を嘆きながら、玖堂を急かした。

「俺が美人とか意味不明なこと言ってないで、早く準備しろ。さすがにこのままだと遅刻する」

「わかった」

 玖堂はうなずいて、のんびりと行動を開始した。

 相変わらず、動きが緩慢だ。玖堂を早く動かせるリモコンがあれば、俺は奪い取ってでも手に入れると思う。そして連打しまくる。

 しかし、実際にはそんな都合の良いものは存在しない。

 仕方なく、俺は玖堂を見守ることにした。のそのそと顔を洗って、ゆっくりと制服に袖を通す。

 幼い子どもを見守っているような心境になった。制服を自分で着ているだけでエライ。制服を着崩していることについては、目をつむる。

 俺は、のほほんとした気持ちで玖堂を眺めていた。

 ゆるゆるTシャツを脱ぎ始めたときだけは、ちょっとビビったけど。パンツ一枚の玖堂(ほぼ裸体といって良い)を拝んでしまった。

 びっくるするほど神々しい物体だった。そして美しい。美術館に収蔵されている彫刻作品のようで、思わず見惚れるくらいだった。
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