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2.省エネ男子になつかれました
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六月中旬の晴れた朝。
俺は、せっせとアパートの外周をホウキで掃いていた。
住人である俺が、なぜこんなことをしているのかというと。
アパートの大家さんが管理人も兼ねているのだが、かなり高齢なのだ。
そのため、掃除が行き届いていない。見かねた一階の角部屋の住人……湯島さんが自発的に敷地内の掃除を始めた。そのことを知った俺が、当番制を申し出たという経緯だ。
当番制といっても、掃除するメンバーは俺と彼女だけなので、ただ交互に掃除をしているだけなのだが。
ひとまずアパートの外周をきれいにして、俺は「ふう」と息を吐いた。それから、玖堂の部屋を眺める。
「あいつ、ちゃんと起きたかな……」
掃除を開始する前に、俺は玖堂の部屋に行った。
何度か声をかけたのだが、反応はイマイチだった。いつもより起こす時間が早いこともあってか、寝返りをうつばかりで目を覚ましてはくれなかった。
それで仕方なく、目覚まし係の役目は一時中断して、掃除を始めたのだった。
集めたゴミをまとめて、ホウキとちりとりを片付ける。それから階段を駆け上がって、玖堂の部屋に戻った。
「玖堂ーー、起きてるか?」
寝室をのぞくと、玖堂がベッドの上で胡坐をかいていた。
目がしょぼしょぼしている。どうやら起き抜けのようだ。
「あ、ちゃんと起きてた」
「なんか、目がさめた……」
最近、いつもこの時間に玖堂は起きている。というか、俺にムリヤリ起こされている。それで、目が覚めたのだろう。
「えらいえらい」
褒めてやったのに、玖堂はちょっと不服そうだ。じとっとした目で俺を見る。
「何?」
「……起きたとき、宮下がいなかった」
寝起きで機嫌が悪いのだろうか。珍しく、玖堂がふくれっ面だった。
「掃除してたんだよ。ほら、準備して」
ゆるゆるTシャツの裾を持って、ぐいっと上に引っ張り上げる。襟元がだるっとしているおかげで、簡単に脱がすことができる。
最近、気づいたのだ。玖堂が支度するのをただ待っているのではなく、手伝うことで時間短縮できることに……!
気だるげな雰囲気を漂わせる玖堂は、Tシャツ姿でも色気がやばい。それが、ほぼ全裸(パンツ一枚)になるのだがら、正直なところ目のやり場に困る。
視線を逸らしつつ、俺は玖堂の着替えを手伝った。
玖堂が洗面所にいる隙に、トースターでパンを焼き、目玉焼きを作り、コーヒーを淹れる。
俺は、いつの間に世話係になったんだろう……と思わないでもないが、ちょこまかと動いているほうが性に合うので良しとする。
今日も無事に、遅刻することなく登校することが出来た。
教室に入ると、男子たちから「あ、カップルが来た」とか「朝からイチャイチャするなよ~~」という声が上がる。そして一軍女子から睨まれる。すっかり日常の風景になった。
「おはよう。あの、せめて『コンビ』とかにしてくれない? あと、イチャイチャはしてないから……」
無駄だと思いながら、俺は吉沢たちに願い出た。
「OK、委員長」
「了解~~」
彼らは快諾してくれたが、たぶん明日には忘れていると思う。いかんせん調子の良いやつらなのだ。
俺は席に座って、ようやく安堵した。早朝からタスクが多すぎる……。ぐったりしていると、なにやら後ろのほうからヒソヒソと声が聞こえてきた。
声の感じからして、おそらく優等生女子の白石さんと唯川さんだ。
女子には並々ならぬこじらせ感情を抱いている俺だが、彼女たちは別枠だった。真面目で、大人しくて、非モテの俺にも普通に接してくれる。
俺は神経を集中させて、彼女たちの会話を聞いた。
「細身高身長色白イケメン尊い~~」
「玖堂くんって、見てるだけで興奮する対象だよね……」
「上半身だけでも良いから裸体を拝みたい!」
「早くプールの授業はじまらないかなぁ」
「あわよくば水中で触れ合いたいよね」
……いや、会話内容がエグイんですけど!?
俺はビビりまくった。あの大人しそうな彼女たちの口から、まさか「興奮する」とか「裸体を拝みたい」などといったワードが発せられるとは思わなかった。
プールの授業で、どれだけ玖堂をガン見するつもりなんだろう。というか、触れ合いたいってどういうことだ? ラッキースケベ的なことを狙っているのだろうか。
やはり女子は怖ろしい。彼女たちはもう別枠でもなんでもない。少しでも期待した俺が、阿呆だった……。
彼女たちは「細身高身長色白イケメン」というが、それは間違っている。玖堂は決して細身ではない。普通に筋肉マンだ。着やせするタイプなのだ。
俺は玖堂の裸体を見ているので知っている。数えきれないほど拝んでいる! 芸術品みたいに綺麗な肉体だよ! おまけに美肌だ!
いや、ちょっと待って。この思考がおかしい。どこで優越感を感じているんだ。玖堂の二の腕がムキムキだからって、俺がそれを知っているからって、一体なんだというのだ。
玖堂の腕の感触が、ふいに手のひらによみがえった。
ドキン、と俺の心臓が反応する。心拍数が上がる。俺は感触を消したくて、太ももをパシパシと叩いた。
どれだけ叩いても、太ももが痛いだけだった。なぜだか、手のひらの感触は消えてはくれない。
「宮下? どうしたんだ、足なんて叩いて。虫でもいたのか?」
ふいに名前を呼ばれた。顔を上げると、担任のい青山が困惑した表情で俺を見ていた。
俺は、しゃっきりと姿勢を正した。そして真面目な顔で「なんでもありません」と答えたのだった。
俺は、せっせとアパートの外周をホウキで掃いていた。
住人である俺が、なぜこんなことをしているのかというと。
アパートの大家さんが管理人も兼ねているのだが、かなり高齢なのだ。
そのため、掃除が行き届いていない。見かねた一階の角部屋の住人……湯島さんが自発的に敷地内の掃除を始めた。そのことを知った俺が、当番制を申し出たという経緯だ。
当番制といっても、掃除するメンバーは俺と彼女だけなので、ただ交互に掃除をしているだけなのだが。
ひとまずアパートの外周をきれいにして、俺は「ふう」と息を吐いた。それから、玖堂の部屋を眺める。
「あいつ、ちゃんと起きたかな……」
掃除を開始する前に、俺は玖堂の部屋に行った。
何度か声をかけたのだが、反応はイマイチだった。いつもより起こす時間が早いこともあってか、寝返りをうつばかりで目を覚ましてはくれなかった。
それで仕方なく、目覚まし係の役目は一時中断して、掃除を始めたのだった。
集めたゴミをまとめて、ホウキとちりとりを片付ける。それから階段を駆け上がって、玖堂の部屋に戻った。
「玖堂ーー、起きてるか?」
寝室をのぞくと、玖堂がベッドの上で胡坐をかいていた。
目がしょぼしょぼしている。どうやら起き抜けのようだ。
「あ、ちゃんと起きてた」
「なんか、目がさめた……」
最近、いつもこの時間に玖堂は起きている。というか、俺にムリヤリ起こされている。それで、目が覚めたのだろう。
「えらいえらい」
褒めてやったのに、玖堂はちょっと不服そうだ。じとっとした目で俺を見る。
「何?」
「……起きたとき、宮下がいなかった」
寝起きで機嫌が悪いのだろうか。珍しく、玖堂がふくれっ面だった。
「掃除してたんだよ。ほら、準備して」
ゆるゆるTシャツの裾を持って、ぐいっと上に引っ張り上げる。襟元がだるっとしているおかげで、簡単に脱がすことができる。
最近、気づいたのだ。玖堂が支度するのをただ待っているのではなく、手伝うことで時間短縮できることに……!
気だるげな雰囲気を漂わせる玖堂は、Tシャツ姿でも色気がやばい。それが、ほぼ全裸(パンツ一枚)になるのだがら、正直なところ目のやり場に困る。
視線を逸らしつつ、俺は玖堂の着替えを手伝った。
玖堂が洗面所にいる隙に、トースターでパンを焼き、目玉焼きを作り、コーヒーを淹れる。
俺は、いつの間に世話係になったんだろう……と思わないでもないが、ちょこまかと動いているほうが性に合うので良しとする。
今日も無事に、遅刻することなく登校することが出来た。
教室に入ると、男子たちから「あ、カップルが来た」とか「朝からイチャイチャするなよ~~」という声が上がる。そして一軍女子から睨まれる。すっかり日常の風景になった。
「おはよう。あの、せめて『コンビ』とかにしてくれない? あと、イチャイチャはしてないから……」
無駄だと思いながら、俺は吉沢たちに願い出た。
「OK、委員長」
「了解~~」
彼らは快諾してくれたが、たぶん明日には忘れていると思う。いかんせん調子の良いやつらなのだ。
俺は席に座って、ようやく安堵した。早朝からタスクが多すぎる……。ぐったりしていると、なにやら後ろのほうからヒソヒソと声が聞こえてきた。
声の感じからして、おそらく優等生女子の白石さんと唯川さんだ。
女子には並々ならぬこじらせ感情を抱いている俺だが、彼女たちは別枠だった。真面目で、大人しくて、非モテの俺にも普通に接してくれる。
俺は神経を集中させて、彼女たちの会話を聞いた。
「細身高身長色白イケメン尊い~~」
「玖堂くんって、見てるだけで興奮する対象だよね……」
「上半身だけでも良いから裸体を拝みたい!」
「早くプールの授業はじまらないかなぁ」
「あわよくば水中で触れ合いたいよね」
……いや、会話内容がエグイんですけど!?
俺はビビりまくった。あの大人しそうな彼女たちの口から、まさか「興奮する」とか「裸体を拝みたい」などといったワードが発せられるとは思わなかった。
プールの授業で、どれだけ玖堂をガン見するつもりなんだろう。というか、触れ合いたいってどういうことだ? ラッキースケベ的なことを狙っているのだろうか。
やはり女子は怖ろしい。彼女たちはもう別枠でもなんでもない。少しでも期待した俺が、阿呆だった……。
彼女たちは「細身高身長色白イケメン」というが、それは間違っている。玖堂は決して細身ではない。普通に筋肉マンだ。着やせするタイプなのだ。
俺は玖堂の裸体を見ているので知っている。数えきれないほど拝んでいる! 芸術品みたいに綺麗な肉体だよ! おまけに美肌だ!
いや、ちょっと待って。この思考がおかしい。どこで優越感を感じているんだ。玖堂の二の腕がムキムキだからって、俺がそれを知っているからって、一体なんだというのだ。
玖堂の腕の感触が、ふいに手のひらによみがえった。
ドキン、と俺の心臓が反応する。心拍数が上がる。俺は感触を消したくて、太ももをパシパシと叩いた。
どれだけ叩いても、太ももが痛いだけだった。なぜだか、手のひらの感触は消えてはくれない。
「宮下? どうしたんだ、足なんて叩いて。虫でもいたのか?」
ふいに名前を呼ばれた。顔を上げると、担任のい青山が困惑した表情で俺を見ていた。
俺は、しゃっきりと姿勢を正した。そして真面目な顔で「なんでもありません」と答えたのだった。
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