こじらせ委員長と省エネ男子

みずしま

文字の大きさ
12 / 45
2.省エネ男子になつかれました 

2-4

しおりを挟む
 六月中旬の晴れた朝。

 俺は、せっせとアパートの外周をホウキで掃いていた。

 住人である俺が、なぜこんなことをしているのかというと。

 アパートの大家さんが管理人も兼ねているのだが、かなり高齢なのだ。

 そのため、掃除が行き届いていない。見かねた一階の角部屋の住人……湯島さんが自発的に敷地内の掃除を始めた。そのことを知った俺が、当番制を申し出たという経緯だ。

 当番制といっても、掃除するメンバーは俺と彼女だけなので、ただ交互に掃除をしているだけなのだが。

 ひとまずアパートの外周をきれいにして、俺は「ふう」と息を吐いた。それから、玖堂の部屋を眺める。

「あいつ、ちゃんと起きたかな……」

 掃除を開始する前に、俺は玖堂の部屋に行った。

 何度か声をかけたのだが、反応はイマイチだった。いつもより起こす時間が早いこともあってか、寝返りをうつばかりで目を覚ましてはくれなかった。

 それで仕方なく、目覚まし係の役目は一時中断して、掃除を始めたのだった。

 集めたゴミをまとめて、ホウキとちりとりを片付ける。それから階段を駆け上がって、玖堂の部屋に戻った。

「玖堂ーー、起きてるか?」

 寝室をのぞくと、玖堂がベッドの上で胡坐をかいていた。

 目がしょぼしょぼしている。どうやら起き抜けのようだ。

「あ、ちゃんと起きてた」

「なんか、目がさめた……」

 最近、いつもこの時間に玖堂は起きている。というか、俺にムリヤリ起こされている。それで、目が覚めたのだろう。

「えらいえらい」

 褒めてやったのに、玖堂はちょっと不服そうだ。じとっとした目で俺を見る。

「何?」

「……起きたとき、宮下がいなかった」

 寝起きで機嫌が悪いのだろうか。珍しく、玖堂がふくれっ面だった。

「掃除してたんだよ。ほら、準備して」

 ゆるゆるTシャツの裾を持って、ぐいっと上に引っ張り上げる。襟元がだるっとしているおかげで、簡単に脱がすことができる。

 最近、気づいたのだ。玖堂が支度するのをただ待っているのではなく、手伝うことで時間短縮できることに……!

 気だるげな雰囲気を漂わせる玖堂は、Tシャツ姿でも色気がやばい。それが、ほぼ全裸(パンツ一枚)になるのだがら、正直なところ目のやり場に困る。

 視線を逸らしつつ、俺は玖堂の着替えを手伝った。

 玖堂が洗面所にいる隙に、トースターでパンを焼き、目玉焼きを作り、コーヒーを淹れる。

 俺は、いつの間に世話係になったんだろう……と思わないでもないが、ちょこまかと動いているほうが性に合うので良しとする。

 今日も無事に、遅刻することなく登校することが出来た。

 教室に入ると、男子たちから「あ、カップルが来た」とか「朝からイチャイチャするなよ~~」という声が上がる。そして一軍女子から睨まれる。すっかり日常の風景になった。

「おはよう。あの、せめて『コンビ』とかにしてくれない? あと、イチャイチャはしてないから……」

 無駄だと思いながら、俺は吉沢たちに願い出た。

「OK、委員長」

「了解~~」

 彼らは快諾してくれたが、たぶん明日には忘れていると思う。いかんせん調子の良いやつらなのだ。

 俺は席に座って、ようやく安堵した。早朝からタスクが多すぎる……。ぐったりしていると、なにやら後ろのほうからヒソヒソと声が聞こえてきた。

 声の感じからして、おそらく優等生女子の白石さんと唯川さんだ。

 女子には並々ならぬこじらせ感情を抱いている俺だが、彼女たちは別枠だった。真面目で、大人しくて、非モテの俺にも普通に接してくれる。

 俺は神経を集中させて、彼女たちの会話を聞いた。

「細身高身長色白イケメン尊い~~」

「玖堂くんって、見てるだけで興奮する対象だよね……」

「上半身だけでも良いから裸体を拝みたい!」

「早くプールの授業はじまらないかなぁ」

「あわよくば水中で触れ合いたいよね」

 ……いや、会話内容がエグイんですけど!?

 俺はビビりまくった。あの大人しそうな彼女たちの口から、まさか「興奮する」とか「裸体を拝みたい」などといったワードが発せられるとは思わなかった。

 プールの授業で、どれだけ玖堂をガン見するつもりなんだろう。というか、触れ合いたいってどういうことだ? ラッキースケベ的なことを狙っているのだろうか。

 やはり女子は怖ろしい。彼女たちはもう別枠でもなんでもない。少しでも期待した俺が、阿呆だった……。

 彼女たちは「細身高身長色白イケメン」というが、それは間違っている。玖堂は決して細身ではない。普通に筋肉マンだ。着やせするタイプなのだ。

 俺は玖堂の裸体を見ているので知っている。数えきれないほど拝んでいる! 芸術品みたいに綺麗な肉体だよ! おまけに美肌だ!

 いや、ちょっと待って。この思考がおかしい。どこで優越感を感じているんだ。玖堂の二の腕がムキムキだからって、俺がそれを知っているからって、一体なんだというのだ。

 玖堂の腕の感触が、ふいに手のひらによみがえった。

 ドキン、と俺の心臓が反応する。心拍数が上がる。俺は感触を消したくて、太ももをパシパシと叩いた。

 どれだけ叩いても、太ももが痛いだけだった。なぜだか、手のひらの感触は消えてはくれない。

「宮下? どうしたんだ、足なんて叩いて。虫でもいたのか?」

 ふいに名前を呼ばれた。顔を上げると、担任のい青山が困惑した表情で俺を見ていた。

 俺は、しゃっきりと姿勢を正した。そして真面目な顔で「なんでもありません」と答えたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】君の笑顔を信じたい

加賀ユカリ
BL
恋愛に臆病な受けが、後輩攻めに一途に愛される話。 高校三年生である高森浩太(たかもり こうた)は、自身の忘れ物をきっかけに後輩である瀬川蓮(せがわ れん)と知り合うようになる。 浩太は中学時代、同じ部活の男先輩への失恋により、「自分はもう恋愛なんてしない」と恋愛に臆病になる。一方、後輩である蓮は事あるごとに浩太を積極的に遊びに誘う。 浩太が遠まわしにいくら断っても諦めない蓮に、浩太は次第に自身の恋心を隠せなくなっていく── 攻め:瀬川蓮。高校二年生。爽やかな笑顔の持ち主。 受け:高森浩太。高校三年生。日々勉強に追われる受験生。 ・最終話まで執筆済みです(全36話) ・19時更新

無口なきみの声を聞かせて ~地味で冴えない転校生の正体が大人気メンズアイドルであることを俺だけが知っている~

槿 資紀
BL
 人と少し着眼点がズレていることが密かなコンプレックスである、真面目な高校生、白沢カイリは、クラスの誰も、不自然なくらい気にしない地味な転校生、久瀬瑞葵の正体が、大人気アイドルグループ「ラヴィ」のメインボーカル、ミズキであることに気付く。特徴的で魅力的な声を持つミズキは、頑ななほどに無口を貫いていて、カイリは度々、そんな彼が困っているところをそれとなく助ける毎日を送っていた。  ひょんなことから、そんなミズキに勉強を教えることになったカイリは、それをきっかけに、ミズキとの仲を深めていく。休日も遊びに行くような仲になるも、どうしても、地味な転校生・久瀬の正体に、自分だけは気付いていることが打ち明けられなくて――――。

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる

衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。 男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。 すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。 選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。 二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。 元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。

夜が明けなければいいのに(洋風)

万里
BL
大国の第三皇子・ルシアンは、幼い頃から「王位には縁のない皇子」として育てられてきた。輝く金髪と碧眼を持つその美貌は、まるで人形のように完璧だが、どこか冷ややかで近寄りがたい。 しかしその裏には、誰よりも繊細で、愛されたいと願う幼い心が隠されている。 そんなルシアンに、ある日突然、国の命運を背負う役目が降りかかる。 長年対立してきた隣国との和平の証として、敵国の大公令嬢への婿入り――実質的な“人質”としての政略結婚が正式に決まったのだ。 「名誉ある生贄」。 それが自分に与えられた役割だと、ルシアンは理解していた。 部屋に戻ると、いつものように従者のカイルが静かに迎える。 黒髪の護衛騎士――幼い頃からずっと傍にいてくれた唯一の存在。 本当は、別れが怖くてたまらない。 けれど、その弱さを見せることができない。 「やっとこの退屈な城から出られる。せいせいする」 心にもない言葉を吐き捨てる。 カイルが引き止めてくれることを、どこかで期待しながら。 だがカイルは、いつもと変わらぬ落ち着いた声で告げる。 「……おめでとうございます、殿下」 恭しく頭を下げるその姿は、あまりにも遠い。 その淡々とした態度が、ルシアンの胸に鋭く突き刺さる。 ――おめでとうなんて、言わないでほしかった。 ――本当は、行きたくなんてないのに。 和風と洋風はどちらも大筋は同じようにしようかと。ところどころ違うかもしれませんが。 お楽しみいただければ幸いです。

天の求婚

紅林
BL
太平天帝国では5年ほど前から第一天子と第二天子によって帝位継承争いが勃発していた。 主人公、新田大貴子爵は第二天子派として広く活動していた亡き父の跡を継いで一年前に子爵家を継いだ。しかし、フィラデルフィア合衆国との講和条約を取り付けた第一天子の功績が認められ次期帝位継承者は第一天子となり、派閥争いに負けた第二天子派は継承順位を下げられ、それに付き従った者の中には爵位剥奪のうえ、帝都江流波から追放された華族もいた そして大貴もその例に漏れず、邸宅にて謹慎を申し付けられ現在は華族用の豪華な護送車で大天族の居城へと向かっていた 即位したての政権が安定していない君主と没落寸前の血筋だけは立派な純血華族の複雑な結婚事情を描いた物語

オレに触らないでくれ

mahiro
BL
見た目は可愛くて綺麗なのに動作が男っぽい、宮永煌成(みやなが こうせい)という男に一目惚れした。 見た目に反して声は低いし、細い手足なのかと思いきや筋肉がしっかりとついていた。 宮永の側には幼なじみだという宗方大雅(むなかた たいが)という男が常におり、第三者が近寄りがたい雰囲気が漂っていた。 高校に入学して環境が変わってもそれは変わらなくて。 『漫画みたいな恋がしたい!』という執筆中の作品の登場人物目線のお話です。所々リンクするところが出てくると思います。

殿堂入りした愛なのに

たっぷりチョコ
BL
全寮の中高一貫校に通う、鈴村駆(すずむらかける) 今日からはれて高等部に進学する。 入学式最中、眠い目をこすりながら壇上に上がる特待生を見るなり衝撃が走る。 一生想い続ける。自分に誓った小学校の頃の初恋が今、目の前にーーー。 両片思いの一途すぎる話。BLです。

処理中です...