こじらせ委員長と省エネ男子

みずしま

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2.省エネ男子になつかれました 

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 六月に入った。梅雨入りする前から、関東地方では雨が続いている。

 今日は午後から雨の予報だった。

「傘、持った?」

 俺は、振り返りながら玖堂に確認した。

 玄関にある傘に視線を落とした玖堂は、ゆっくりとそれを手に取る。俺は玖堂の腕に自分の腕を引っかけた。そして、ぐいっと自分のほうに寄せる。

 玖堂をアパートの廊下に引っ張りだし、反対の手で持っていた合鍵を使って施錠した。

「……雨、ふってないけど」

「午後から降るんだよ」

「ふうん」

「忘れ物は?」

「ない……、と思う」

 そう言って、玖堂がうなずく。

 本当かよ、と思いながら俺は歩き出した。俺たちの部屋があるのは、アパートの二階だ。

 階段を使って一階まで降りると、顔見知りの住人と会った。角部屋に住んでいる主婦で、湯島さんという。おそらく年齢は、俺の母親と同じくらいだと思う。

「あら、響くんじゃない」

 タオルで顔を拭いながら、湯島さんが俺に手を振る。日課にしている朝のランニングから、戻ってきたばかりのようだ。

「おはようございます」

「朝から仲良しで良いわね~~」

「え、あっ、その……」

 俺は、慌てて手を引っ込めた。玖堂の腕に、手をまわした状態だったから。 

「いつからなの?」

「へ……?」

 彼女からの問いに、俺は戸惑う。「いつから」というのは、どう解釈すれば良いのだろう。

 まさか「いつから付き合ってるの?」という意味じゃないよな……? 

 あくまでも、友人として仲良くなったのは「いつから?」と確認されていると思いたい。俺があれこれと思考をめぐらせていると、玖堂が口を開いた。

「二週間前からです」

「あら、最近なのね。いつも一緒に登校してるの?」

「はい。毎朝、宮下が起こてくれるので。そのまま学校に行っています」

「まぁ! 毎朝?」

 ちょっと興奮したように、女性が身を乗り出す。

「宮下は、すごくちゃんとしてて早起きなので。それで、朝が弱い俺を起こしてくれるんです」

「まぁーーー!」

 手に持っていたタオルをバタバタしながら、彼女は興奮している。

「仲良しね~~」

「はい。仲はすごく良いです」

「朝から元気になったわ。ありがとう!」

「どういたしまして」

 そう言って、玖堂が丁寧に頭を下げる。

 俺は脱力した。ぜったいに誤解されたと思う。彼女が去ったあと、俺はキッと玖堂を睨んだ。

「ん?」

 視線に気づいたらしい玖堂が、俺を見下ろす。

「あんまり、誤解されそうなこと言うなよ」

 とりあえずクギをさしておく。

「ごかいって?」

「勘違いされそうなことだよ。毎朝、起こしてるとか。仲良しとか……!」

「本当のことだろ。宮下が、俺の目覚まし係だし」

「そうだけど」

「仲も良い」

 そう言って、満足そうに玖堂が笑う。

「……仲、良いのか?」

 恥ずかしながら、親しい友人がいない俺なので基準が分からない。俺と玖堂は、友だちなんだろうか。今の関係は、クラスメイトの域を超えているんだろうか。

「俺と宮下は、仲良しじゃないのか……?」

 玖堂が、この世の終わりみたいな顔をする。

「え、なんでショック受けてんの」

「だって俺と宮下は、毎日こうやって腕を組んで登校してるから……」

「それは、お前が」

 歩くのが遅いからだろ、と言いかけたのだが、玖堂の言葉に遮られた。

「てっきり恋人になったのかとおもった」

「はぁ?」 

 ものすごい衝撃を受けた。

 え、なに言っちゃってんの? 玖堂って、冗談とかいうタイプだったのか……?

「そ、それって、誰と誰の話……?」

 念のため、確認してみる。

「俺と宮下の話だけど」

 他に誰だいるんだ、という顔で玖堂が言う。

「つ、付き合ってないと思うぞ。たぶん……」
 
 恋人になりましょう的なやり取りをした覚えはない。好きだと言われていないし、もちろん言っていない。それらしい文面のメッセージが玖堂から届いたこともない。

「そうなのか」

 玖堂が、しょんぼりと肩を落とす。

「う、うん」

「じゃあ、友だちからはじめる……」

 渋々といった感じで、玖堂がうなずく。 

「は、はじめるって何をだよ!?」

 え、ちょっと待って。いや、ダメだ。色々と問い詰めたいが、このままでは遅刻してしまう。

「とりあえず、学校に行くぞ」

「うん、行こう」

 玖堂は笑顔でうなずいたものの、歩き出す気配はない。

「歩けよ」

「だって、自分であるいたら宮下が引っ張ってくれないもん」

 こいつ……! 確信犯かよ!!

 というか、男子高校生のくせに「もん」とか言うなよ。語尾を跳ね上げるな。

 不本意だが、俺は玖堂の腕を掴んだ。いつものように恋人スタイルになる。

 なんとしても、チャイムが鳴る前に校門をくぐりたい。そのために、俺は玖堂の腕を引きながら、ずんずんと歩き出した。
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