11 / 45
2.省エネ男子になつかれました
2-3
しおりを挟む
六月に入った。梅雨入りする前から、関東地方では雨が続いている。
今日は午後から雨の予報だった。
「傘、持った?」
俺は、振り返りながら玖堂に確認した。
玄関にある傘に視線を落とした玖堂は、ゆっくりとそれを手に取る。俺は玖堂の腕に自分の腕を引っかけた。そして、ぐいっと自分のほうに寄せる。
玖堂をアパートの廊下に引っ張りだし、反対の手で持っていた合鍵を使って施錠した。
「……雨、ふってないけど」
「午後から降るんだよ」
「ふうん」
「忘れ物は?」
「ない……、と思う」
そう言って、玖堂がうなずく。
本当かよ、と思いながら俺は歩き出した。俺たちの部屋があるのは、アパートの二階だ。
階段を使って一階まで降りると、顔見知りの住人と会った。角部屋に住んでいる主婦で、湯島さんという。おそらく年齢は、俺の母親と同じくらいだと思う。
「あら、響くんじゃない」
タオルで顔を拭いながら、湯島さんが俺に手を振る。日課にしている朝のランニングから、戻ってきたばかりのようだ。
「おはようございます」
「朝から仲良しで良いわね~~」
「え、あっ、その……」
俺は、慌てて手を引っ込めた。玖堂の腕に、手をまわした状態だったから。
「いつからなの?」
「へ……?」
彼女からの問いに、俺は戸惑う。「いつから」というのは、どう解釈すれば良いのだろう。
まさか「いつから付き合ってるの?」という意味じゃないよな……?
あくまでも、友人として仲良くなったのは「いつから?」と確認されていると思いたい。俺があれこれと思考をめぐらせていると、玖堂が口を開いた。
「二週間前からです」
「あら、最近なのね。いつも一緒に登校してるの?」
「はい。毎朝、宮下が起こてくれるので。そのまま学校に行っています」
「まぁ! 毎朝?」
ちょっと興奮したように、女性が身を乗り出す。
「宮下は、すごくちゃんとしてて早起きなので。それで、朝が弱い俺を起こしてくれるんです」
「まぁーーー!」
手に持っていたタオルをバタバタしながら、彼女は興奮している。
「仲良しね~~」
「はい。仲はすごく良いです」
「朝から元気になったわ。ありがとう!」
「どういたしまして」
そう言って、玖堂が丁寧に頭を下げる。
俺は脱力した。ぜったいに誤解されたと思う。彼女が去ったあと、俺はキッと玖堂を睨んだ。
「ん?」
視線に気づいたらしい玖堂が、俺を見下ろす。
「あんまり、誤解されそうなこと言うなよ」
とりあえずクギをさしておく。
「ごかいって?」
「勘違いされそうなことだよ。毎朝、起こしてるとか。仲良しとか……!」
「本当のことだろ。宮下が、俺の目覚まし係だし」
「そうだけど」
「仲も良い」
そう言って、満足そうに玖堂が笑う。
「……仲、良いのか?」
恥ずかしながら、親しい友人がいない俺なので基準が分からない。俺と玖堂は、友だちなんだろうか。今の関係は、クラスメイトの域を超えているんだろうか。
「俺と宮下は、仲良しじゃないのか……?」
玖堂が、この世の終わりみたいな顔をする。
「え、なんでショック受けてんの」
「だって俺と宮下は、毎日こうやって腕を組んで登校してるから……」
「それは、お前が」
歩くのが遅いからだろ、と言いかけたのだが、玖堂の言葉に遮られた。
「てっきり恋人になったのかとおもった」
「はぁ?」
ものすごい衝撃を受けた。
え、なに言っちゃってんの? 玖堂って、冗談とかいうタイプだったのか……?
「そ、それって、誰と誰の話……?」
念のため、確認してみる。
「俺と宮下の話だけど」
他に誰だいるんだ、という顔で玖堂が言う。
「つ、付き合ってないと思うぞ。たぶん……」
恋人になりましょう的なやり取りをした覚えはない。好きだと言われていないし、もちろん言っていない。それらしい文面のメッセージが玖堂から届いたこともない。
「そうなのか」
玖堂が、しょんぼりと肩を落とす。
「う、うん」
「じゃあ、友だちからはじめる……」
渋々といった感じで、玖堂がうなずく。
「は、はじめるって何をだよ!?」
え、ちょっと待って。いや、ダメだ。色々と問い詰めたいが、このままでは遅刻してしまう。
「とりあえず、学校に行くぞ」
「うん、行こう」
玖堂は笑顔でうなずいたものの、歩き出す気配はない。
「歩けよ」
「だって、自分であるいたら宮下が引っ張ってくれないもん」
こいつ……! 確信犯かよ!!
というか、男子高校生のくせに「もん」とか言うなよ。語尾を跳ね上げるな。
不本意だが、俺は玖堂の腕を掴んだ。いつものように恋人スタイルになる。
なんとしても、チャイムが鳴る前に校門をくぐりたい。そのために、俺は玖堂の腕を引きながら、ずんずんと歩き出した。
今日は午後から雨の予報だった。
「傘、持った?」
俺は、振り返りながら玖堂に確認した。
玄関にある傘に視線を落とした玖堂は、ゆっくりとそれを手に取る。俺は玖堂の腕に自分の腕を引っかけた。そして、ぐいっと自分のほうに寄せる。
玖堂をアパートの廊下に引っ張りだし、反対の手で持っていた合鍵を使って施錠した。
「……雨、ふってないけど」
「午後から降るんだよ」
「ふうん」
「忘れ物は?」
「ない……、と思う」
そう言って、玖堂がうなずく。
本当かよ、と思いながら俺は歩き出した。俺たちの部屋があるのは、アパートの二階だ。
階段を使って一階まで降りると、顔見知りの住人と会った。角部屋に住んでいる主婦で、湯島さんという。おそらく年齢は、俺の母親と同じくらいだと思う。
「あら、響くんじゃない」
タオルで顔を拭いながら、湯島さんが俺に手を振る。日課にしている朝のランニングから、戻ってきたばかりのようだ。
「おはようございます」
「朝から仲良しで良いわね~~」
「え、あっ、その……」
俺は、慌てて手を引っ込めた。玖堂の腕に、手をまわした状態だったから。
「いつからなの?」
「へ……?」
彼女からの問いに、俺は戸惑う。「いつから」というのは、どう解釈すれば良いのだろう。
まさか「いつから付き合ってるの?」という意味じゃないよな……?
あくまでも、友人として仲良くなったのは「いつから?」と確認されていると思いたい。俺があれこれと思考をめぐらせていると、玖堂が口を開いた。
「二週間前からです」
「あら、最近なのね。いつも一緒に登校してるの?」
「はい。毎朝、宮下が起こてくれるので。そのまま学校に行っています」
「まぁ! 毎朝?」
ちょっと興奮したように、女性が身を乗り出す。
「宮下は、すごくちゃんとしてて早起きなので。それで、朝が弱い俺を起こしてくれるんです」
「まぁーーー!」
手に持っていたタオルをバタバタしながら、彼女は興奮している。
「仲良しね~~」
「はい。仲はすごく良いです」
「朝から元気になったわ。ありがとう!」
「どういたしまして」
そう言って、玖堂が丁寧に頭を下げる。
俺は脱力した。ぜったいに誤解されたと思う。彼女が去ったあと、俺はキッと玖堂を睨んだ。
「ん?」
視線に気づいたらしい玖堂が、俺を見下ろす。
「あんまり、誤解されそうなこと言うなよ」
とりあえずクギをさしておく。
「ごかいって?」
「勘違いされそうなことだよ。毎朝、起こしてるとか。仲良しとか……!」
「本当のことだろ。宮下が、俺の目覚まし係だし」
「そうだけど」
「仲も良い」
そう言って、満足そうに玖堂が笑う。
「……仲、良いのか?」
恥ずかしながら、親しい友人がいない俺なので基準が分からない。俺と玖堂は、友だちなんだろうか。今の関係は、クラスメイトの域を超えているんだろうか。
「俺と宮下は、仲良しじゃないのか……?」
玖堂が、この世の終わりみたいな顔をする。
「え、なんでショック受けてんの」
「だって俺と宮下は、毎日こうやって腕を組んで登校してるから……」
「それは、お前が」
歩くのが遅いからだろ、と言いかけたのだが、玖堂の言葉に遮られた。
「てっきり恋人になったのかとおもった」
「はぁ?」
ものすごい衝撃を受けた。
え、なに言っちゃってんの? 玖堂って、冗談とかいうタイプだったのか……?
「そ、それって、誰と誰の話……?」
念のため、確認してみる。
「俺と宮下の話だけど」
他に誰だいるんだ、という顔で玖堂が言う。
「つ、付き合ってないと思うぞ。たぶん……」
恋人になりましょう的なやり取りをした覚えはない。好きだと言われていないし、もちろん言っていない。それらしい文面のメッセージが玖堂から届いたこともない。
「そうなのか」
玖堂が、しょんぼりと肩を落とす。
「う、うん」
「じゃあ、友だちからはじめる……」
渋々といった感じで、玖堂がうなずく。
「は、はじめるって何をだよ!?」
え、ちょっと待って。いや、ダメだ。色々と問い詰めたいが、このままでは遅刻してしまう。
「とりあえず、学校に行くぞ」
「うん、行こう」
玖堂は笑顔でうなずいたものの、歩き出す気配はない。
「歩けよ」
「だって、自分であるいたら宮下が引っ張ってくれないもん」
こいつ……! 確信犯かよ!!
というか、男子高校生のくせに「もん」とか言うなよ。語尾を跳ね上げるな。
不本意だが、俺は玖堂の腕を掴んだ。いつものように恋人スタイルになる。
なんとしても、チャイムが鳴る前に校門をくぐりたい。そのために、俺は玖堂の腕を引きながら、ずんずんと歩き出した。
27
あなたにおすすめの小説
【完結】君の笑顔を信じたい
加賀ユカリ
BL
恋愛に臆病な受けが、後輩攻めに一途に愛される話。
高校三年生である高森浩太(たかもり こうた)は、自身の忘れ物をきっかけに後輩である瀬川蓮(せがわ れん)と知り合うようになる。
浩太は中学時代、同じ部活の男先輩への失恋により、「自分はもう恋愛なんてしない」と恋愛に臆病になる。一方、後輩である蓮は事あるごとに浩太を積極的に遊びに誘う。
浩太が遠まわしにいくら断っても諦めない蓮に、浩太は次第に自身の恋心を隠せなくなっていく──
攻め:瀬川蓮。高校二年生。爽やかな笑顔の持ち主。
受け:高森浩太。高校三年生。日々勉強に追われる受験生。
・最終話まで執筆済みです(全36話)
・19時更新
無口なきみの声を聞かせて ~地味で冴えない転校生の正体が大人気メンズアイドルであることを俺だけが知っている~
槿 資紀
BL
人と少し着眼点がズレていることが密かなコンプレックスである、真面目な高校生、白沢カイリは、クラスの誰も、不自然なくらい気にしない地味な転校生、久瀬瑞葵の正体が、大人気アイドルグループ「ラヴィ」のメインボーカル、ミズキであることに気付く。特徴的で魅力的な声を持つミズキは、頑ななほどに無口を貫いていて、カイリは度々、そんな彼が困っているところをそれとなく助ける毎日を送っていた。
ひょんなことから、そんなミズキに勉強を教えることになったカイリは、それをきっかけに、ミズキとの仲を深めていく。休日も遊びに行くような仲になるも、どうしても、地味な転校生・久瀬の正体に、自分だけは気付いていることが打ち明けられなくて――――。
殿堂入りした愛なのに
たっぷりチョコ
BL
全寮の中高一貫校に通う、鈴村駆(すずむらかける)
今日からはれて高等部に進学する。
入学式最中、眠い目をこすりながら壇上に上がる特待生を見るなり衝撃が走る。
一生想い続ける。自分に誓った小学校の頃の初恋が今、目の前にーーー。
両片思いの一途すぎる話。BLです。
サークル合宿に飛び入り参加した犬系年下イケメン(実は高校生)になぜか執着されてる話【※更新お休み中/再開未定】
日向汐
BL
「来ちゃった」
「いやお前誰だよ」
一途な犬系イケメン高校生(+やたらイケメンなサークルメンバー)×無愛想平凡大学生のピュアなラブストーリー♡(に、なる予定)
𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄
♡やお気に入り登録、しおり挟んで追ってくださるのも、全部全部ありがとうございます…!すごく励みになります!! ( ߹ᯅ߹ )✨
おかげさまで、なんとか合宿編は終わりそうです。
次の目標は、教育実習・文化祭編までたどり着くこと…、、
𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄
総愛され書くのは初めてですが、全員キスまではする…予定です。
皆さんがどのキャラを気に入ってくださるか、ワクワクしながら書いてます😊
(教えてもらえたらテンション上がります)
𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄
⚠︎書きながら展開を考えていくので、途中で何度も加筆修正が入ると思います。
タイトルも仮ですし、不定期更新です。
下書きみたいなお話ですみません💦
𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄
透きとおる泉
小貝川リン子
BL
生まれる前に父を亡くした泉。母の再婚により、透という弟ができる。同い年ながらも、透の兄として振る舞う泉。二人は仲の良い兄弟だった。
ある年の夏、家族でキャンプに出かける。そこで起きたとある事故により、泉と透は心身に深い傷を負う。互いに相手に対して責任を感じる二人。そのことが原因の一端となり、大喧嘩をしてしまう。それ以降、まともに口も利いていない。
高校生になった今でも、兄弟仲は冷え切ったままだ。
My heart in your hand.
津秋
BL
冷静で公平と評される風紀委員長の三年生と、排他的で顔も性格もキツめな一年生がゆっくり距離を縮めて、お互いが特別な人になっていく話。自サイトからの転載です。
月曜9時の恋人 ――上司と部下のリモート勤務録
斎宮たまき/斎宮環
BL
「おはようございます」から始まる恋がある。
在宅勤務の上司と部下、画面越しに重なっていく生活音と沈黙。
誰もいない夜、切り忘れたマイクから漏れた吐息が、心の距離を壊していく。
社会的距離が恋の導火線になる――
静かな温度で燃える、現代オフィスBLの新形。
バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる
衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。
男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。
すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。
選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。
二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。
元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる