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2.省エネ男子になつかれました
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学校からの帰り道、俺はスーパーに寄った。
ちなみに玖堂はバイト先に直行した。働き者だなと思いながら、カゴを手に取る。
今日は焼き魚が食べたい気分だった。鮮魚コーナーで「おすすめ」のシールが貼られた銀だらに目を付ける。
銀だらのパックを掴みかけたのだが、思いとどまった。かわりにアジをカゴに入れる。玖堂は焼くより揚げるほうが好みなのだ。
今日のメインは、アジフライにする。
味噌汁の具は豆腐と油揚げ……いや、アジをフライにするから油揚げはやめておこう。もう少しさっぱりしたもの、うん、ワカメに決めた。
アジフライには千切りキャベツがマストなので、半玉になったキャベツをカゴに追加する。
昨日作った筑前煮が残っているので、それを副菜にしよう。あと一品、何か欲しいなと思いながら店内を物色する。トマトとアボカドが安くなっているのを発見して、俺は手に取った。
レモンと醤油、砂糖、オリーブオイル。これで和えると美味しいのだ。無事に献立が決まったので、俺は意気揚々と会計を済ませた。こんな風に、ビシッとメニューが決まると気分が良い。
クラスメイトに話しても、共感してもらえないと思う。あまりにも所帯じみている。主婦である湯島さんなら、分かってくれるかもしれない。そんなことを考えながら、俺は鼻歌まじりに店を出た。
その日の夕食どき。
俺の向かいの席で、玖堂が美味しそうにアジフライを頬張っている。
実は、俺は油っこいものが得意ではない。若者のはずなのに体が揚げ物を歓迎しないのだ。そのくせ、こうやって玖堂の好物を作っている俺……。
「俺って、マジで玖堂の『お母さん』かもなぁ」
そうつぶやきながら、俺は大皿から一番小さなアジフライを選んで自分の茶碗にのせた。もそもそと口に入れる。
「あ、うま」
サクサクに揚がっている。食べるときは美味しいと感じるのだが、翌日は問題なのだ。
朝、胃がもたれていたら嫌だなと思いながら俺はふたつめのアジフライに箸を伸ばした。
ふいに視線を感じて顔を上げる。バチッと目が合った。玖堂が俺をガン見している。
「な、何……?」
「今日も美味しいよ」
にっこりと玖堂が笑う。
初めて玖堂の部屋でカレーを作ってから二週間。あの日以来、玖堂は「美味しい」と感想を述べるようになった。
「はいはい」
なんだか照れくさいので、適当にあしらう。イケメンをあしらうモブ。なんという不可思議な構図だろう。
あ、そういえば。イケメンといったら……。
「玖堂のバイト先って、いけすかない花屋だよな」
俺はアジフライを口に入れながら、正面にいる玖堂を見た。
「……いけすかないって、どういうこと?」
きょとんとした顔で、玖堂が首をかしげる。
「だって、おしゃれの気合が入り過ぎているじゃん」
店に並んでいる花が、どれもこれも高飛車なのだ。庶民的なひまわりとかチューリップとか、そういう花ではなく、やたら鼻持ちならない高級そうな花が店内に鎮座している。どうもいけ好かない。俺とは相容れない。
いや、もちろんひまわりもチューリップも売っているのだが、かなり気取っているのだ。
品種改良したのか何なのか知らないが、花びらがギザギザになっているチューリップだったり、見たこともない色をしたひまわりだったり。意識高い系なのか知らないが嫌味に感じる。
他にも、花なのか草なのか判別のつかない商品や、木の枝としか思えない代物も売っている。そしてやたら高額だった。たかが木の枝のくせに一本で千円近いなんて、ケンカを売っているとしか思えない。
そして、店内を観察して気づいたのだが、やたら顔面偏差値の高いスタッフたちが揃っているのだ。
玖堂を筆頭に、趣の違うイケメンたちが接客をしている。
メガネ男子、爽やかスポーツマン、ホスト風の色男、等々。
「……まぁ、いけすかないは、ちょっと言い過ぎかかもだけど。でも、やたらイケメンが揃ってるじゃん?」
「そうかな」
そうだよ。どこに目を付けてるんだよ。
「もちろん、玖堂がいちばんイケメンだと思うよ? でもさ、あれはやり過ぎだよ。美形スタッフを取り揃えております的な感じだもん」
俺は店の経営方針に物申しているのであって、決して美形男子を僻んでいるわけではない。断じてない。
「みにきたの?」
「え」
玖堂に問われて、俺は我に返った。
あ、やばい。バレる。しっかりじっくり観察していたことがバレる。
「んぐっ、ごほっ、ぐ、ぐうぜん。そう、偶然通りかかって。コインランドリーに行ったんだよ。ほら、最近は雨ばっかりだろ? それで、服が乾かなくて。その帰りに、店の前を通りかかったわけ」
俺はむせながら、なんとが誤魔化そうとした。
「コインランドリーは、駅の反対側だけど」
おい、玖堂くんよ。なんでこういうときだけ冴えてるんだよ。いつもは、ボケッとしてるくせに。
「いや、その……」
ダメだ。白状するしかない。
「ちょっと、気になって。玖堂が働いてるところ、見たくなったんだよ」
俺は俯いて、モゴモゴと打ち明けた。
「ふうん」
「……怒ってる?」
ビクビクしながら、アジフライを咀嚼した。なんとなく味がしない。
「なんで」
「勝手に、見に行ったから……」
「怒ってないよ。いつまでいたのかなと思って」
「いつまでって……。夕方だけど」
「そっか」
玖堂がひとりで納得している。いつものように飄々とした表情だった。
「……どういうこと?」
「もうちょっと遅い時間だったら、いっしょに帰れたのになっておもっただけ」
そう言って、玖堂が味噌汁をすする。
「あ、そう」
「うん」
「なんか、それって……」
恋人みたいだな、と思った。ほんのちょっと言いかけたけど、寸でのところで口をつぐんだ。
冗談でも「恋人」というワードを言ったら、やばい気がした。顔が赤くなりそうで、俺は俯いたままアジフライを飲み込んだ。
ちなみに玖堂はバイト先に直行した。働き者だなと思いながら、カゴを手に取る。
今日は焼き魚が食べたい気分だった。鮮魚コーナーで「おすすめ」のシールが貼られた銀だらに目を付ける。
銀だらのパックを掴みかけたのだが、思いとどまった。かわりにアジをカゴに入れる。玖堂は焼くより揚げるほうが好みなのだ。
今日のメインは、アジフライにする。
味噌汁の具は豆腐と油揚げ……いや、アジをフライにするから油揚げはやめておこう。もう少しさっぱりしたもの、うん、ワカメに決めた。
アジフライには千切りキャベツがマストなので、半玉になったキャベツをカゴに追加する。
昨日作った筑前煮が残っているので、それを副菜にしよう。あと一品、何か欲しいなと思いながら店内を物色する。トマトとアボカドが安くなっているのを発見して、俺は手に取った。
レモンと醤油、砂糖、オリーブオイル。これで和えると美味しいのだ。無事に献立が決まったので、俺は意気揚々と会計を済ませた。こんな風に、ビシッとメニューが決まると気分が良い。
クラスメイトに話しても、共感してもらえないと思う。あまりにも所帯じみている。主婦である湯島さんなら、分かってくれるかもしれない。そんなことを考えながら、俺は鼻歌まじりに店を出た。
その日の夕食どき。
俺の向かいの席で、玖堂が美味しそうにアジフライを頬張っている。
実は、俺は油っこいものが得意ではない。若者のはずなのに体が揚げ物を歓迎しないのだ。そのくせ、こうやって玖堂の好物を作っている俺……。
「俺って、マジで玖堂の『お母さん』かもなぁ」
そうつぶやきながら、俺は大皿から一番小さなアジフライを選んで自分の茶碗にのせた。もそもそと口に入れる。
「あ、うま」
サクサクに揚がっている。食べるときは美味しいと感じるのだが、翌日は問題なのだ。
朝、胃がもたれていたら嫌だなと思いながら俺はふたつめのアジフライに箸を伸ばした。
ふいに視線を感じて顔を上げる。バチッと目が合った。玖堂が俺をガン見している。
「な、何……?」
「今日も美味しいよ」
にっこりと玖堂が笑う。
初めて玖堂の部屋でカレーを作ってから二週間。あの日以来、玖堂は「美味しい」と感想を述べるようになった。
「はいはい」
なんだか照れくさいので、適当にあしらう。イケメンをあしらうモブ。なんという不可思議な構図だろう。
あ、そういえば。イケメンといったら……。
「玖堂のバイト先って、いけすかない花屋だよな」
俺はアジフライを口に入れながら、正面にいる玖堂を見た。
「……いけすかないって、どういうこと?」
きょとんとした顔で、玖堂が首をかしげる。
「だって、おしゃれの気合が入り過ぎているじゃん」
店に並んでいる花が、どれもこれも高飛車なのだ。庶民的なひまわりとかチューリップとか、そういう花ではなく、やたら鼻持ちならない高級そうな花が店内に鎮座している。どうもいけ好かない。俺とは相容れない。
いや、もちろんひまわりもチューリップも売っているのだが、かなり気取っているのだ。
品種改良したのか何なのか知らないが、花びらがギザギザになっているチューリップだったり、見たこともない色をしたひまわりだったり。意識高い系なのか知らないが嫌味に感じる。
他にも、花なのか草なのか判別のつかない商品や、木の枝としか思えない代物も売っている。そしてやたら高額だった。たかが木の枝のくせに一本で千円近いなんて、ケンカを売っているとしか思えない。
そして、店内を観察して気づいたのだが、やたら顔面偏差値の高いスタッフたちが揃っているのだ。
玖堂を筆頭に、趣の違うイケメンたちが接客をしている。
メガネ男子、爽やかスポーツマン、ホスト風の色男、等々。
「……まぁ、いけすかないは、ちょっと言い過ぎかかもだけど。でも、やたらイケメンが揃ってるじゃん?」
「そうかな」
そうだよ。どこに目を付けてるんだよ。
「もちろん、玖堂がいちばんイケメンだと思うよ? でもさ、あれはやり過ぎだよ。美形スタッフを取り揃えております的な感じだもん」
俺は店の経営方針に物申しているのであって、決して美形男子を僻んでいるわけではない。断じてない。
「みにきたの?」
「え」
玖堂に問われて、俺は我に返った。
あ、やばい。バレる。しっかりじっくり観察していたことがバレる。
「んぐっ、ごほっ、ぐ、ぐうぜん。そう、偶然通りかかって。コインランドリーに行ったんだよ。ほら、最近は雨ばっかりだろ? それで、服が乾かなくて。その帰りに、店の前を通りかかったわけ」
俺はむせながら、なんとが誤魔化そうとした。
「コインランドリーは、駅の反対側だけど」
おい、玖堂くんよ。なんでこういうときだけ冴えてるんだよ。いつもは、ボケッとしてるくせに。
「いや、その……」
ダメだ。白状するしかない。
「ちょっと、気になって。玖堂が働いてるところ、見たくなったんだよ」
俺は俯いて、モゴモゴと打ち明けた。
「ふうん」
「……怒ってる?」
ビクビクしながら、アジフライを咀嚼した。なんとなく味がしない。
「なんで」
「勝手に、見に行ったから……」
「怒ってないよ。いつまでいたのかなと思って」
「いつまでって……。夕方だけど」
「そっか」
玖堂がひとりで納得している。いつものように飄々とした表情だった。
「……どういうこと?」
「もうちょっと遅い時間だったら、いっしょに帰れたのになっておもっただけ」
そう言って、玖堂が味噌汁をすする。
「あ、そう」
「うん」
「なんか、それって……」
恋人みたいだな、と思った。ほんのちょっと言いかけたけど、寸でのところで口をつぐんだ。
冗談でも「恋人」というワードを言ったら、やばい気がした。顔が赤くなりそうで、俺は俯いたままアジフライを飲み込んだ。
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