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3.いくらなんでもギャップがあり過ぎです
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玖堂は、普通に戦力になっている。
考えてみれば当然かもしれない。玖堂は、フラワーショップの店員として業務をこなしている。それに、こう見えて実はテストの点は悪くないのだ。
朝寝坊したり、着替えるのがゆっくりだったり、ぼけっとしていることが多かったり。
玖堂のダメなところを日々、俺は目にしている。なのですっかり「ダメな子」認定してしまっていた。
……本当は、俺なんかいなくても玖堂は大丈夫なんじゃないか?
急に心許ない気分になった。置いていかれたような。
置いていかれる……?
そう思ったとき、スッと胸の奥が冷えた。
ザワザワとした不快感が体の中から湧き上がってくる。
俺の手が止まったことに気づいたのか、玖堂が顔を上げる。
「宮下……?」
名前を呼ばれた俺は「なんでもないよ」と首を振った。
作業を再開して、笑顔で取り繕う。ホッチキスで、バチン、とやったときに違和感を感じた。
一瞬の間を置いて、指先がじくじくと痛みだす。
目を凝らすと、ホッチキスの針が左手の人差し指に刺さっていた。
どうやら目測を誤ったらしい。
針を取ろうとしたところで、玖堂の「ストップ!」という鋭い声が飛んだ。
「保健室に行こう」
「え、いや……」
それは、さすがに大げさだと思う。
「あらら、刺さっちゃったかーー」
青山が立ち上がり、俺の手元をのぞき込んでくる。
「消毒してもらってきます」
玖堂が、青山に宣言する。
「おう」
青山がうなずく。
俺は、玖堂に腕を引かれた。
「えっと、保健室にはひとりで行けるから……」
ちょっと抵抗してみたけど、玖堂には無視された。有無を言わせない感じだ。
「いつも玖堂の世話してるんだからさーー、たまには逆もアリじゃないか?」
青山の言葉に、玖堂が「俺もそうおもいます」とうなずく。
二対一なので勝ち目はない。
俺は仕方なく、玖堂に連れられて保健室に向かった。
教室を出て廊下を歩く。玖堂が俺の腕をがっちりと掴んでいる。
放課後の校舎は、しんと静まり返っている。窓の外から、かすかに蝉の声が聞こえる。
俺は、自分の少し先を歩く玖堂の背中を眺めた。
「……なんか、普段と逆だな」
いつもは、俺が玖堂の手を引いて歩いている。
「そうだね。……いたい?」
玖堂が、振り返って俺に問う。
「ぜんぜん。だって、血も出てないし……」
そう言って、指先を確認すると。
「あ、ちょっと出てる」
最初見たときは、皮膚に針が食い込んでいるだけだと思ったのに。
「ちゃんと、消毒してもらおう」
そう言って、玖堂が保健室の扉を開けた。
「……あれ、先生がいない」
玖堂に続いて、俺の保健室に入る。
消毒液の匂いのする部屋をぐるりと見回した。玖堂のいう通り、養護教諭の姿はなかった。
「仕方ないな。ちょっと待ってみるか」
そう言って俺は、備品や薬品らしきものが収納された棚に視線をやった。
「宮下、こっち。早く消毒しないと」
室内をうろついく俺に、玖堂が手招きをする。そして、ちょっとだけ強引に俺を丸椅子に座らせる。
「保健室に置いてあるもの、勝手に触っていいのかよ」
「大丈夫」
何を根拠に言っているのだ。
「じゃあ、今から俺が保健の先生やるから」
ごっこ遊びでも始まるのかと思った。ピンセットを持った玖堂の顔は、真剣そのものだったけど。
慎重な手つきで、俺の指先に刺さったホッチキスの針を抜く。
針が皮膚に引っかかって、少し痛んだ。
わずかに眉を顰めた俺を見て、玖堂が「いたかった?」と確認してくる。
「ちょっとだけ。平気だよ」
「次は消毒するから」
「うん」
「また、いたむかも」
「いいよ」
消毒液が指先に垂らされる。
やっぱり、ちょっと痛い。
「先生、ちょっと痛いです」
俺がふざけたように言うと、玖堂がきょとんとした顔になる。
それから、ふふっと笑った。
かと思えば、急に真面目な顔になる。
「宮下は、先生がすきなの?」
「え? 先生?」
意味が分からず、俺は首をかしげる。
「青山先生のこと」
玖堂が、まっすぐに俺を見据える。
いつもは、ぼけっとした顔なのに。今は、信じられないくらいに真剣な表情だ。
「青山って……、まぁ、嫌いじゃないけど」
ヘラヘラとした担任の顔を思い浮かべる。
いい加減で、調子が良くて、すぐに生徒を頼りする。正直なところ「いかがなものか」と思わないでもない。
でも、頑張ったら褒めてくれるし……。そういう意味で、俺は担任のことが嫌いではない。
考えてみれば当然かもしれない。玖堂は、フラワーショップの店員として業務をこなしている。それに、こう見えて実はテストの点は悪くないのだ。
朝寝坊したり、着替えるのがゆっくりだったり、ぼけっとしていることが多かったり。
玖堂のダメなところを日々、俺は目にしている。なのですっかり「ダメな子」認定してしまっていた。
……本当は、俺なんかいなくても玖堂は大丈夫なんじゃないか?
急に心許ない気分になった。置いていかれたような。
置いていかれる……?
そう思ったとき、スッと胸の奥が冷えた。
ザワザワとした不快感が体の中から湧き上がってくる。
俺の手が止まったことに気づいたのか、玖堂が顔を上げる。
「宮下……?」
名前を呼ばれた俺は「なんでもないよ」と首を振った。
作業を再開して、笑顔で取り繕う。ホッチキスで、バチン、とやったときに違和感を感じた。
一瞬の間を置いて、指先がじくじくと痛みだす。
目を凝らすと、ホッチキスの針が左手の人差し指に刺さっていた。
どうやら目測を誤ったらしい。
針を取ろうとしたところで、玖堂の「ストップ!」という鋭い声が飛んだ。
「保健室に行こう」
「え、いや……」
それは、さすがに大げさだと思う。
「あらら、刺さっちゃったかーー」
青山が立ち上がり、俺の手元をのぞき込んでくる。
「消毒してもらってきます」
玖堂が、青山に宣言する。
「おう」
青山がうなずく。
俺は、玖堂に腕を引かれた。
「えっと、保健室にはひとりで行けるから……」
ちょっと抵抗してみたけど、玖堂には無視された。有無を言わせない感じだ。
「いつも玖堂の世話してるんだからさーー、たまには逆もアリじゃないか?」
青山の言葉に、玖堂が「俺もそうおもいます」とうなずく。
二対一なので勝ち目はない。
俺は仕方なく、玖堂に連れられて保健室に向かった。
教室を出て廊下を歩く。玖堂が俺の腕をがっちりと掴んでいる。
放課後の校舎は、しんと静まり返っている。窓の外から、かすかに蝉の声が聞こえる。
俺は、自分の少し先を歩く玖堂の背中を眺めた。
「……なんか、普段と逆だな」
いつもは、俺が玖堂の手を引いて歩いている。
「そうだね。……いたい?」
玖堂が、振り返って俺に問う。
「ぜんぜん。だって、血も出てないし……」
そう言って、指先を確認すると。
「あ、ちょっと出てる」
最初見たときは、皮膚に針が食い込んでいるだけだと思ったのに。
「ちゃんと、消毒してもらおう」
そう言って、玖堂が保健室の扉を開けた。
「……あれ、先生がいない」
玖堂に続いて、俺の保健室に入る。
消毒液の匂いのする部屋をぐるりと見回した。玖堂のいう通り、養護教諭の姿はなかった。
「仕方ないな。ちょっと待ってみるか」
そう言って俺は、備品や薬品らしきものが収納された棚に視線をやった。
「宮下、こっち。早く消毒しないと」
室内をうろついく俺に、玖堂が手招きをする。そして、ちょっとだけ強引に俺を丸椅子に座らせる。
「保健室に置いてあるもの、勝手に触っていいのかよ」
「大丈夫」
何を根拠に言っているのだ。
「じゃあ、今から俺が保健の先生やるから」
ごっこ遊びでも始まるのかと思った。ピンセットを持った玖堂の顔は、真剣そのものだったけど。
慎重な手つきで、俺の指先に刺さったホッチキスの針を抜く。
針が皮膚に引っかかって、少し痛んだ。
わずかに眉を顰めた俺を見て、玖堂が「いたかった?」と確認してくる。
「ちょっとだけ。平気だよ」
「次は消毒するから」
「うん」
「また、いたむかも」
「いいよ」
消毒液が指先に垂らされる。
やっぱり、ちょっと痛い。
「先生、ちょっと痛いです」
俺がふざけたように言うと、玖堂がきょとんとした顔になる。
それから、ふふっと笑った。
かと思えば、急に真面目な顔になる。
「宮下は、先生がすきなの?」
「え? 先生?」
意味が分からず、俺は首をかしげる。
「青山先生のこと」
玖堂が、まっすぐに俺を見据える。
いつもは、ぼけっとした顔なのに。今は、信じられないくらいに真剣な表情だ。
「青山って……、まぁ、嫌いじゃないけど」
ヘラヘラとした担任の顔を思い浮かべる。
いい加減で、調子が良くて、すぐに生徒を頼りする。正直なところ「いかがなものか」と思わないでもない。
でも、頑張ったら褒めてくれるし……。そういう意味で、俺は担任のことが嫌いではない。
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