こじらせ委員長と省エネ男子

みずしま

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3.いくらなんでもギャップがあり過ぎです

3-2

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 その日の放課後。

 俺は担任の手伝いをするため、ひとり教室に残っていた。

 教室の前方の扉が勢いよく開き、一軍女子がぞろぞろと入ってくる。俺は、あっという間に取り囲まれてしまった。

 さっそく嫌な予感が的中したことを悟る。

「な、何か用……?」

 通常よりかなり多めに瞬きをしながら、彼女たちに問う。

「委員長って、マジで玖堂くんと付き合ってないわけ?」

 一軍女子のリーダー的存在である新田さんが口を開いた。

 俺は、こくこくと首を振る。

「付き合ってない」

「これから、付き合う予定は?」

 圧をかけられる。バシッと決まったメイクの顔面は強力だ。盛り過ぎな睫毛には、他人を威圧する戦闘力が備わっていると思う。

「そ、そんなものは……」

 あるわけない、と言いかけたが玖堂の「友だちからはじめる」という言葉が頭をよぎった。

「委員長」

 低い声にビクリとする。

「は、はい」

「否定しないの?」

「み、未来のことは分からないから……」

 俺は預言者でも超能力者でもない。なので、未来のことは分からない。うん。間違ったことは言っていない。

 もちろん、それで彼女たちが納得するはずもなく……。

 背中に嫌な汗を感じる。ビビりまくっていると、再び前方の扉が開いた。助かった、青山が来た! と、思ったんだけど。

 教室に入って来たのは、まさかの玖堂だった。

「みんなで、なにしてるの」

 玖堂が、こちらに近づいてくる。

 そして、一軍女子たちを見下ろす。ゆっくりと髪をかき上げる。

 悠然とした態度に、新田さんをはじめ一軍女子たちはちょっと怯んだ顔を見せる。

 しかし、俺には分かる。今の玖堂は何も考えていない。なぜなら、いつものぼけっとした顔だから。

 モブを助けに来たヒーローに見えるかもしれないが、ぜったいに玖堂は何も考えていない。断言してもいい。

「なにしてるのって、聞いてるんだけど?」

 玖堂の低い声が、静まり返った教室に響いた。

 これも、決して圧をかけているのではなく。単純に疑問だから、確認しているだけだ。

 けれども、女子たちは勘違いしたのか逃げるように教室を飛び出して行った。

 ぼけーーっとした顔の玖堂が、パチパチと瞬きをする。

「なんだったんだろう……?」

 そう言って、ゆっくりと首をかしげる。

 ほら、やっぱりな。何も考えていない。

 自分の予想が当たって、俺は苦笑いした。

「玖堂こそ、どうしたんだよ」

 とっくに帰ったと思ったのに。

「宮下が残ってるから」

「もしかして、俺のこと待ってるつもり?」

「うん」

 自分の席から、玖堂が椅子を持ってきた。どうやら本当に待つつもりみたいだ。

「たぶん、小一時間か……もしかしたら、それ以上かかるかもしれないぞ」

 昼休み、玖堂は「早く帰りたい」と駄々をこねていた。そのことを思い出して、俺は忠告した。

「俺も手伝うよ。そうしたら、早くおわるでしょ」

 そう言って玖堂は、にこにこと笑った。

 失礼ながら、戦力になるんだろうかと疑ってしまった。いや、いないよりはマシか……。そんなことを考えていたら、青山がやって来た。

「悪い、遅くなった~~。職員会議があるのを忘れてて……」

 まったく悪びれる様子もなく、青山がプリントをどさりと机に置く。

「これをまとめるんですか?」

「そう、五部ずつ」

「分かりました」

 さっそく、俺はプリントに手を伸ばした。

「今日は助っ人もいるのか~~」

 玖堂を見ながら、青山が満足そうにうなずく。

「助っ人になるかは分かりませんが、とりあえず頭数が増えたことは事実です」

「がんばります」

 俺に失礼なことを言われているのに、気にした様子もなく玖堂が参加表明をする。

「玖堂は良い子だなーー」

 青山がうれしそうに、玖堂を見る。

 その言葉にカチンときた。

 俺はいつも手伝ってるのに。俺のほうが、ぜったいに良い子なのに。

「遅刻することもなくなったし、先生はうれしいぞ~~」

 さらにムカッとする。俺のおかげなのに。俺が毎朝、玖堂の目覚まし担当として奮闘しているから……。

 胸の辺りに不快感を覚えながら、サクサクと作業を進める。長年に渡って表情筋を鍛えてきたので、こんなときでも俺は「なんでもありません」という顔ができる。

 ホッチキスのバチン、という音と感触がストレス発散になることに気づいて、俺は率先してホッチキス係になった。

 バチン、バチン、と力を込めながらプリントを綴じる。

 狙った場所に、ホッチキスの針がいくように集中する。

 バチン、バチン、と繰り返していると、ちょっと冷静さを取り戻した。

 自分は一体、どれだけ褒められたいんだ……。

 ちらりと視線を上げる。玖堂は、ぽやぽやした顔でプリントの束を作っている。青山もご機嫌だ。

 和やかに作業をすすめる二人を見ながら、俺はひとり自己嫌悪に陥っていた。
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