こじらせ委員長と省エネ男子

みずしま

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3.いくらなんでもギャップがあり過ぎです

3-5

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 玄関の扉を閉めて、俺は大きくため息を吐いた。そのまま、腰が抜けたみたいにズルズルと座り込む。

 まだ、心臓がおかしな速さで動いている。通常営業に戻るまでは、まだ時間がかかりそうだった。

 あの後、保険室を出てから一度教室に戻った。スクールバッグを取るためだ。

 玖堂はバイトのシフトが入っていたようで、途中で別れた。

 俺はのろのろと立ち上がり、私服に着替えた。いつものように勉強机に座ったものの、頭がぼうっとして集中できなかった。

 玖堂の言葉が、頭の中で勝手に再生される。

『俺はいいの』

『好きだから』

 はぁ~~~~!! 頭の中が混乱だーーー!!
 
 告白されてしまった……!! めちゃくちゃイケメン男子に「好き」とか言われたんだけど!!!

 ……いかん。まだ処理が追い付かない。

 なんとか冷静になる努力をして、宿題だけは終わらせた。

 しかし、これ以上は集中力が持たない。今日のところは、予習と復習は諦めよう。

 引き続き、家事にとりかかる。気を抜くと、すぐに玖堂の声がよみがえる。

『俺は、宮下のことが好きだから。触ってもいいの。だって、好きだったら触りたいって思うでしょ』

 ……いや、まぁ、思うのは良いとして。

 実行に移すのはダメなのでは?

 俺の気持ちを無視して、抱き着いたり抱き枕にしたり……。

 教室でも食堂でも、奇異の目で見られるし。嫉妬されるし。暑いし。邪魔だし。

 予習と復習を阻害されたこともあって、少しずつ怒りのボルテージが上がっていく。

「今日は、和食にしよう……!」

 洗濯物をたたみ終わると、俺は立ち上がった。

「こってり味が好きな玖堂のことは無視だ~~~! 今日は、あっさり味の和食にする! もちろん、揚げ物なんてないからなーーー!」

 どうだ、参ったか!!

 いや、わざわざ玖堂の分を作っている時点で俺の負けだな……。そう思いながら、俺は玖堂の部屋に向かった。

 今日のメインは、豆腐ハンバーグにする。

 買い置きしていた豆腐と鶏ミンチでささっと作ろう。大根おろしを大量に作って、おろし和風ソースにする。大葉も添えて、さらにさっぱりさせる目論見だ。

 味噌汁は、なめこ。なんといわれようと、なめこ。俺の大好物なのだ。玖堂の好きな味噌汁の具は油揚げだけど、そんなものは知らん! 

 冷蔵庫の中身を確認しながら副菜を考える。トマトがあるので、塩昆布と和えよう。あとは、きゅうりとハムがあるな……。

 俺は冷蔵庫を一旦閉めて、戸棚をあさった。たしか先週、買っておいたはず。

「あ、あった……!」

 マカロニの袋を発見する。これで、マカロニサラダをこしらえる。

 塩とコショウで下味をつけて、マヨネーズで仕上げる。そうだ、ゆで卵を作ってマカロニサラダに追加してやろう。マヨネーズも心持ち、多めに入れて……。

 冷蔵を開けると、油揚げが目についた。

 いや、ちょっと前からその存在には気がついていたのだが、あえて見ないようにしていた。

 逡巡した結果、俺は油揚げを手に取った。賞味期限を確認する。

「……置いておいても、腐るだけだしな。仕方がないから使ってやろう」

 別に賞味期限は迫っていないのだが、自分を納得させるために言い訳をする。

 そろそろ玖堂が帰って来る時間だ。

 副菜をダイニングテーブルに並べ、豆腐ハンバーグを焼き始める。

 おろし和風ソースは、想定していたよりもこってり味になった。とろみをつけたせいだろうか。調味料の分量を誤ったか。

「まぁ、美味しいから問題はないんだけど。でも……」

 あんなに、あっさり味の和食を作ろうと決意したのに。

 マカロニサラダはコクのある味だし、豆腐ハンバーグもしっかり味がついてるし、味噌汁は油揚げたっぷり……。

 気づくと、玖堂の好みを反映した食卓になってしまっていた。

 なぜこうなる。解せない。味噌汁をかき混ぜながら、俺はキッチンに立ち尽くした。

「俺って、もしかして相手に尽くすタイプ……?」

 そんなことを考えていたら、頭の中で再び玖堂の『好きだ』コールが復活する。

 お玉を持ったまま、ごくりと息を飲む。

 ぼんやりした玖堂と、世話焼きな俺って、めちゃくちゃ良い組み合わせじゃないか……? ナイスカップルの予感……。

 いやいや。待って。まだ付き合うとか、決めてないし……。

 でもでもでも。玖堂の部屋で、こんな風に料理するのは好きだし。玖堂の目覚まし担当もすっかり板についてきたし、玖堂のことは好ましく思ってるし。

 どうしよう!!

 俺、彼氏ができるかもしれない!!

 こ・い・び・と、が!! できる~~~!

 うわーーー、と心の中で叫びながら、その場で足踏みをする。

 非モテな人生よ! さようなら! 長く孤独な日々とも、これでおさらばだ!

「あ~~~! どうしよう!!」

「どうしたの」

「え」

 振り返ると、玖堂がいた。

 困惑した表情で俺のことを見ている。

 まぁ、そうだろう。お玉を握りしめたまま、ハイテンションで足踏みしていたんだから。いくらなんでも様子がおかし過ぎる。

「あ、おかえり……」

「うん。ただいま」

  玖堂の顔が、ふわりとゆるむ。

 うわ、かっこよ……。

 心臓がズンドコと反応する。俺は動揺を悟られないよう、手に持っていたお玉で味噌汁をすくった。

 豆腐ハンバーグと一緒にテーブルに運ぶ。あとは麦茶を取ってきて、箸置きをセットして……。

 ちょこまかと動いていたら、玖堂が「ハンバーグだ」とうれしそうに声を上げた。

「あ、うん……」

 思わずドキッとした。

 玖堂は、なんというか舌がお子様なのだ。だからハンバーグは大好き。でも……。

「き、今日のハンバーグは、いつもとは違ってて……」

「ちがうって、なにが?」

 着席しながら、不思議そうな顔で俺を見る。

「和風ハンバーグなんだ。豆腐と鶏ミンチで作ってて。だから、あっさりしてると思う」

 ちょっとした意趣返しというか。いじわるな感情から、あっさり和食を作ってしまった。なので非常に気まずい。
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