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7.愛の逃亡
しおりを挟む番狂わせな事が多かったが、港に到着した俺達は豪華客船に乗り込んだ。
「おい、何で一等席なんだ」
「ルカーシュ様より、豪華客船の一番良い席を取るようにと」
「え?ルカーシュ様が!」
やはり兄上は全て承知だったのか。
「母上も知っているだろうな」
「当然です。奥様を出し抜くなんて無理です」
「だろうな…」
あの場で母上は迫真の演技をしてくれた。
知らないのはカディシュだけだろうし、父上も当然知っているだろう。
「そんな、ビアンカ様も知っておられたなんて」
「侯爵夫人が上手くやり込めたと思っただろうが、母上はその上を行く人だ。万一イライザと婚約しても嫁いびりをして破談にする気だったはずだ」
「え?ビアンカ様が嫁いびりですか?」
アイリスは知らないだろうが、母上の気性を考えれば当然だ。
イライザやローズマリーとは相容れない性格だっただろうから安易に想像できる。
「我が家の影の支配者は母上だ」
「はい、奥様を怒らせたら雷が落ちて、お邸はとんでもない事になりますからね」
我が家に限らず騎士の妻というのは皆強いからな。
ハンスの婚約者も見た目は儚げであるが烈婦という言葉が似あう令嬢だった。
「アイリス、俺の家族は君の味方だ。落ち着いたら手紙を出そう」
「はい…はい!」
緊張の糸が緩んだのだろう。
泣きながら俺にしがみ付くアイリスを抱きしめ、今はゆっくり休ませてあげたい。
「ユーリ様、大丈夫です。寝所はばっちりですよ」
「その親指止めろ」
少しイラっとする。
親指を曲げてやろうか、ジャック。
「部屋でゆっくり過ごそう」
「はい、申し訳ありません」
静かな船旅をする予定だったのだが…
「一等席なら、こうなるか」
「あの…ここは」
侯爵令嬢でありながらも邸内では質素な暮らしを強いられていたアイリスからすれば、驚くだろう。
俺も豪華客船は利用したことはない。
「こんな豪華な部屋は初めて見ました」
「はぁー…何でまたこんな部屋を」
王族が旅先で利用するような特別室だった。
おそらく兄上が奮発してくれたのだろうが、今後は質素な暮らしをする予定だから一度ぐらいはいいか。
「あの、これは」
「ルームサービスのメニューだ」
「なんて豪華なメニューでしょう」
手作りされた料理のメニュー表に驚くアイリス。
アイリスが喜んでいるから良しとするか。
だが俺は、知らなかった。
翌日船が到着したと同時にとんでもない事態になる事を。
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