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80.大嫌いな二人~ステンシル侯爵夫人side
しおりを挟む私をサビィーネと呼ぶアイリスの声が私を過去に引き戻すようだった。
ずっと大嫌いだった。
すました顔で、何でも解っているような表情をする姉が。
両親に我儘を言っても許される私だけど、母が姉を厳しく育てていた理由なんて解っている。
私が姉に劣っているから。
だけど、貴族令嬢は良き家柄の男性と結婚する事こそが一番幸せなのだと。
誰もが羨む大貴族の妻になり、美しく気高くある事こそが女性として最高の栄華だった。
なのに――。
何処で間違えたのだろうか。
ガゼルと婚約できた私は勝ち組だったのに、そのすぐ後に姉を見初めた殿方は大国の王族。
王の甥に当たる方で、公爵閣下だった。
姉に一目ぼれして、同盟の証として婚姻という名目で姉と婚約した。
でも社交界では愛で結ばれた二人がロマンスとして綴られていた。
国を超えて結ばれた二人の愛の物語は若い貴族だけでなく、殺伐とした社交界の空気に癒しを与えたとも言われていた。
愛で結ばれた姉。
政略結婚で結ばれた妹。
この差は数年間付きまとい、結婚した後は最悪だった。
私を嫁として認めない姑。
現当主となる義兄は次の後継者を遠縁から養子に迎えるとまで言って来た。
ガゼルがいるのに何故とも思ったが。
「侯爵家を潰すような男を跡継ぎにするわけには行きません。もちろんお前も」
義母は私を睨んでいた。
だけど義兄は流行り病により若くして亡くなった事で、ガゼルが次の跡継ぎになるのだと思ったが断固として義母は認めず。
義父が亡くなった翌年に、イライザを出産した。
私に似た愛らしい子で、義母も孫に対しては愛情を抱いていた。
結婚当初は不仲だったけど、二年も過ぎれば私に対して厳しい事を言わなくなり。
領地にいることが多くなった。
義父が病にかかり寝たきり状態で王都に頻繁にこれなくなったのだ。
そんな折、姉夫婦から手紙が届いた。
出産の為に里帰りを許されたと言うのだけど、留まるのは王都の貴族街にある別邸で王族に連なる者しか出入りを許されていない場所だった。
嫁ぎ先よりも祖国で出産した方が安心だと言う配慮と、姉は生まれつき体が弱いのでできるだけ安心して出産させたいとの事だった。
同行には姑が付き添う事で挨拶に出向いた私は、期待を膨らませた。
他国から嫁いできた。
しかも恋愛結婚をしたのだ。
きっと酷い嫁いびりをされているのだと思った。
姉が不幸であればいい。
姑に監視され、罵倒浴びせられながら苦しむ姿を見てやりたいと思って挨拶に向かうと。
「お初にお目にかかります。私はエルリーナ・ハルバートと申します」
姑とは思わない程の若々しさを持ちながらも物腰柔らかく、隣で身重の姉を気遣っていた。
「お義母様、大丈夫ですわ」
「ならぬ、今は大事な時と言うたであろう。座っておるのじゃ…そなたの世話は全て私がするから安心せよ」
気取った態度もなく、少し男勝りであるけど。
私から見ても話しやすく優し気な表情で姉の世話を甲斐甲斐しくしていた。
二人のやり取りを見て私は絶望するのに時間はかからなかったのだ。
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