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屈辱
しおりを挟むアレーシャが邸に戻らなくなって全てがおかしくなった。
憂さ晴らしをすることができなくなり苛立ちが募り、常に眉を顰めることが多くなった。
グランツ侯爵家に嫁げば高位貴族の一員になり、さらなり贅沢と権力が手に入るかと思ったが、そんなのは夢の又夢だと思い知る。
グランツ侯爵は入り婿であり血筋を受け継いでいるのはグランツ侯爵夫人だったが遠縁にあたる。
次男のエリックは愛人の間に生まれ母親は平民だったので血筋もいいとは言えない。
侯爵家に嫁げばそのうち王室から声もかかるのでは?と夢のような期待を抱いていたが、宮廷に出入りすることはできても王やその家族に会うことはできなかった。
上手く行かないこの苛立ちをアレーシャにぶつけようにも、あの一件から邸には戻らず宮廷に留まっていた。
(どういうことなの!)
どうしてアレーシャは帰って来ないのか。
あの時颯爽と現れた男性は誰なのか気になった。
「ねぇお母様、どしてお姉様は宮廷に留まっているの」
「大方、男に泣きついたのよ。男に取り入ることだけは母親に似て上手いようだわ。あの阿婆擦れ」
「でもあの人、服装からして近衛騎士よね?」
「どうせ大した身分じゃないわ…カテリーナ。貴女は王族の親戚になるのだから」
笑みを浮かべるルクレチア。
何処の馬の骨かもわからない男とどうなろうがどうでもよかった。
むしろこれをいい機会に追い出そうと考えていた。
社交界では噂好きの夫人が勝手に流してくれるはずなので手を出す必要はない。
身分の低い、騎士と懇意な関係になったふしだらな令嬢と言う汚名をかぶせれば、王女殿下や王太子殿下からの信頼もなくなり今度こそ居場所はない。
ざまぁ見ろと内心で笑っていた。
邸に帰ってきたら召使のようにこき使って道端に捨ててやろうと考えていたのだ。
「お着きになりました」
「さぁ、カテリーナ」
「はいお母様」
馬車が止まり宮廷前で降ろされる。
(でも…あの近衛騎士、すごく綺麗だったわ)
ルクレチアには捨ておけと言われたが忘れることができなかった。
(そうよお姉様にはもったいないわ。私の騎士にしてあげるわ)
平民であっても付加価値はあり、傍に侍らせるには十分だと思った。
婚約者のエリックは面立ちが美しいが、男らしさがない。
対してレオンハルトは鍛え抜かれた体格をしており仕草の一つ、一つが凛々しかった。
貴族にも媚びず凛とした佇まいに他の令嬢も心を奪われてしまった。
欲しいと思った。
それは恋慕の情ではなく強欲な感情。
傍に置いて侍らせ、他の令嬢にひけらかしてやりたいと言う思いが強かった。
「さぁ、カテリーナ」
「はいお母様」
胸を張ってそのまま宮廷の広間に向かうと豪華絢爛の舞踏会に心を躍らせる。
これまで何度も夜会に出たが今日ほど豪華な夜会は初めてだった。
「見て…」
「素敵」
憧憬の視線が向けられる。
「皆さん貴女を見ていてよ?」
「当然よ。私より注目される令嬢なんているわけないわ」
誰もが美しいと賛美するに決まっていると思いきや。
「なんて気品に満ちているかしら?外国の方かしら」
「は?」
一人の夫人が告げた言葉に立ち止る。
「真珠のような美しい白銀ですわ」
「ええ、白磁のように白い肌にすらりと背が高くてなんてお美しいのかしら」
カテリーナの髪は茶髪だった。
それに背丈は小柄で体格は細身と言うよりもふくよかだった。
「それに気品がただよってますわ…貴族の令嬢として美しいわ」
(なっ!!)
カテリーナに目もくれず視線を独り占めする令嬢に苛立つ。
(この私を差し置いて!!)
怒りのあまり扇を握りつす中その令嬢に近づいた時だった。
「お姉様?」
「カテリーナ?」
姉が美しく着飾る姿を目の当たりにした。
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