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第一章
16出国
しおりを挟む夜の間に王都を出ると港には船が用意されていた。
「これは…」
「それも飛べる船だ」
ハクセンス王国の家紋が入っている。
大砲も常備されており隣国に視察にするのに使う船ではない。
「聖女を迎えるならばこの程度は必要だ。道中の安全を考えてな」
「えっと…」
「詳しい話は中でしよう。時間はあまりない」
王都内で騒々しい声が響く。
空に打ち上げられた大砲の音に、気づき急いで船の中に入る。
「坊ちゃん」
「急いで出発してくれ。ダミーの用意は」
「滞りありませんぞ」
高齢の操縦士が合図を送る。
「出航じゃ!」
「「「おおおお!」」」
人相の悪そうな団体が敬礼をする。
「アルフレッド」
「彼は女王直属の水軍だ」
「女王陛下の?」
海賊と間違える程の人相の悪さだ。
「なんせ我が国の女王陛下は元は冒険家だったからな」
「その前は海賊船に乗ってましたからな」
「海賊船…」
どんな女王だと不安を抱くも、今は国を出るのを優先する。
「アルフレッド、追手が来たようだ」
「やはりか」
同行していたレインの言葉に眉を顰める。
「どうして…」
「あのまま黙って国から出すとは思わなかった。だがアンリ様が時間を稼いでくださったおかげで問題ない」
「どうする」
「このまま出発する」
王都からの追手を知らせる合図が空に上がる。
何も知らない人間からすればパレードの花火と間違えるだろう。
「ダミーの船をそのまま走らせる。その隙に俺達は岩陰に隠れて、隙をついて空から国に帰国する」
「かしこまりました。野郎共!間違えるなよ」
「「「了解!」」」
こうしてジュリエット達は無事に国を出る事に成功した。
その頃王宮からの追手は。
ダミーの船に惑わされ、海難事故に巻き込まれて泳いで沖まで戻るという失態を犯してしまった。
ジュリエットを連れ戻す計画は叶わず報告を受けた者は――。
「この役立たず!」
「申し訳ありません」
「謝れば済むわけないでしょ!なんとかしてジュリエットを連れ戻しなさい」
イライザはジュリエットを奪い返す計画に失敗し青ざめていた。
「計画通りに進むはずだったのに、予測外の事が多すぎるわ」
爪を噛みながら睨む。
「ジュリエットの評判を落として、言う事を聞かせるつもりだったのに…これじゃあ意味がないわ」
あの場でジュリエットの失態を他国にも知らしめて二度と生意気な態度を取らないようにできると思ったが、まさか聖女を辞めて国を出るなんて思わなかった。
「なんとかしないと…」
今まで聖女の仕事をさぼりながらも手柄を奪っていたのだから。
ジュリエットに全て結界を任せていたと知られたら自分の地位は危うくなるどころか、民からの不満の声は酷くなるのだから。
民だけならばまだよい。
お妃候補から外されたら何の為に王宮に来たか解らないのだから。
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