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4.幼い頃の記憶
しおりを挟むアストレイ王国には沢山の愛の物語が存在していた。
愛の女神デュオキア。
彼女はこの世は愛がすべてだと歌っていたのだが、その反対にもう一人の神。
調和を重んじる男神。
ディオスは理を司り、何事にも理がある事を告げていた。
『ディオスは愛よりも理を優先したが、愛がないわけじゃない。彼は理性的な神だっただけだ』
『理性的?』
『愛の為に周りを不幸にしていいわけじゃない。この世にはすべて理が存在するんだ。それを犯した愛なんて乱暴だろ?』
幼い頃何度も愛と理について教えてくれた男の子がいた。
愛の為にすべてを犠牲にしていいのかと言われたらそうではない。
真実の愛の裏で犠牲になる人。
誰かを不幸にする愛し方なんて悲しいと思うけど。
『だけど、何の犠牲も無しに何かを得る事は難しいのかもな』
『どうしたらいいのかな』
幼かった私はまだ知らない世界が多くて、こうして考えることが多かった。
『なら俺達で証明しよう。誰かを犠牲にして得る幸せは無意味だと。理だけを優先して心を壊してもダメだが、愛を優先して周りを不幸にしないで済むように』
『できるかな…』
『できるぞ!俺とお前なら――』
眩しい太陽の光が差し込む中、彼は太陽のように朗らかに笑う人だった。
一輪の薔薇を差し出し私に言ってくれた。
『俺達が大人になったら、貴族も平民も飢えで苦しみ、戦争で涙を流さない世にしよう』
『うん、約束』
それは幼い頃の小さな約束。
この国では薔薇を贈り誓いをする儀式があった。
特に紫の薔薇には特別な思いが込められていた。
私はその時から紫の薔薇を見るたびに思い出す。
優しいあの人の声を。
優しく私の名前を呼ぶ――。
「あ…」
ふと、目が覚めた。
少しベッドの上で休む程度だったのに、すっかり眠ってしまった。
「やはり顔色が良くないな。欠席するように告げよう」
「欠席…お父様、その手紙は」
「ああ、明日の舞踏会に出るようにと手紙が来た。娘は体調が悪いと言ったんだが…今度は殿下の直筆で招待状が届き、時間までも指定されている」
既に私が不参加という権利はなさそうだった。
どうしてこうも私の事情は一切聞こうとなさらないのかしら。
「どうしても嫌なら無理に参加しなくてもいい。明日には恐らく」
お父様は口を噤むも、明日の舞踏会には私の噂は広がっているだろうし、晒し物になりに行くようなもの。
でも、参加しなければ後から何を言われるか解らない。
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