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3.匿名希望の花束

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私の精神が滅入りそうだった。
思い込みが激しい方ではあったけど、ここまで無神経な方だったかしら?


「何なんですか、あの態度は!」

「リィナ、落ち着け!」

「婚約解消してすぐに浮気相手の面倒を見ろ?今後はフォローしてやれ?当然のように!」


一番怒っているのはリィナだった。
幼い頃から私の姉代わりをも務めてくれた彼女は私の立場を思っての事だろうけど。


「私も殿下の頭がおかしくなったとしか思えない。元から考えが足りない方だったが」

「愛は人をおかしくするんですね。何が真実の愛ですか…よりもよってお嬢様の誕生日に!」

「とんでもないプレゼントをいただいたわ」

怒る元気すらないわ。
本人に悪気がなかったとしても、私が何故殿下の恋人の教育係をしなくてはならないのか。


そんなことをしたら侯爵家は笑いものになる。

「しかし、お前に教育係を任せるのが腑に落ちない」

「ええ、確かに」


紹介して友人になってくれというぐらいならば解るけど、何故私に教育係を。
その内、何処かの貴族に養子に出すつもりならば私よりも養子に出した家の方に任せるのが普通だった。


「あの方の事だから、お嬢様にすべて丸投げなんて事は…」

「いくら何でもそれはないでしょ」


私はまだ正式に婚約解消の手続きを終えていない。
この状況で彼女の教育を任せたら、ロゼッタさんは貴族から糾弾されてしまう。

王太子妃の座を狙う令嬢からも攻撃を受けることになる。
後ろ盾がない平民の少女は抗う術もないし、命の危険すら危ういのだから。


「真実の愛か…こんなことになるならば、ティエゴ様と婚約なんてさせなければ良かった」

「お父様」

「お前も望んでいたわけではないと言うのに」


もう遠い昔の事。
心に鍵をかけた私は、割り切ったのに。


「今日はもう休みなさい。婚約解消の手続きが終わったら王都を離れてゆっくりしよう」

「はい…」


思えば10歳の頃から私は缶詰だった。
昔は遠出をして馬で大地を翔けていたのに、王太子妃候補となってからは乗馬も許されず、自由を奪われてしまった。


婚約解消になったのだから、少しの間だけ自由に過ごせると思えばいいわ。

縁談の話はお父様にお任せするしかない。


だけど、王太子殿下の婚約者だった私に真面な婚約はこないかもしれない。


傷物令嬢として社交界で笑い者にされるか、後は――。


「お嬢様宛てに花束が届いております」

「え?私に?」


リィナに告げられ顔を上げると。

「まぁ、何て豪華な薔薇」

「宛名が御座いません。邸の前に置かれて…ですが、この時期に紫の薔薇を手に入れるのは侯爵家以上の家の方かと」


赤い薔薇や白い薔薇とは異なり、紫の薔薇は貴重だった。
花束にする等、かなりの財力がある貴族ではなくては難しいのに誰が?


「お部屋に飾ってくれる?」

「はい」


誰か解らないけど今の私に紫の薔薇は救いだった。

私にとって紫の薔薇は思い出の詰まった薔薇だから。


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