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「宮本、おはよう」
「……お、おはよう」
宮瀬くんは今日も僕に挨拶をしてくれた。それがすごく嬉しくて心がキュッとなる。今まで誰かを恋愛的に好きなったことがなかったから、こんなに相手が眩しく見えるとか、キラキラして見えるなんて知らなかった。
宮瀬くんはにっこり笑って僕の前の席に座った。
昨日、宮瀬くんが彼の友人に僕の声が好きだと言ってくれたあと、僕は結局教室には入れなかった。将吾と一緒に渡り廊下にあるベンチに行って食べた。午後の授業のときに、教室に戻ると僕のことを話していた男子たちが気まずそうに顔を背けていたが、宮瀬くんは僕に気づくと、いつものようににっこり笑って、次の授業なんだっけ、って本人だってわかっているだろうことをわざわざ聞いてきてくれた。
宮瀬くんの言葉と自分が抱いた淡い恋心のおかげで、僕はその後、一軍男子たちの言葉なんて気にしないで授業を聞いていられた。ただ心臓はいつもよりソワソワしていたけど。
「もうすぐ中間だけど、勉強進んでる?」
昨日のことを思い出していると、宮瀬くんがこんなことを聞いてきた。いつもは挨拶で終わるのに、今日はそれ以上の会話をしてくれるらしくて、頬に熱が集まるのを感じた。
「う、うん、少しずつ進めてる」
「偉いな。俺全然やってなくてさ。範囲表、今日にでも配られるかな?」
「か、加藤先生は今日の帰りに渡すって、い、言ってたよ」
「ほんと? 俺学級員なのに、なんで宮本が知ってるんだ?」
そんなふうにいうが、宮瀬くんはまったく不満そうでなかった。むしろニコニコと笑っている。不思議に思って首を傾げると、宮瀬くんは少し言葉を探すように目を彷徨わせた。
「宮本、先生たちに好かれてるよね。俺も……、いやなんでもない」
先生たちに好かれてる?
加藤先生は担任だからともかく、他の先生たちは僕が発言する時にいつも困ったような顔をしているけど。宮瀬くんにはそう見えるのかな。
「中間が終わったら席替えだよね、きっと。嫌だなあ」
宮瀬くんは僕の顔を覗きながらそんなことを言った。
なんで? なんで嫌なの?
宮瀬くんと仲のいいクラスメイトは今、こぞって席が離れているからむしろ席替えがあった方が嬉しいんじゃないだろうか。
返答に困っていたら、宮瀬くんが軽く唇を尖らせた。こうやって見ていると彼は結構、表情が豊かだと思う。
「宮本……俺さ、みや――」
「おっはよー」
加藤先生が元気よく教室に入ってきて、宮瀬くんとの会話――ずっと宮瀬くんにばかり話してもらっていて申し訳なかったな――は打ち切りになった。
簡単なホームルームが終わってすぐに先生の授業が始まる。
先生が黒板に地図を書いているのを待っている間、僕たちは指示された問題を解かないといけない。僕は予習をしてきてしまったので、回答はもうノートに書いてあった。しばらく暇な時間が続く。
とその時、前から宮瀬くんの手が伸びてきて、僕の机に小さなメモを置いた。ノートの切れ端なのだろう。ガタガタと破かれた跡がある。その紙を手に持つと綺麗な字が並んでいるのが見えた。まず宮瀬くんは字も綺麗なんだなと思って、それから書かれている言葉を拾った。
〈さっきの話の続きだけど、俺は宮本の言葉が聴きたい〉
それだけが書かれていた。そういえば加藤先生の登場で話が中断されたけれど、宮瀬くんはこれを言おうとしたんだろうか。ポッと顔が熱くなるのを感じて、思わずノートに挟んでいた透明な下敷で顔をあおいだ。
僕の言葉が聴きたい? この言葉が昨日廊下で聞いてしまった宮瀬くんの言葉とリンクして、胸が早鐘のように鳴る。でもこれは、緊張して感じる嫌なやつではなくて、すごく心地いい恋の音なんだと思う。手で千切られてガタガタになっている紙の端を、指で撫でるととても愛おしさを感じた。
先生に気づかれないようにそっと、鞄に入れておいた小説の間に宮瀬くんにもらった紙を挟んだ。帰ったらこの紙は薫姉さんにもらったノートに貼ろう。僕の大切な初恋の印を残しておくんだ。
授業が終わると宮瀬くんがすぐにこっちを向いた。切れ長の目がいつもより大きく開かれていて、黒い瞳が僕を捉えている。
「読んでくれた?」
「う、うん。あ、ありがとう」
こういうふうに紙に何かを書いて、誰かにもらったことなんて家族以外にないからどうすればいいかわからなくて控えめに笑ってみた。すると宮瀬くんも嬉しそうに目を細めてくれた。
「だからこれからは俺とも話してね」
ね? とまるで犬が飼い主を仰ぎみるみたいに、目を潤ませて告げられた。体格が良くて僕より全然男らしい宮瀬くんに失礼だろうけど、可愛いと思った。これが恋の力なのか、なんだかすごく元気をもらえた。
でも、その瞳に映り込んでいる自分を見て、一瞬で気分が沈んでしまう。目を隠すように伸びた長い髪、隠れた目が涙で濡れてもバレないようにとかけた黒縁の眼鏡、言葉が出てこないくせに薄く開かれた情けない自分の口……。
「……うん」
少し元気のなくなった声で答えたが、宮瀬くんもそのことに気づいたんだろう。少し眉を吊り上げる仕草をしたが、友達に呼ばれて「約束だからね」と言い残し、去っていった。
せめて、ほんの少しだけでも、僕と話したいと、声を聴きたいと言ってくれた宮瀬くんに応えられるような、同じ土俵に足の先だけでも踏み込めている自分になりたい。
そのためにどうすればいい? こういうときみんなどうするんだろう。
そういえば、姉さんたちは気分が沈んだらネイルに行ったり、髪を切ったりするって言っていた。気分が上がるし、自信がつくって……。
かっこいい宮瀬くんの瞳に映った自分を思い出して、僕はイメチェンを決意した。
「……お、おはよう」
宮瀬くんは今日も僕に挨拶をしてくれた。それがすごく嬉しくて心がキュッとなる。今まで誰かを恋愛的に好きなったことがなかったから、こんなに相手が眩しく見えるとか、キラキラして見えるなんて知らなかった。
宮瀬くんはにっこり笑って僕の前の席に座った。
昨日、宮瀬くんが彼の友人に僕の声が好きだと言ってくれたあと、僕は結局教室には入れなかった。将吾と一緒に渡り廊下にあるベンチに行って食べた。午後の授業のときに、教室に戻ると僕のことを話していた男子たちが気まずそうに顔を背けていたが、宮瀬くんは僕に気づくと、いつものようににっこり笑って、次の授業なんだっけ、って本人だってわかっているだろうことをわざわざ聞いてきてくれた。
宮瀬くんの言葉と自分が抱いた淡い恋心のおかげで、僕はその後、一軍男子たちの言葉なんて気にしないで授業を聞いていられた。ただ心臓はいつもよりソワソワしていたけど。
「もうすぐ中間だけど、勉強進んでる?」
昨日のことを思い出していると、宮瀬くんがこんなことを聞いてきた。いつもは挨拶で終わるのに、今日はそれ以上の会話をしてくれるらしくて、頬に熱が集まるのを感じた。
「う、うん、少しずつ進めてる」
「偉いな。俺全然やってなくてさ。範囲表、今日にでも配られるかな?」
「か、加藤先生は今日の帰りに渡すって、い、言ってたよ」
「ほんと? 俺学級員なのに、なんで宮本が知ってるんだ?」
そんなふうにいうが、宮瀬くんはまったく不満そうでなかった。むしろニコニコと笑っている。不思議に思って首を傾げると、宮瀬くんは少し言葉を探すように目を彷徨わせた。
「宮本、先生たちに好かれてるよね。俺も……、いやなんでもない」
先生たちに好かれてる?
加藤先生は担任だからともかく、他の先生たちは僕が発言する時にいつも困ったような顔をしているけど。宮瀬くんにはそう見えるのかな。
「中間が終わったら席替えだよね、きっと。嫌だなあ」
宮瀬くんは僕の顔を覗きながらそんなことを言った。
なんで? なんで嫌なの?
宮瀬くんと仲のいいクラスメイトは今、こぞって席が離れているからむしろ席替えがあった方が嬉しいんじゃないだろうか。
返答に困っていたら、宮瀬くんが軽く唇を尖らせた。こうやって見ていると彼は結構、表情が豊かだと思う。
「宮本……俺さ、みや――」
「おっはよー」
加藤先生が元気よく教室に入ってきて、宮瀬くんとの会話――ずっと宮瀬くんにばかり話してもらっていて申し訳なかったな――は打ち切りになった。
簡単なホームルームが終わってすぐに先生の授業が始まる。
先生が黒板に地図を書いているのを待っている間、僕たちは指示された問題を解かないといけない。僕は予習をしてきてしまったので、回答はもうノートに書いてあった。しばらく暇な時間が続く。
とその時、前から宮瀬くんの手が伸びてきて、僕の机に小さなメモを置いた。ノートの切れ端なのだろう。ガタガタと破かれた跡がある。その紙を手に持つと綺麗な字が並んでいるのが見えた。まず宮瀬くんは字も綺麗なんだなと思って、それから書かれている言葉を拾った。
〈さっきの話の続きだけど、俺は宮本の言葉が聴きたい〉
それだけが書かれていた。そういえば加藤先生の登場で話が中断されたけれど、宮瀬くんはこれを言おうとしたんだろうか。ポッと顔が熱くなるのを感じて、思わずノートに挟んでいた透明な下敷で顔をあおいだ。
僕の言葉が聴きたい? この言葉が昨日廊下で聞いてしまった宮瀬くんの言葉とリンクして、胸が早鐘のように鳴る。でもこれは、緊張して感じる嫌なやつではなくて、すごく心地いい恋の音なんだと思う。手で千切られてガタガタになっている紙の端を、指で撫でるととても愛おしさを感じた。
先生に気づかれないようにそっと、鞄に入れておいた小説の間に宮瀬くんにもらった紙を挟んだ。帰ったらこの紙は薫姉さんにもらったノートに貼ろう。僕の大切な初恋の印を残しておくんだ。
授業が終わると宮瀬くんがすぐにこっちを向いた。切れ長の目がいつもより大きく開かれていて、黒い瞳が僕を捉えている。
「読んでくれた?」
「う、うん。あ、ありがとう」
こういうふうに紙に何かを書いて、誰かにもらったことなんて家族以外にないからどうすればいいかわからなくて控えめに笑ってみた。すると宮瀬くんも嬉しそうに目を細めてくれた。
「だからこれからは俺とも話してね」
ね? とまるで犬が飼い主を仰ぎみるみたいに、目を潤ませて告げられた。体格が良くて僕より全然男らしい宮瀬くんに失礼だろうけど、可愛いと思った。これが恋の力なのか、なんだかすごく元気をもらえた。
でも、その瞳に映り込んでいる自分を見て、一瞬で気分が沈んでしまう。目を隠すように伸びた長い髪、隠れた目が涙で濡れてもバレないようにとかけた黒縁の眼鏡、言葉が出てこないくせに薄く開かれた情けない自分の口……。
「……うん」
少し元気のなくなった声で答えたが、宮瀬くんもそのことに気づいたんだろう。少し眉を吊り上げる仕草をしたが、友達に呼ばれて「約束だからね」と言い残し、去っていった。
せめて、ほんの少しだけでも、僕と話したいと、声を聴きたいと言ってくれた宮瀬くんに応えられるような、同じ土俵に足の先だけでも踏み込めている自分になりたい。
そのためにどうすればいい? こういうときみんなどうするんだろう。
そういえば、姉さんたちは気分が沈んだらネイルに行ったり、髪を切ったりするって言っていた。気分が上がるし、自信がつくって……。
かっこいい宮瀬くんの瞳に映った自分を思い出して、僕はイメチェンを決意した。
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