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18 颯人視点
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奏に告白をしてから距離ができた。毎朝の挨拶はちゃんと返してくれるし、笑顔もくれる。奏は俺に気を遣っているんだと思うが、なんとなく感じる心の距離というものは広がってしまったと思う。
中間テストは結構頑張った。今までで一番と言っていいくらい勉強した。すべてはお互いに下の名前で呼び合う権利を手に入れるためだった。
奏が特進の中でも片手で数えるほど優秀だということは知っていた。だけどこれはチャンスだと思ったから賭けを提案したし、もし負けてしまったとしても、奏の願いを叶えることになれば繋がりが深くなると思った。俺に損は何もなかったのだ。
中間は結局、奏が勝ってその日の夜に、奏のお願いが届いた。友達になって欲しいという馬鹿げたお願いだった。
もしかしなくても奏はずっと俺のことを友達だと思っていなかったのだろうか。ハンマーで顔面を殴られた気がして、何も考えなれなかった。姉のところに言って尋ねたくらいだ。
「友達って、なろうって言って初めてなるものなの?」
「え? そんなわけなくない? 友達って気づいたら友達じゃない?」
フェイスマスクを顔に付け、ソファで仰向きになっていた姉はこっちを見ることなく答えた。
「……そうだよね」
奏の心理がわからなかった。いやわからないわけではない。彼の性格上、自分から相手を友達なんて呼ぶのは烏滸がましいと思って、許可を取りたかったのかもしれない。言質で確信を得て初めて「友達」が成立するのが奏のスタイルなのかもしれないじゃないか。
そう自分に言い聞かせてみたが、やっぱり不快感に首を傾げるばかりだ。
その日は返信をよして、俺はモヤモヤの正体を考えた。それは割とすぐに判明した。
俺は奏と恋人になりたいんだ。恋心に気づいてからはそのために奏と仲良くなろうと頑張ってきた。恋心に自覚した時点で、俺たちは友達だと思っていたんだ。それなのに、まだそのステップにも到達していなかったと気づかされた。だからだ。
奏と一緒にいるのは楽しい。一人きりになると、あの時はちゃんと返事できていたかとか、変な顔してなかったよなとか考えてしまうけど、奏と話している時はただただ夢中なんだ。だから、奏と一緒にいることを「努力」と呼ぶのも変だと思うけれど、俺は努力していた。それでも、まだ友人の域にも達していなかったなんて。
奏が髪型を変えて、その綺麗な顔を晒して以来、俺は無意識に焦っていた。誰かが奏を好きになるのも告白をするのも時間の問題だと気づいたから。だから誰よりも早く奏との距離を詰めなければならないと思っていた。この焦りも俺の不快感の原因だろう。
気にしいな奏に、既読無視はよくないとわかっていたけど、友達未満だったショックとムカつきから返事はできなかった。
月曜は普段よりも早く教室に入った。まだ奏の姿はない。直接思っていることを言うつもりだった。冷静に。
だけど教室に入ってきた奏の顔を見た時、この週末溜めていたものが爆発した。
奏は俺に気づいて顔を伏せた。朝、俺が挨拶をすると微笑みを浮かべる唇が硬く結ばれていた。俺が返信をしなかったことを、また変に自分を責める理由にしてしまっているんだろうことはわかっていたが、奏が傷を増やしている分、俺も心に引っ掻き傷がある。
準備室に連れ込み、奏を壁沿いに追い込むと彼は小さく息を呑んだ。
「奏、俺たちまだ友達じゃなかったの?」
そう責めれば、奏は俺が下の名前で彼を呼んだことを気にしだした。違う。奏が考えなきゃいけないところはそこじゃない。
友達になりたいんだったら下の名前で呼び合わなきゃと説明する。すでに壁に追い込んでいた奏をさらに責めるために距離を詰めた。奏の手が胸に伸びてきて、彼はその小さな顔を赤く染める。
「メ、メッセージ、き、既読無視、で……」
「それは奏があんなふざけたこというから怒ってたんだよ。俺はずっと奏のこと友達だと思ってたのに違ったんだな、悲しいな、ひどいなって」
「ご、ごめんなさいっ」
謝ってほしいわけじゃない。謝る理由もない。奏は何も悪くない。ただ今の俺は間違いなく奏に、一方通行のこの気持ちをぶつけているだけだ。
元々小柄な奏がさらに小さくなっていく。俺を見つめる瞳から涙が少し溢れていた。
それに気づいて自分がしていることがどれだけ奏を怖がらせているか気づいた。思わず抱きしめたが、友達になりたいと言ったくらいで怒る俺なんかに抱きしめられても、怖いだけだろう。でも今更、好きな人から離れることもできない。
自分がなんで今怒ってるのか、もっとはっきりと伝える必要があると思った。
「ごめん。怖がらせるつもりはなくて……。ただ……いやいいこの際はっきり言う! 俺が怒ってた理由ね、俺はまだ奏にとって友達のステップにもいけてなかったんだなって思って……まだまだだったんだって辛くて」
奏に何か返事をしてほしかったが、それは期待できなかった。奏はただ俺の胸の中で微動だにせずじっと待っていた。
「奏、奏」
俺は必死に言葉を探した。その間を埋めるように奏の名前を呼ぶ。
「奏、好きだ」
気づいたら告白をしていた。言葉は思わぬ方向に俺を押しやった。
もっと関係を進めてから、確実にいい返事がもらえるまで告白はしないつもりだったのに気づいたら口から溢れていた言葉に、脳はしばらく固まってしまう。耳元で告白を受けた奏は小さく「へ?」と言ったきり何も反応してくれなかった。
相変わらず俺たちは抱き合っていた。
友達になりたいと言った奏に、恋人になりたい俺の気持ちは重いはずだ。必死に持っているだけの言葉をかき集めて、奏に伝えよう。
冷静に思考を回すためにも奏から一度離れた。
「その、これは、ちゃんと恋愛としての、好きで……、でも返事は待ってるから、負担に思わないで……」
呆然としている奏は、俺と目を合わせてくれたが特に返事はしてくれなかった。
どっちが先に教室に戻ろうと言ったのかはわからなかった。
中間テストは結構頑張った。今までで一番と言っていいくらい勉強した。すべてはお互いに下の名前で呼び合う権利を手に入れるためだった。
奏が特進の中でも片手で数えるほど優秀だということは知っていた。だけどこれはチャンスだと思ったから賭けを提案したし、もし負けてしまったとしても、奏の願いを叶えることになれば繋がりが深くなると思った。俺に損は何もなかったのだ。
中間は結局、奏が勝ってその日の夜に、奏のお願いが届いた。友達になって欲しいという馬鹿げたお願いだった。
もしかしなくても奏はずっと俺のことを友達だと思っていなかったのだろうか。ハンマーで顔面を殴られた気がして、何も考えなれなかった。姉のところに言って尋ねたくらいだ。
「友達って、なろうって言って初めてなるものなの?」
「え? そんなわけなくない? 友達って気づいたら友達じゃない?」
フェイスマスクを顔に付け、ソファで仰向きになっていた姉はこっちを見ることなく答えた。
「……そうだよね」
奏の心理がわからなかった。いやわからないわけではない。彼の性格上、自分から相手を友達なんて呼ぶのは烏滸がましいと思って、許可を取りたかったのかもしれない。言質で確信を得て初めて「友達」が成立するのが奏のスタイルなのかもしれないじゃないか。
そう自分に言い聞かせてみたが、やっぱり不快感に首を傾げるばかりだ。
その日は返信をよして、俺はモヤモヤの正体を考えた。それは割とすぐに判明した。
俺は奏と恋人になりたいんだ。恋心に気づいてからはそのために奏と仲良くなろうと頑張ってきた。恋心に自覚した時点で、俺たちは友達だと思っていたんだ。それなのに、まだそのステップにも到達していなかったと気づかされた。だからだ。
奏と一緒にいるのは楽しい。一人きりになると、あの時はちゃんと返事できていたかとか、変な顔してなかったよなとか考えてしまうけど、奏と話している時はただただ夢中なんだ。だから、奏と一緒にいることを「努力」と呼ぶのも変だと思うけれど、俺は努力していた。それでも、まだ友人の域にも達していなかったなんて。
奏が髪型を変えて、その綺麗な顔を晒して以来、俺は無意識に焦っていた。誰かが奏を好きになるのも告白をするのも時間の問題だと気づいたから。だから誰よりも早く奏との距離を詰めなければならないと思っていた。この焦りも俺の不快感の原因だろう。
気にしいな奏に、既読無視はよくないとわかっていたけど、友達未満だったショックとムカつきから返事はできなかった。
月曜は普段よりも早く教室に入った。まだ奏の姿はない。直接思っていることを言うつもりだった。冷静に。
だけど教室に入ってきた奏の顔を見た時、この週末溜めていたものが爆発した。
奏は俺に気づいて顔を伏せた。朝、俺が挨拶をすると微笑みを浮かべる唇が硬く結ばれていた。俺が返信をしなかったことを、また変に自分を責める理由にしてしまっているんだろうことはわかっていたが、奏が傷を増やしている分、俺も心に引っ掻き傷がある。
準備室に連れ込み、奏を壁沿いに追い込むと彼は小さく息を呑んだ。
「奏、俺たちまだ友達じゃなかったの?」
そう責めれば、奏は俺が下の名前で彼を呼んだことを気にしだした。違う。奏が考えなきゃいけないところはそこじゃない。
友達になりたいんだったら下の名前で呼び合わなきゃと説明する。すでに壁に追い込んでいた奏をさらに責めるために距離を詰めた。奏の手が胸に伸びてきて、彼はその小さな顔を赤く染める。
「メ、メッセージ、き、既読無視、で……」
「それは奏があんなふざけたこというから怒ってたんだよ。俺はずっと奏のこと友達だと思ってたのに違ったんだな、悲しいな、ひどいなって」
「ご、ごめんなさいっ」
謝ってほしいわけじゃない。謝る理由もない。奏は何も悪くない。ただ今の俺は間違いなく奏に、一方通行のこの気持ちをぶつけているだけだ。
元々小柄な奏がさらに小さくなっていく。俺を見つめる瞳から涙が少し溢れていた。
それに気づいて自分がしていることがどれだけ奏を怖がらせているか気づいた。思わず抱きしめたが、友達になりたいと言ったくらいで怒る俺なんかに抱きしめられても、怖いだけだろう。でも今更、好きな人から離れることもできない。
自分がなんで今怒ってるのか、もっとはっきりと伝える必要があると思った。
「ごめん。怖がらせるつもりはなくて……。ただ……いやいいこの際はっきり言う! 俺が怒ってた理由ね、俺はまだ奏にとって友達のステップにもいけてなかったんだなって思って……まだまだだったんだって辛くて」
奏に何か返事をしてほしかったが、それは期待できなかった。奏はただ俺の胸の中で微動だにせずじっと待っていた。
「奏、奏」
俺は必死に言葉を探した。その間を埋めるように奏の名前を呼ぶ。
「奏、好きだ」
気づいたら告白をしていた。言葉は思わぬ方向に俺を押しやった。
もっと関係を進めてから、確実にいい返事がもらえるまで告白はしないつもりだったのに気づいたら口から溢れていた言葉に、脳はしばらく固まってしまう。耳元で告白を受けた奏は小さく「へ?」と言ったきり何も反応してくれなかった。
相変わらず俺たちは抱き合っていた。
友達になりたいと言った奏に、恋人になりたい俺の気持ちは重いはずだ。必死に持っているだけの言葉をかき集めて、奏に伝えよう。
冷静に思考を回すためにも奏から一度離れた。
「その、これは、ちゃんと恋愛としての、好きで……、でも返事は待ってるから、負担に思わないで……」
呆然としている奏は、俺と目を合わせてくれたが特に返事はしてくれなかった。
どっちが先に教室に戻ろうと言ったのかはわからなかった。
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