【本編完結】君の紡ぐ言葉が聴きたい

月内結芽斗

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 奏とは席が離れてしまった。前みたいに机を前後にして話せるのは次の期末まで先だろう。いや、席が戻っても俺を避けて奏は話してくれないかもしれない。

 突然すぎた告白に後悔して机に突っ伏していると駿が俺の背中を叩いてきた。

「どうした?」
「……俺、告白した」
「えっ」

 駿はスッと俺の顔に自分の顔を寄せた。それから周りに視線を送る。

「その話あとで聞かせて」

 駿は宣言通り昼休みになると俺を連れて屋上に上がった。二人きりになり事の詳細を説明すると、憐れむような目で俺を見ながら苦笑いを浮かべていた。それから少し考えると言って黙ってしまった。

「……まあ別に良かったんじゃない」

 そして最終的に駿が言ったのがこれだ。意味がわからなくて俺は先を促した。

「宮本がお前のこと好きになったとしても、あっちから告白してくることはないだろうから、これを機にお前を意識してもらえるって思えばいいじゃん」
「でも……」

「お前いつからウジウジになったの? 今までみたいに紳士ずらして接すればいいんだよ。簡単だろ?」
「俺は前からウジウジだよ。それにしても紳士ずらって酷くない?」

「でもそれだけに集中するのはダメだ。しっかり宮本のことが好きだってことも伝える。あーあっ。もっと一人で片想い拗らせてるとこ見られると思ったのになあ」

 俺の言ったことは無視して駿は続けた。と思うとこれ以上この話はしないとばかりに部活のことに話題を移した。
 ……こいつそろそろ俺の恋愛相談乗るの飽きてきたなと思った。




 奏に告白してからちょうど一週間経った月曜の放課後、部活が終わって片付けをしている時に知らないテニス部の女子から呼び出された。まだ片付けも終わってないから呼び出しに応える気はなかったが、チームメイトに囃され、仕方なく、体育館の入り口まで出た。

「颯人先輩、ここじゃあれだから少し場所、移しませんか?」
「まだ部活中だから無理」
「……そうですよね」

 また例のイベントか? 小学生の時から定期的に訪れるこのイベントには正直うんざりだった。いつもだったら顔だけは笑顔を浮かべて、断りを入れるタイミングを待つけど、ここ最近は心が波打っているのでそんな余裕もない。俺だって告白をした身なのだ。しかも意図せず。

 じっと一年が話し始めるのを待っていると、彼女は伏し目がちにして頬を染めた。

 今月は告白月間かなんかなの? 早く終わらせてくれ。

「話ならここで聞く。何?」

 普段見ている宮瀬颯人とは違う無愛想な姿に、目の前の一年も戸惑っているようだった。オロオロとしてユニフォームの裾を握ったと思ったら、大きく深呼吸をして真っ直ぐこっちを見た。

「好きです。付き合ってください!」

 世の人に問いたい。知らない人に告白をされて受け入れる人がいるのか。それって危機管理がなってないんじゃないか。

「好きな人がいるから無理」

 今までは「勉強に集中したい」「バスケに集中したい」を理由に断ってきた。事実だし嘘ではなかったから。でもこれからは違う。俺は奏が好きだから、奏しか好きじゃないから断るんだ。

「いつもの先輩の断り方じゃない……」

 ボソッと女子は呟くと走っていってしまった。

 体育館に戻ると部員たちが扉の影からこっちを見ていた。

「覗きが趣味なの?」
「おい! なんであんな可愛い子振るんだよ!」

 嫌味は遮られ、三年の先輩が俺の肩を揺さぶった。

「颯人が食べたいのは苺じゃなくてスイートポテトなんですよ」

 駿の言葉に部員全員が首を傾げていた。





 誰よりも早く告白をしたのだから誰よりも早くアプローチしたかったが、奏はあれ以来なんとなく俺を避けていると思う。岩田との席も近くなり、クラスの連中とも仲良くなったからか一人でいる時間も明らかに減って、常に誰かに話しかけられていた。

 みんなと仲良くなって自分に自信がつけばいいと思っていたけれど、恋路を他の連中に邪魔されるのは嫌だと、わがままな自分が顔を出しているのは承知で、思っていた。

 告白をしてからの一週間は、どうにか近づこうとしたけどなかなかうまくいかなくて、俺ができたのは朝の挨拶と帰りの挨拶だけだった。気まずいはずなのに、律儀に返事をしてくれる奏に、彼が何を思っているのかわからなくて、迷子になりそうだった。

 土日を挟んだ月曜の昼、朝学校についてすぐ奏をお昼に誘ったら、申し訳なさそうに眉を歪めて奏が委員会があると教えてくれた。
 そしてなぜかその日の昼は、俺と駿と岩田の三人で食べることになった。

「なんで今このメンツで飯食ってんの」

 輪になって弁当を食べる自分たちに、岩田が苦笑いを浮かべて言った。

 やっと昼休みが終わって委員会から帰ってきた奏が村田ひな子と顔を寄せ合って仲良く話しているのを見て発狂しそうになった。





 火曜の昼休み、駿と二人、グラウンドでバスケをしていたら、奏の姿が見えた。奏は窓辺に寄りかかってぼんやりと外を眺めていた。揺れるカーテンで見え隠れする奏の姿は、男子高校生なんかに見えなくて、その儚い姿に守りたくなった。

 ぼんやりと外を眺めているくらいだから暇なのだろうが、委員会中だ。邪魔するのもよくないかなと思ったし、俺が奏に話しかけるたびに、奏にプレッシャーを与えてしまっている気がして申し訳なくなったから、俺は奏に声をかけなかった。

 綺麗な奏を見ないようにしてシュートに集中していたら、駿がやっと奏に気づいたみたいだった。遠慮もなく、奏に声をかける。

「おっ宮本~!」

 駿にとって奏はすっかり「親友の彼女」らしく、俺が奏を好きだと知ってからは奏に対して妙に馴れ馴れしい。手を振って奏の気を引いているので、俺も奏の存在を認めざるを得なくなった。

「これもチャンスだろ!」

 奏から視線を外さずに駿が口だけこっちに向けて囁いた。

 手を振ると奏も小さく振り返してくれた。しかし、いつもの遠慮気味な返しとはどこか違う。窓の縁に寄りかかって微笑んでいる姿は弱った花のようだった。
 もう少しちゃんと奏の顔が見たくて、窓の方に近づく。

「委員会?」
「う、うん」

 奏が目を逸らした。多分これは俺が告白をしたから気まずいのだと思うが、その頬はいつものような緊張と恥ずかしさで染められた赤というよりは、ふやけた赤さのようだった。

 体調が悪いのか……?

「……頑張ってね」

 これ以上、話しかければ奏に無理させてしまうんじゃないかと思った。だから駿を促してまたバスケに戻った。

「お前、告白してから軽く宮本に避けられてるよな? せっかくのチャンスだったんだからもっと話せばよかったじゃん」
「……うん」

 あと数分で予鈴が鳴る。教室に戻ったら奏を保健室に連れて行こう。
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