君の紡ぐ言葉が聴きたい

月内結芽斗

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 朝の光がカーテンから差し込んで俺は目を覚ました。いや、覚ましたというのは正確ではない。気絶するような浅い眠りからまた、目覚めてしまったのだ。

 やっと朝が来たか……。

 上体を起こすと、まだ奏は眠っているようだった。綺麗な仰向けで目を閉じている姿はまるで眠れる森の美女だ。じっと奏を観察していると、その薄い瞼が微かに揺れた。

 腕を使って起き上がったと思ったら、薄目を開けてこっちを見てくる。

「奏、おはよう」
「おはよう」

 俺相手に言葉に詰まらない奏は初めてだった。目はまだほとんど閉じていて、宮瀬颯人が挨拶の相手だと気づいていなさそうだった。
 いたずら心が湧いてしまって、俺は両腕を広げた。

「ぎゅっ」

 音にしてみると奏も腕を広げて俺に抱きついてきた。しかも小さな声で「ぎゅっ」という。遺伝子に組み込まれたハグ癖は、寝起きの奏にバグを起こさせるのだという収穫を得て、俺は満足する。朝から刺激が強すぎて辛い。前世の徳をここで使い切ってしまった気分だった。

「抱っこで起こして」

 胸を押す小さな頭がぼそっと呟くのが聞こえた。これは相当寝起きが悪い。まるで幼児化してしまったような奏に少し不安を覚える。

「自分で起きないと」
「いや」
「でも、あとで後悔するのは奏だよ」
「いや」
「……じゃあ洗面所まで」

 ぎゅっなんて言ってしまった自分が悪いのはわかっている。開いているのかいないのかわからない目をふにゃっと緩めて笑った奏はもぞもぞと体を寄せてくると、そのまま腰に脚を絡めてきた。

 盛大にため息を吐きそうだったがなんとか我慢して、奏の腕を首の方に回すと、立ち上がった。向かい合って抱っこされている間も奏は、頭をすりすりと擦り付けてくる。猫を相手にしていると思い込もう。

 階段の振動でも目を覚まさなかった奏を鏡の前で下ろした。地面に着地したとき少しよろけたが、奏の歯ブラシに歯磨き粉をつけてやると、目を閉じたままだが、素直に磨き始めた。

 ここに来るまでの間、誰にも会わなくてよかった。

 俺は先に歯磨きを終えて、顔を洗わせてもらう。そこまで終わってもまだ奏は眠ったままだ。寝起きの悪さもここまでくると称賛に値する。

 手を軽く濡らして奏の頬に触れた。途端、体をびくつかせて、奏が目を見開いた。しばらく大きな目は瞬きを繰り返していたが、俺の存在を認識すると途端にいつもの奏に戻る。

「あっあ、ぼ、ぼくいつ、歯……、宮瀬っくんおっおはよう」
「……おはよう」

 口の中が泡一杯で空気を吸うたびに、窒息するんじゃないかと心配になったが、奏も苦しいと思ったのかすぐに口を濯いだ。そのまま顔を洗うところまで鑑賞していると、奏の耳がどんどん赤くなる。

「そ、そんななにみ、見つめられると……」
「奏って朝弱いんだね」
「っ! いいっやそれは……」

 奏がこの場から逃げるように去って言って、クスクス笑いながら俺も奏を追いかけた。

 時計を見ると朝八時で、佳奈さんはすでに起きていた。朝の挨拶をし合って、キッチンにいる佳奈さんの手元を見れば、フレンチトーストを作っているらしい。

「なんかいい匂いするなと思ったら、フレンチトーストなんですね。おしゃれですね」

「いつもは作らないわよ。今日はおしゃれなママだと思われたくて、これにしたの。卵もいっぱいあったからね」

 なるほどっと頷いて、奏と一緒にカトラリーを並べた。宮本家の朝食は洋食が多いらしく、奏は家族分のカフェラテを作り始める。

「み、宮瀬くんは、コーヒー? オ、オレンジジュースもあるよ」
「奏が作ったコーヒー飲みたい」

 奏の頬が赤くなっているのを横から覗きながら、コーヒーにミルクが混ざっていくのを視界の端に捉えていると、二階から続々と住民が下りてきた。

 身だしなみが整っているのは慎二さんだけで、奏の姉二人は寝起きとばかりに盛大にあくびをしている。

 どんどん焼き上がるフレンチトーストをテーブルに並べて、全員で手を合わせてから食べた。こんな大人数でテーブルを囲むのは久しぶりで、楽しくなってくる。

「薫も楓も日曜の夕方に帰るんだろ? じゃあ今日はみんなで出かけよう!」

「モールはどう? 私服みたいんだけど」

 慎二さんの提案に、楓さんがこういえば満場一致でモール行きが決まった。

「颯人くんは何時に帰りたいとかある?」

 佳奈さんに言われて首を横に振ると、俺の参加も決定した。昨日の夜から家族団欒の場をこんなに邪魔していいのか不安になるが、佳奈さんはお客さんがいるときは、それが楽しいんだからという。

 何時にリビング集合と慎二さんが言って、食事を終えた俺たちはそれぞれの支度を始めた。

 洗面所で着替えさせてもらって、髪を適当に解かしてリビングに戻ると、まだ誰もいなかった。ソファで待っていると二階から笑い声が聞こえてくる。途中、楓さんが下りてきて、俺の方を見ると「うん!」と言ってまた消えていった。

 時間になるとみんなが下りてきた。女性陣がおしゃれなのはともかく、慎二さんが爽やかなシャツを着こなしていて驚いた。

 奏はいつもこんなにかっこいい大人の男を見てるのか……。

 一方奏の服装は……、どう見ても俺の服装を意識したものだった。白いシャツにジーンズでまとめた俺の服は、姉がネットで選んで宅配してもらったものだが、それに合わせるようなカジュアルなシャツとハーフパンツ。居心地が悪そうにちらちらとこっちを見ている奏は可愛かった。

「奏の服は私たちが組みましたー」

 楓さんがそういうので、さっきわざわざ下りてきて俺を見たのはそういうことか、と納得した。なんだか俺の恋心はこの二人の姉によって遊ばれているなと思いながら、促されるまま車に乗り込んだ。


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