君の紡ぐ言葉が聴きたい

月内結芽斗

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 佳奈さんが俺の分の布団を出してくれた。布団は奏の部屋のベッドの下に敷かれた。

 奏が風呂でいないときに勝手に俺の寝床を作っていいのだろうかと疑問に思ったが、佳奈さんは何も気にしていないようで、呑気に鼻歌を歌っていると思ったら、「アイス食べる?」と聞いてきた。

「……奏が出たら食べます」

 佳奈さんは俺の公開処刑の場にいなかったが、あの後走って消えた慎二さんによってすっかり報告を受けているようで、俺の顔を見るたびに意味深な視線を送ってくる。

 奏の家族に偏見を持っている人がいないのはよかったが、息子に向けられる同性からの恋愛感情をここまで歓迎されると、逆に困るというのが本当のところだった。

 ……俺の親だったらこうはいかないんだろうな。

 奏が風呂からあがると、佳奈さんは宣言通り俺たちを手招いてアイスを選ばせた。二人でソファに座りそれを食べていると、慎二さんが来て写真を撮って去っていく。

 隣で緊張した様子の奏にあまり話しかけないようにしながら、テレビに集中しているフリを続けていると、姉二人もいつの間にか風呂に入っていたようで、部屋着とすっぴんで現れた。

「イケメンにすっぴん見られるのは嫌だなあ」
 そんなことを言いながらも楓さんは、フローリングに横になり、顔にクリームを塗っている。

 気づいたことだが、この家の人間は誰も自分の部屋に篭らないみたいだった。それぞれスマホをいじったり、テレビを見たり、好きなことをしていて会話をしているわけではないがリビングにいる。それが不思議な光景だった。

 時計が十時を指した頃、奏が立ち上がった。もう部屋に行くというので、俺も鞄から歯ブラシと歯磨き粉を出して、一緒に洗面所に向かった。

「おやすみー」

 寝る支度が整うと、奏が一度リビングに顔を出して声をかける。まだリビングにいた家族たちがこっちに向かってきたと思ったら、奏にハグをした。

 驚きながらその様子を見ていると、今度は俺もみんなにハグされた。そういえば奏が熱を出した日に、佳奈さんにハグをされたなと思い出したが、これは家族みんながやる行為だったらしい。

 不思議な気分になりながら奏について彼の部屋に行くと、入ってすぐのところで、奏が固まっていた。

「そそそ、そうだっよね……」
「どうかした?」

 予想だと奏は、俺がこの部屋で寝るのだということを失念していたのだろう。そりゃあゲストルームがあるわけでもないのなら、友人の部屋に泊まるのが一般的だ。そのことを、ベッドの下に敷かれた布団を見てやっと思い出したようだった。

「なっなんでもない。……み、宮瀬くっんはべ、ベッド使って」
「いやそれはさすがに悪いよ。俺は布団でいい」

 奏と同じ部屋で寝るだけでも嬉しくて、眠れなそうなのに、それが普段奏が使っている、奏の匂いがするベッドで寝るなんてなったら余計にやばいだろう。慮ってくれ。

 何度も瞬きをし、視線を泳がせた奏はとうとう諦めたのか、自分のベッドに登った。俺もにっこり笑って布団に入る。

「み、宮瀬くん、ね、眠い?」

 このまま寝るのかなと思ってじっと奏の部屋の天井を見つめていたら、ベッドの縁の向こうから声をかけられた。

「正直まだ眠くないかな? 奏は?」
「ぼ、僕もね、眠くない。…………あっあの!」
「何?」

「みっ宮瀬くん、あの、と図書と、当番、ありがとう。きっ今日ずっと、おお礼言いたくて……」

 ……図書当番。奏が熱を出した時に代わりに出たことを言っているのだろうことはわかった。

「先生に聞いたの? 口止めしたんだけどな」
「いっいや、ああの、日誌読んで……」

 日誌と聞いて途端に自分の耳が赤くなるのを感じた。日誌を読んだということは、あのうさぎの絵なんかも見たということだろうか。

「いや、あれは……。もしかして絵とか見た?」
「……み、見ました」

 奏の代わりに当番に出ると言った俺に、司書教諭が日誌を渡してきた。当番の生徒は放課後の回でこれを書かないといけないらしく、前の生徒の書いたものを参考にして書いて欲しいと言われたので、一通りみんなのものを読んだのだ。

 中にはもちろん奏のものもあって、奏は真面目に事務的なことを綺麗な字で書いていたが、他の生徒は、アニメのキャラの絵だったり、どうでもいい一言だったりを余白に書き込んでいた。

 図書当番のちょっとした伝統なのだと教諭がいうので、俺も何か書いてみたくなった。
 それでその時思っていたことをなんとはなしに書いたのだ。

 奏に読まれるなんて油断していた。奏なら、他人の書いたものを勝手に見ることを躊躇うだろうと思ったのだ。あんなほとんど告白みたいなこと……いや。

「……もう告白もしてるし、今更恥ずかしがってもな」

 考えていたことは声に出ていたらしい。奏が小さく息を呑む音が聞こえて、俺は体を起こした。ベッドに横になったまま、頬を押さえている奏が潤んだ目で俺を見ていた。

「……奏、もう寝る?」
「……うぅ、うん」

 元々部屋の電気はつけていなかった。そのまま布団に潜り直し、枕元に置いたスマホを取って、姉からメッセージが来てないか確認する。住所を送った俺に、了解のスタンプが届いていた。

 駿からもメッセージが届いていた。

――お前の家行ったんだけど、どっか行ってんの?

 数時間前のメッセージに急いで返事を打つ。

――悪い。奏の家に泊まってる。
――は? 状況が理解できなくて死ぬんだけど。……まあいいや。ファイト!

 すぐに返ってきたメッセージの激励に首を傾げていると、寝不足のうさぎのスタンプが続いた。

 ……明日の俺ってことね。

 時折聞こえる鼻を啜る音に、奏の風邪が長引いているのかと心配になりつつも、スマホを閉じて、俺は眠れないまま夜を過ごした。




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