君の紡ぐ言葉が聴きたい

月内結芽斗

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 モールに着くとすぐに宮本家の一人一人からお金を渡された。状況に戸惑っていると、佳奈さんがいつもの笑顔を浮かべて言う。

「私たちの買い物に付き合っててもつまらないと思うから、二人でどこかゲームセンターだったりカフェだったり行ってたらいいわよ」

「あ、ありがとうございます」

 彼らの笑顔を見ていたら嫌でも気づくがこれは強制的にデートの運びを作ったのだと思う。俺としてはありがたい気遣いだが、奏には困った状況なんじゃないだろうか。ちらりと横を見ると、やはり奏は大きな目をこれでもかと広げて母親に視線を送っていた。

「とりあえず私たちが欲しいものから見ていくから、あとで合流しましょう」
 去っていく四人に、奏は置いてかれた子犬のような顔をしていた。少しかわいそうだったけど、宮本家が俺の恋路を応援してくれているのだと思うと、背中を押された気分になる。

「奏はどこか見たいものとかある? なかったらまだお昼にも早いだろうし、ぷらぷらする?」
「う、うん」

 お互い喋らないまま一階から二階、二階から三階へと上がっていくと、本屋を見つけた。

「奏、本屋入ろうよ」
 本屋の言葉に反応したのか、ずっと俺の方を見ないようにしていた奏が顔をあげて笑った。

 二人で文芸コーナーを見て回る。本が好きな奏は自分から積極的に話しかけてくれた。お互いのおすすめの本を教えあったり、奏の好きな作家の次回作が発売予定なんてことを話していたら瞬く間に時間が過ぎる。

 奏が好きだと言っていた作品を何冊か手に取って買った。奏の手にも俺のおすすめした本が収まっていて、不思議な多幸感に満たされる。

 ブックカバーが選べるらしくて、お互いの本のカバーも選び合った。
 二人で肩を並べて本を選んでいるとき、奏は少し泣きそうな顔で微笑んでいた。

 本屋を出たのは二時間くらい経ってからだった。顔を見合わせて二人で驚いた。

「奏、お腹空いてない?」
「す、少し」

 時計はもう十二時を過ぎていたので、二人でカフェに入ることした。

 メニューを開くとパスタがそこそこあったが、メインはパンケーキらしく、パンケーキの種類が異様に多い。朝食がフレンチトーストだったから、入る店を間違ったと思ったが、奏はいちごパンケーキに目を輝かせていた。いつも学校で飲んでいたいちごミルクに甘党だと思っていたが、相当らしい。俺はパスタを頼んで料理が来るのを待った。

 料理が来たついでに、小皿を店員にお願いした。
 小皿にパスタを少し分けて奏に渡せば、首を傾げた。

「さすがにパンケーキだけじゃ飽きるかなと思って」
「あ、ありがとう」

 僕のもあげるよ、といって奏は二枚重ねのパンケーキにフォークを入れようとした。

「待って!」

 急いでスマホを取り出し、カメラを向ける。可愛いパンケーキと可愛い奏のセットを撮らないといけないと思ったからだ。奏は小さくピースをしてくれた。

「……可愛い」

 昨日から思っていることが口から滑ってしまう。奏に向けた言葉が溢れて、焦ってスマホをポケットに戻した。奏は今回ばかりはパンケーキのことを言っていると思ったらしく、うんうんと頷いた。

 そんな奏も可愛くて俺はテーブルの下で、駿にメッセージを送った。

――奏がかわいすぎるんだが。

 スマホ依存気味の駿の既読は早い。すぐに既読になった。

――お前のキモい顔がこっからよく見えるわ。

 何を言っているのかと思ったら、横のガラス窓をノックする音が聞こえた。顔をあげると店の外から駿がこっちに手を振っている。

 にっこり笑って店に入ってきた。

「デートですか?」
「……お前は何しにきたの?」

「普通に服買いに来たんだけど。俺も参加したいとこだけど、邪魔になっちゃうし行くわ。でもその前に……」

 駿は自分のスマホを取り出すと、カメラをこっちに向けて「笑えー」と言った。シャッター音がして、駿は満足したように頷いた。

「二人ってツーショット撮ったことないだろう? じゃあ」

 自分のしたいことだけして去っていった駿に、俺も奏も、ホールの店員も困惑していたと思う。

「なんかすみません」

 店員と目が合って謝れば頬を染めながら、問題ないと言ってくれた。

 宮本家の買い物が終わったと連絡が来たのは、ちょうど奏がパンケーキを食べ終わった時だった。特にみたい服とかもなかったから、そのまま駐車場で合流した。

 帰りの車の中はそれぞれ満足感に満たされていて、慎二さんと楓さんは流れてくる曲に合わせて歌っていた。

 一度宮本家に戻って鞄を回収した。慎二さんが車で送ると言ってくれたが、そこまでしてもらうのはさすがに申し訳ないから、パスタが腹に残っているから運動がてら歩くと告げた。

「ありがとうございました。お邪魔しました」
「いえいえ。颯人くんはこれからもいつでも来ていいわよ」

 玄関で一通りハグをされて、宮本家を出た。


奏が途中まで送りたいと言ってくれたので、一緒に歩いている。

 モールからの帰り道、奏にさっき駿が撮ってくれた写真を送ったら、嬉しそうに笑っていた。この二日間ほんのりと色づいていた奏の頬に、俺は自分の気持ちは少なからず奏に響いているんだと確信していた。あの時、保健室に連れていく途中、奏がつぶやいた好きの言葉も、俺に向けられていたのだろうと、もうなんとなくわかっていた。

 歩くたびに揺れる二人の影がくっついたり離れたりを繰り返している。

「ここまででいいよ」

 俺の家と奏の家のと中間地点に来たとき告げれば、奏は立ち止まって自分の靴を見つめた。自分の靴を見ながら、口を開く。躊躇っているようだった。
 言葉を紡いでいるのだろうと思った。

「み、宮瀬くん! あっあの……」

 結局まだ、奏は俺のことを苗字で呼んでいる。もう奏の家族に先を越されているよ、と思う。

「ずず、ずっと待たせてるけど、その、あの、ぼ僕、み宮瀬くんとはつ、付き合えない」

「……なんで?」

 思わず低い声が出てしまった。涙を溜めていた奏の瞳が俺を見つめる。

「ぼっ僕はみ、宮瀬くんとはつ、釣り合わない」
「なんでそう思うの?」
「だっだって……」

「俺は、釣り合うか、釣り合わないかじゃなくて奏が俺を好きか好きじゃないか知りたい。好きって思ってくれてるなら、付き合いたい」

 俺の本音に奏の眉間の皺が寄る。きっと一生懸命考えているのだろう。言葉を探しているのだろう。だけど、思っていることを口にする気はないのだ。沈黙が俺たちの間に壁を作っているみたいだった。想いはもう語られないのだろう。

「今日はもうここで」
「あっ……」

 よくないのはわかっているけれど、俺は奏を置いて歩き出した。

 奏は絶対に俺のことが好きだろう。なのに釣り合わないから付き合えないって、それじゃあ俺がこれまでしてきたことは、前提として無意味だったってことじゃないか。だったら期待してしまうから、あんなに嬉しそうに笑ったり、恥ずかしそうにしたり、戸惑ったり、頬を染めたりしないでくれよ。



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