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30 奏視点
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ずっと小さくなっていく宮瀬くんの背中を眺めていた。やっと足が動き出したとき、どれくらいの時間が経っていたのかはわからなかった。
昨日、宮瀬くんが僕の代わりに図書当番に出てくれていたと知って、日誌の中で僕のことを心配してくれているのに気づいて、すごく嬉しかった。
僕は宮瀬くんが好きだ。でも、いつの日か考える前にやめていた、これから自分たちがどうなりたいのかという疑問の回答は、どうしてもいいように答えられない。
僕は宮瀬くんとずっと一緒にいたい。笑った顔が見たい。優しい瞳が好き。僕の話を聞いてほしい……。
でも僕は宮瀬くんとは釣り合わない。確かに宮瀬くんは完璧じゃなかった。でも「宮瀬颯人は特別説」は本当だった。宮瀬くんは特別な人だ。それは彼がスポーツができるからだとか、勉強ができるからとかじゃなくて、宮瀬くんは宮瀬くんってだけで特別で……。
そんな宮瀬くんに、吃音の、あがり症の、勉強以外能のない僕が釣り合うわけがない。それは、神様が許さない。
とぼとぼと民家の周りを通りながら、他所の家の窓に反射した自分を見た。
僕は髪型を変えて、眼鏡を取って何がしたかったんだろう。宮瀬くんと同じ土俵に爪先だけでも入れたらと思っていたけれど、外見を変えただけで、宮瀬くんと並べるわけがなかったんだ。宮瀬くんと釣り合うかどうかはそんな簡単なことじゃない。馬鹿だ。
目から涙が溢れて、頬を伝った。拭いても拭いても間に合わなくて、僕はとうとう諦めた。自分のシャツにできた水たまりは、一瞬にして細かいシミになっていくんだろう。
やっと家に着いたと思ったけれど、もはやここには入りたくなかった。
僕の家族はみんな宮瀬くんを気に入っている。それはそうだ。相手は宮瀬颯人だ。好きにならない方がおかしい。そう。おかしいんだ。これから宮瀬くんは、出会う人、出会う人に好かれる。もちろんその中には恋愛的な好きもある。その中に、宮瀬くんと並んでも恥ずかしくない人がきっといる。
時間を稼ぎたくて、意味もなく家のポストを開けた。中には何もなかった。
小さくため息をついて静かに家に入った。
僕の家は、玄関を抜けたらすぐにリビングだから、リビングに誰かがいたら嫌でも会ってしまう。案の定、家族がみんな揃っていて、こっちを見てきた。
「ただいま」
聡い家族は僕の涙の跡に気づくはずだ。急いで顔を逸らした。このまま洗面所に向かって、それっきり部屋に行ってしまおう。
昨日、宮瀬くんも夕食が一緒になって、家族と仲良くなって、泊まることになって、正直とても楽しかった。宮瀬くんはよく笑うけれど、それは江川くんとか仲良い人がいるときに限られていて、あとはクラスメイトにも一定の境界を敷いて、社交的な笑顔を浮かべているばかりだ。
だからこうして宮瀬くんが僕の家族と話して、楽しそうに笑っているのを見ることができて、僕も楽しくなった。
でも、宮瀬くんがそばにいればいるだけ、僕は宮瀬くんのことだけを頭で思うことになる。今までは宮瀬くんの告白の返事は、勉強をしていれば紛らわすことができた。それに僕は甘えて、自分の弱さから目を逸らしていた。ただ宮瀬くんからの好意と優しさだけを受け取って、それで心動かされて、甘えて……。僕はもらうだけの盗人だ。
昨日、寝る前に暗い部屋の中であれこれと考えた。
背中の方から宮瀬くんの息遣いが聞こえてきて、僕は彼の告白を断ることを決意して、それで涙が溢れてしまった。
多分疲れて寝落ちして、気づいたら洗面所にいた。僕の隣には宮瀬くんがいて、ドキドキしたけれど、でも僕は宮瀬くんを振らないといけないのだ。
この「振る」なんて言葉を僕が使うなんて烏滸がましいのに。
家族の勢いに乗せられて、モールに行くことになって、強制的に二人きりになった。しかも姉さんたちの悪戯のせいで僕たちの服装は似た感じで。
でもこれは最後に僕がもらった思い出作りなんだと思って、宮瀬くんにも楽しんでもらいたくて、本屋に入ってからはたくさん話した。宮瀬くんの好きな作家が誰なのか、どういうジャンルを読むのか覚えたって活用されることはないのに、頭に詰め込んだ。
途中で江川くんに遭遇して、宮瀬くんとの写真を撮ってもらった。こうして思い出と写真があれば十分だ。
宮瀬くんが僕に抱いてくれている恋心だっていつか終わる。僕がそれを手放せなくても、宮瀬くんが手放してくれればいい。
髪型が変わった僕の容姿をみんなが褒めてくれた。それはもちろん嬉しかったけど、みんなから外見を褒められるたびに、仲良くなりたいと思っていたと言われるたびに、それが彫刻刀のように心を静かに削っていく。
見た目を変えれば、こんな僕でも綺麗な版画が完成すると思っていた。
僕が自分の外見を変える決意をしたのは宮瀬くんに少しでも釣り合いたいと思ったからだ。なのにその釣り合いたいという焦燥が、矛盾を起こして僕を引っ張った。そうして僕の嫌いな僕を浮き彫りにして、目立たせた。
昨日、宮瀬くんが僕の代わりに図書当番に出てくれていたと知って、日誌の中で僕のことを心配してくれているのに気づいて、すごく嬉しかった。
僕は宮瀬くんが好きだ。でも、いつの日か考える前にやめていた、これから自分たちがどうなりたいのかという疑問の回答は、どうしてもいいように答えられない。
僕は宮瀬くんとずっと一緒にいたい。笑った顔が見たい。優しい瞳が好き。僕の話を聞いてほしい……。
でも僕は宮瀬くんとは釣り合わない。確かに宮瀬くんは完璧じゃなかった。でも「宮瀬颯人は特別説」は本当だった。宮瀬くんは特別な人だ。それは彼がスポーツができるからだとか、勉強ができるからとかじゃなくて、宮瀬くんは宮瀬くんってだけで特別で……。
そんな宮瀬くんに、吃音の、あがり症の、勉強以外能のない僕が釣り合うわけがない。それは、神様が許さない。
とぼとぼと民家の周りを通りながら、他所の家の窓に反射した自分を見た。
僕は髪型を変えて、眼鏡を取って何がしたかったんだろう。宮瀬くんと同じ土俵に爪先だけでも入れたらと思っていたけれど、外見を変えただけで、宮瀬くんと並べるわけがなかったんだ。宮瀬くんと釣り合うかどうかはそんな簡単なことじゃない。馬鹿だ。
目から涙が溢れて、頬を伝った。拭いても拭いても間に合わなくて、僕はとうとう諦めた。自分のシャツにできた水たまりは、一瞬にして細かいシミになっていくんだろう。
やっと家に着いたと思ったけれど、もはやここには入りたくなかった。
僕の家族はみんな宮瀬くんを気に入っている。それはそうだ。相手は宮瀬颯人だ。好きにならない方がおかしい。そう。おかしいんだ。これから宮瀬くんは、出会う人、出会う人に好かれる。もちろんその中には恋愛的な好きもある。その中に、宮瀬くんと並んでも恥ずかしくない人がきっといる。
時間を稼ぎたくて、意味もなく家のポストを開けた。中には何もなかった。
小さくため息をついて静かに家に入った。
僕の家は、玄関を抜けたらすぐにリビングだから、リビングに誰かがいたら嫌でも会ってしまう。案の定、家族がみんな揃っていて、こっちを見てきた。
「ただいま」
聡い家族は僕の涙の跡に気づくはずだ。急いで顔を逸らした。このまま洗面所に向かって、それっきり部屋に行ってしまおう。
昨日、宮瀬くんも夕食が一緒になって、家族と仲良くなって、泊まることになって、正直とても楽しかった。宮瀬くんはよく笑うけれど、それは江川くんとか仲良い人がいるときに限られていて、あとはクラスメイトにも一定の境界を敷いて、社交的な笑顔を浮かべているばかりだ。
だからこうして宮瀬くんが僕の家族と話して、楽しそうに笑っているのを見ることができて、僕も楽しくなった。
でも、宮瀬くんがそばにいればいるだけ、僕は宮瀬くんのことだけを頭で思うことになる。今までは宮瀬くんの告白の返事は、勉強をしていれば紛らわすことができた。それに僕は甘えて、自分の弱さから目を逸らしていた。ただ宮瀬くんからの好意と優しさだけを受け取って、それで心動かされて、甘えて……。僕はもらうだけの盗人だ。
昨日、寝る前に暗い部屋の中であれこれと考えた。
背中の方から宮瀬くんの息遣いが聞こえてきて、僕は彼の告白を断ることを決意して、それで涙が溢れてしまった。
多分疲れて寝落ちして、気づいたら洗面所にいた。僕の隣には宮瀬くんがいて、ドキドキしたけれど、でも僕は宮瀬くんを振らないといけないのだ。
この「振る」なんて言葉を僕が使うなんて烏滸がましいのに。
家族の勢いに乗せられて、モールに行くことになって、強制的に二人きりになった。しかも姉さんたちの悪戯のせいで僕たちの服装は似た感じで。
でもこれは最後に僕がもらった思い出作りなんだと思って、宮瀬くんにも楽しんでもらいたくて、本屋に入ってからはたくさん話した。宮瀬くんの好きな作家が誰なのか、どういうジャンルを読むのか覚えたって活用されることはないのに、頭に詰め込んだ。
途中で江川くんに遭遇して、宮瀬くんとの写真を撮ってもらった。こうして思い出と写真があれば十分だ。
宮瀬くんが僕に抱いてくれている恋心だっていつか終わる。僕がそれを手放せなくても、宮瀬くんが手放してくれればいい。
髪型が変わった僕の容姿をみんなが褒めてくれた。それはもちろん嬉しかったけど、みんなから外見を褒められるたびに、仲良くなりたいと思っていたと言われるたびに、それが彫刻刀のように心を静かに削っていく。
見た目を変えれば、こんな僕でも綺麗な版画が完成すると思っていた。
僕が自分の外見を変える決意をしたのは宮瀬くんに少しでも釣り合いたいと思ったからだ。なのにその釣り合いたいという焦燥が、矛盾を起こして僕を引っ張った。そうして僕の嫌いな僕を浮き彫りにして、目立たせた。
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