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番外編
番外編4. 修学旅行-6
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ホームステイ最終日、スーツケースを車に詰め終えた僕たちは、お母さんとベイリーに別れを告げた。今朝起きた時にリビングに僕たちの写真が増えているのはすごく嬉しかった。
駿くんは誰よりもベイリーと別れるのを惜しんでいて、口には出さないけど駿くんがべそをかいていたことにはみんな気づいていたと思う。
高校まで送ってもらって、お父さんとケビンとも別れて僕たちの短いホームステイは終わった。
ケビンは僕との日本での約束をもう一度取り付けると、自分の授業へと向かっていった。
午後からは、アメリカにある日本の会社を訪問して話を聞いた。
そして、今日は世界的なあのテーマパークに行く!
朝早くバスに乗って広い駐車場に入った僕たちは、ワクワクした気持ちでゲートを抜けて園内に入った。加藤先生から園内での注意を受けて、早速別行動が始まった。
「どっどこから行く?」
「奏がなんだかいつもより機嫌よくね? 花飛んでる?」
駿くんの指摘に颯人が笑った。
「奏は遊園地好きなんだよね。こないだ日本で行ったときもすごくはしゃいでたんだよ」
「へえ、意外ではないか。じゃあ、早速カチューシャ買お!」
駿くんが楽しみにしていたカチューシャを見に店に入った。中には同じ学校の子がたくさんいた。みんなの行動パターンが似ているのはおもしろい。
「えっこんなにすんの? 日本の倍じゃん!」
しんどっとこぼす駿くんは、値札をじっと睨んでいた。建物の壁一面を埋めてしまうほどのカチューシャが並んでいる前で、駿くんはつらつらと不満をこぼす。
「日本から持ってきておいて正解だったわ」
将吾は中学の卒業遠足で買ったというカチューシャを頭につけた。死ぬまでに一回使うかどうかのカチューシャにそんなにお金をかけられないと言っていたけど、持ってきて正解だったと僕も値札を見ながら思った。将吾はカチューシャをつけることに積極的ではなかったし、みんなに合わせて無理に買う必要もないだろう。むしろ着けてくれているだけ優しい。
颯人もあまりカチューシャには興味がないみたいで、いくつかとってみるけど、みんな僕の頭に着けて写真を撮るだけだった。
「あっ宮本くんもここに来たんだ!」
「村田さん!」
振り返れば村田さんと同じグループの子がこっちに向かって手を振っていた。
「カチューシャ選んでるの?」
村田さんは僕が唯一気兼ねなく話せる女子だ。僕の服装を見て一つ選んでくれる。
「これがいいと思うよ! 颯人くんはこれ!」
村田さんに渡されたカチューシャはデザインは違うけれど、色がよく似た二つで、僕のが可愛い系統だとしたら、颯人のがお洒落な系統という感じだった。颯人は僕に顔を寄せて鏡越しに頷いて見せると、「これにしよう?」とお願いしてきた。
僕らがカチューシャを買って、駿くんも一つ気に入ったのを選ぶと、村田さんが僕のことを呼んだ。
「宮本くん、この後どこ行くか決めた? よかったら私たちと一緒に行動しない?」
その誘いに不思議に思っていたら村田さんの後ろに立っている子が颯人のことをチラチラと見ていた。それでわかった。
嫌だな。どうしよう。
「一つだけ、一つだけ一緒に乗ろ? あの子がどうしても推しと遊びたいってうるさいの。狙ってるとかじゃないから、ね?」
村田さんにしては少し強引なお願いだ。だから僕は受け入れた。颯人たちも別に構わないと言うから一つだけアトラクションを選んで、それにみんなで並んだ。
さっきの女の子は颯人と話すわけではなかった。ただ僕たちを観察している感じで、颯人は見られることに慣れているのか、その視線には気づいていなかった。
アトラクションが終わると、最後にみんなで写真を撮って別れた。本当に一つだけでよかったらしかった。
村田さんがあんな顔してお願いするなんて、あの子は村田さんの弱みでも握ってるのかな。……勝手な想像は良くないか。
そのあとも一日中、どこかに入ろうとするたびに誰かに会って同じアトラクションに乗るという流れを繰り返した。バスケ部の男子が三組、将吾のサッカー部の友人がいるグループが一組。加藤先生と会ったので先生とも一つ乗った。
みんなが人気者だということがアメリカでも証明された。ただ日が暮れる頃には、全員気疲れしていて、僕たちは早めの夕食を食べることにした。
そこで今度は木下くんたちに会った。
「おっ颯人たちじゃん。同じテーブル座っていい?」
横長のテーブルだったから、木下くんのグループも難なく座れた。
「ほんとここすごいな。規模が全然違うし、アトラクションもえぐいわ」
一人が口を開くと、颯人は「そうだね」と微笑んだ。
「おい、将吾そんなカチューシャここに売ってたか?」
「日本から持ってきた」
「まじか」
木下くんはサッカー部だけど、将吾の態度はよそよそしい。あまり歓迎してないから、仲がいいわけではないのかもしれない。
話をする担当は専ら木下くんたちで、僕たちは相槌を打ちながら、食事をしていた。駿くんは飽きてきたのか、最後の数本のポテトを弄ぶように突いていた。
「いやあ、でも俺たちほんとにアメリカにいるんだな。すごくね?」
「な。そういや颯人は親がこっちに住んでんだろ? 会いに行かないの?」
ポテトを五本くらい一気に掴んだ木下くんが思い出したようにいう。
「親はニューヨークの方だから、反対側」
「じゃあ会いにはいけないか? 親は来てくんないの? ずっと会ってないんだろ?」
颯人は小さく微笑んだ。
「仕事も忙しいだろうし、会えるかわからないのに来てもらうのは悪いから」
「アメリカって有給ないの?」
親は寂しくないのかねえ、と何気なく口にする木下くんに悪意はないのかもしれない。不思議そうに笑っているから。でも、少し気になる言い方だった。颯人は少し困ったように笑顔を返した。
「俺だったら行くけどなあ。俺、遠距離とかでも多分恋人悲しませないわ」
「そっそう?」
なぜかこっちを見てくる木下くんに、僕は戸惑いながら反応を返した。
「そうそう! それに俺――」
「いや普通に仕事忙しかったら来れないだろ。県を一つ車で跨ぐのとはわけが違うんだから。西海岸と東海岸だぞ?」
木下くんたちが来てからずっと黙っていた駿くんが、呆れたとばかりに笑った。少しピリピリしていて、僕は将吾と顔を見合わせた。将吾は眉をあげて驚いている。冗談好きでたまに辛辣だけど、基本的に性格は穏やかな駿くんがこんなに冷たい声を出すとは思わなかった。
「はははっ、木下は地理弱いもんなあ」
木下くんのグループの子が取り繕うように笑った。それに合わせて他の子たちも笑顔を見せる。颯人も問題は何もないように微笑んでいけれど、平気なのだろうか。
颯人は何も言わないけれど、たぶん両親との折り合いが良くないのだと思う。前に颯人の家に行って、お姉さんに会ったときに僕の家族の話になった。その時にお姉さんが「仲良しで羨ましいなあ」と言ったのが印象に残っている。
引っ掛かったその言葉が、駿くんの反応や颯人の困った笑顔と重なる。
三人のお皿を見れば、僕以外は全員食べ終わっていた。僕はわざとスマホで時間を確認するような仕草をしてみせた。
「きっ木下くん、ぼ僕のポテトたっ食べていいよ。もう、僕、おっお腹いっいっぱいだから」
「まじ?」
僕は自分のお皿を木下くんに渡して席を立った。
「ぼっ僕たちは、ほか、他にも乗る予定のあるからっもう行くね。ね、颯人?」
颯人の腕を引っ張れば素直に従って、駿くんや将吾も席を立った。そのまま僕たちは一番近いアトラクションに並んだ。
「奏ってたまにかっこいいな」
「えったまに?」
「たまに。俺が木下嫌いなの知ってての行動だろ?」
僕は多分少しだけ瞠目した。
駿くんも優しいと思う。人のこと嫌いなんてそうそう言うものではないけど、そうやって言うことで、たぶん颯人のことを気遣っているから。
「みんなかっこいいよ。ありがとう」
颯人がいつもする穏やかな笑顔を浮かべるので、安心して僕も笑った。
「将吾、学校一の男に褒めてもらえてよかったな。オプションだけど」
「オプションだけどな」
「にしてもよく木下と一緒に部活できるよな」
「あいつ運動はできるから」
将吾の発言はギリギリ悪口になるのかな?
木下くんがいなかったら、僕はあの日、体育館までたどり着くことも、颯人に告白することもできなかったかもしれない。木下くんはあの時助けてくれたんだ。
だから決して運動ができるだけではないはずだけど……。
そんなことを考えながら二人のテンポのいい会話を聞いていたら、颯人が僕の手を握った。僕も力を込めてそれに気持ちを返す。
「確かにシャトルラン、ガチってたなー。……ていうか俺たちまだ四人で写真撮ってなくね?」
やっぱりこのメンバーが落ち着くし、楽しいと思ってしまった。みんなもそう思ってくれてたら嬉しい。
並んだアトラクションは映像型で思ったよりも激しかった。胃のなかのジャンクフードが少し暴れたけど、颯人が子どもみたいに声を出してはしゃいでいたから、僕も一緒になって大笑いした。
駿くんは誰よりもベイリーと別れるのを惜しんでいて、口には出さないけど駿くんがべそをかいていたことにはみんな気づいていたと思う。
高校まで送ってもらって、お父さんとケビンとも別れて僕たちの短いホームステイは終わった。
ケビンは僕との日本での約束をもう一度取り付けると、自分の授業へと向かっていった。
午後からは、アメリカにある日本の会社を訪問して話を聞いた。
そして、今日は世界的なあのテーマパークに行く!
朝早くバスに乗って広い駐車場に入った僕たちは、ワクワクした気持ちでゲートを抜けて園内に入った。加藤先生から園内での注意を受けて、早速別行動が始まった。
「どっどこから行く?」
「奏がなんだかいつもより機嫌よくね? 花飛んでる?」
駿くんの指摘に颯人が笑った。
「奏は遊園地好きなんだよね。こないだ日本で行ったときもすごくはしゃいでたんだよ」
「へえ、意外ではないか。じゃあ、早速カチューシャ買お!」
駿くんが楽しみにしていたカチューシャを見に店に入った。中には同じ学校の子がたくさんいた。みんなの行動パターンが似ているのはおもしろい。
「えっこんなにすんの? 日本の倍じゃん!」
しんどっとこぼす駿くんは、値札をじっと睨んでいた。建物の壁一面を埋めてしまうほどのカチューシャが並んでいる前で、駿くんはつらつらと不満をこぼす。
「日本から持ってきておいて正解だったわ」
将吾は中学の卒業遠足で買ったというカチューシャを頭につけた。死ぬまでに一回使うかどうかのカチューシャにそんなにお金をかけられないと言っていたけど、持ってきて正解だったと僕も値札を見ながら思った。将吾はカチューシャをつけることに積極的ではなかったし、みんなに合わせて無理に買う必要もないだろう。むしろ着けてくれているだけ優しい。
颯人もあまりカチューシャには興味がないみたいで、いくつかとってみるけど、みんな僕の頭に着けて写真を撮るだけだった。
「あっ宮本くんもここに来たんだ!」
「村田さん!」
振り返れば村田さんと同じグループの子がこっちに向かって手を振っていた。
「カチューシャ選んでるの?」
村田さんは僕が唯一気兼ねなく話せる女子だ。僕の服装を見て一つ選んでくれる。
「これがいいと思うよ! 颯人くんはこれ!」
村田さんに渡されたカチューシャはデザインは違うけれど、色がよく似た二つで、僕のが可愛い系統だとしたら、颯人のがお洒落な系統という感じだった。颯人は僕に顔を寄せて鏡越しに頷いて見せると、「これにしよう?」とお願いしてきた。
僕らがカチューシャを買って、駿くんも一つ気に入ったのを選ぶと、村田さんが僕のことを呼んだ。
「宮本くん、この後どこ行くか決めた? よかったら私たちと一緒に行動しない?」
その誘いに不思議に思っていたら村田さんの後ろに立っている子が颯人のことをチラチラと見ていた。それでわかった。
嫌だな。どうしよう。
「一つだけ、一つだけ一緒に乗ろ? あの子がどうしても推しと遊びたいってうるさいの。狙ってるとかじゃないから、ね?」
村田さんにしては少し強引なお願いだ。だから僕は受け入れた。颯人たちも別に構わないと言うから一つだけアトラクションを選んで、それにみんなで並んだ。
さっきの女の子は颯人と話すわけではなかった。ただ僕たちを観察している感じで、颯人は見られることに慣れているのか、その視線には気づいていなかった。
アトラクションが終わると、最後にみんなで写真を撮って別れた。本当に一つだけでよかったらしかった。
村田さんがあんな顔してお願いするなんて、あの子は村田さんの弱みでも握ってるのかな。……勝手な想像は良くないか。
そのあとも一日中、どこかに入ろうとするたびに誰かに会って同じアトラクションに乗るという流れを繰り返した。バスケ部の男子が三組、将吾のサッカー部の友人がいるグループが一組。加藤先生と会ったので先生とも一つ乗った。
みんなが人気者だということがアメリカでも証明された。ただ日が暮れる頃には、全員気疲れしていて、僕たちは早めの夕食を食べることにした。
そこで今度は木下くんたちに会った。
「おっ颯人たちじゃん。同じテーブル座っていい?」
横長のテーブルだったから、木下くんのグループも難なく座れた。
「ほんとここすごいな。規模が全然違うし、アトラクションもえぐいわ」
一人が口を開くと、颯人は「そうだね」と微笑んだ。
「おい、将吾そんなカチューシャここに売ってたか?」
「日本から持ってきた」
「まじか」
木下くんはサッカー部だけど、将吾の態度はよそよそしい。あまり歓迎してないから、仲がいいわけではないのかもしれない。
話をする担当は専ら木下くんたちで、僕たちは相槌を打ちながら、食事をしていた。駿くんは飽きてきたのか、最後の数本のポテトを弄ぶように突いていた。
「いやあ、でも俺たちほんとにアメリカにいるんだな。すごくね?」
「な。そういや颯人は親がこっちに住んでんだろ? 会いに行かないの?」
ポテトを五本くらい一気に掴んだ木下くんが思い出したようにいう。
「親はニューヨークの方だから、反対側」
「じゃあ会いにはいけないか? 親は来てくんないの? ずっと会ってないんだろ?」
颯人は小さく微笑んだ。
「仕事も忙しいだろうし、会えるかわからないのに来てもらうのは悪いから」
「アメリカって有給ないの?」
親は寂しくないのかねえ、と何気なく口にする木下くんに悪意はないのかもしれない。不思議そうに笑っているから。でも、少し気になる言い方だった。颯人は少し困ったように笑顔を返した。
「俺だったら行くけどなあ。俺、遠距離とかでも多分恋人悲しませないわ」
「そっそう?」
なぜかこっちを見てくる木下くんに、僕は戸惑いながら反応を返した。
「そうそう! それに俺――」
「いや普通に仕事忙しかったら来れないだろ。県を一つ車で跨ぐのとはわけが違うんだから。西海岸と東海岸だぞ?」
木下くんたちが来てからずっと黙っていた駿くんが、呆れたとばかりに笑った。少しピリピリしていて、僕は将吾と顔を見合わせた。将吾は眉をあげて驚いている。冗談好きでたまに辛辣だけど、基本的に性格は穏やかな駿くんがこんなに冷たい声を出すとは思わなかった。
「はははっ、木下は地理弱いもんなあ」
木下くんのグループの子が取り繕うように笑った。それに合わせて他の子たちも笑顔を見せる。颯人も問題は何もないように微笑んでいけれど、平気なのだろうか。
颯人は何も言わないけれど、たぶん両親との折り合いが良くないのだと思う。前に颯人の家に行って、お姉さんに会ったときに僕の家族の話になった。その時にお姉さんが「仲良しで羨ましいなあ」と言ったのが印象に残っている。
引っ掛かったその言葉が、駿くんの反応や颯人の困った笑顔と重なる。
三人のお皿を見れば、僕以外は全員食べ終わっていた。僕はわざとスマホで時間を確認するような仕草をしてみせた。
「きっ木下くん、ぼ僕のポテトたっ食べていいよ。もう、僕、おっお腹いっいっぱいだから」
「まじ?」
僕は自分のお皿を木下くんに渡して席を立った。
「ぼっ僕たちは、ほか、他にも乗る予定のあるからっもう行くね。ね、颯人?」
颯人の腕を引っ張れば素直に従って、駿くんや将吾も席を立った。そのまま僕たちは一番近いアトラクションに並んだ。
「奏ってたまにかっこいいな」
「えったまに?」
「たまに。俺が木下嫌いなの知ってての行動だろ?」
僕は多分少しだけ瞠目した。
駿くんも優しいと思う。人のこと嫌いなんてそうそう言うものではないけど、そうやって言うことで、たぶん颯人のことを気遣っているから。
「みんなかっこいいよ。ありがとう」
颯人がいつもする穏やかな笑顔を浮かべるので、安心して僕も笑った。
「将吾、学校一の男に褒めてもらえてよかったな。オプションだけど」
「オプションだけどな」
「にしてもよく木下と一緒に部活できるよな」
「あいつ運動はできるから」
将吾の発言はギリギリ悪口になるのかな?
木下くんがいなかったら、僕はあの日、体育館までたどり着くことも、颯人に告白することもできなかったかもしれない。木下くんはあの時助けてくれたんだ。
だから決して運動ができるだけではないはずだけど……。
そんなことを考えながら二人のテンポのいい会話を聞いていたら、颯人が僕の手を握った。僕も力を込めてそれに気持ちを返す。
「確かにシャトルラン、ガチってたなー。……ていうか俺たちまだ四人で写真撮ってなくね?」
やっぱりこのメンバーが落ち着くし、楽しいと思ってしまった。みんなもそう思ってくれてたら嬉しい。
並んだアトラクションは映像型で思ったよりも激しかった。胃のなかのジャンクフードが少し暴れたけど、颯人が子どもみたいに声を出してはしゃいでいたから、僕も一緒になって大笑いした。
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