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番外編
番外編5. ラブレター
しおりを挟む修学旅行が終わって僕は不思議な無力感に襲われていた。キラキラした思い出はもう昔のことのように心を温めるだけだ。僕たちはもうアメリカにいない。
僕の無気力を読み取ったのか、颯人が僕にチラシを見せてきたのは、修学旅行が終わって一ヶ月後のことだった。
「高校生エッセイコンテスト?」
「そう。挑戦してみたらどうかと思って」
前の席に腰を落とす颯人は、僕を見上げるように顔を覗かせた。
「でっでも僕なんかにエッセイかけるかな?」
「なんか、じゃないよ。ものは試しで出してみるのもありだと思ったんだ」
颯人が見せてきた緑色のチラシを握って僕はしばらく考えた。確かに賞を目的にしてエッセイを書くわけでもないし、気楽に挑戦してみるのもいいかもしれない。
「うん。やってみるよ」
颯人はにっこりと笑った。
チラシを家に持ち帰ってリビングで悩んでいたら、父さんが帰ってきてテーブルの上のチラシをのぞいてきた。
「コンテストに参加するのか?」
「うん、颯人に勧められて」
「そうか。颯人くんはやっぱりいい子だね」
父さんの発言の意味するところはいまいちわからなかったけど、颯人が褒められたので僕も頷いた。
「挑戦してみるといいね」
「うん。でも何を書けばいいかわからなくて」
僕の言葉に父さんはしばらく悩む素振りを見せた。
「父さんは家は描けても、文章は書けないからなあ。ああ、テーマが自由なら、奏のワクワクすることを書けばいい」
「ワクワクすること……。そうするよ」
夕食も入浴も終えて寝る支度を整えた僕は、早々に部屋に引き上げ、ベッドに突っ伏した。
「何を書けば……、とりあえず宿題から終わらせよう」
頭の中に颯人の笑顔が浮かぶけど、まさか自分の恋人自慢なんて書けるわけがない。
英語の教科書を引っ張り出して、指定された範囲を日本語訳していたらあっという間に時間が過ぎたから、部屋の電気を消した。
あれから一週間、僕は何もアイデアが思いつかないまま、モヤモヤして過ごした。
「颯人のせいで奏が悩んでるぞ」
「悪いことしちゃったかな」
颯人が将吾に答えていたけど、まったくそんなことはない。颯人が提案してくれたことだけど、やると決めたのは僕なんだ。
「そういえば奏って去年の読書感想文で賞とってたじゃん。そのときの感覚を思い出して書けばいけるんじゃない?」
駿くんの指摘に僕はしばらく考えた。確かに去年は読書感想文で賞を獲った。でもあれはまぐれだと思う。それに感想文とエッセイではまったくの別物なんじゃないだろうか。
「まあ、期限までまだ時間はあるんだし、急ぐ必要ないだろ」
確かに締め切りまでまだ時間がある。焦りすぎるのはやめて僕はとにかくペンを握って心と向き合ってみようと思った。
毎日のルーティンで日記を書いている。今日も僕は机の上で日記を開いた。たまに最初の方のページを振り返って一人で恥ずかしくなることがあるけど、ページを捲れば捲るだけ、僕はどれだけ颯人や将吾たちが大切なのか思い出す。僕の毎日が楽しいのはみんな、颯人たちのおかげなんだ。
ノートの新しいページを開く。日記を書くときはブルーブラックのペンを使っている。それはこの色が優しくて好きだから。
さらさらと刻まれる文字たちは羅列になって広がった。ページの最後まで行って、僕は目を見開く。
ここまで何も考えずに書いてしまった。こんなのまるでラブレターじゃないか!
書いたページの裏は白紙だったから、そのページは定規をあてて切った。ネットで調べた通りに折って、手紙みたいにした。
次の日、教室に入ると颯人がいた。朝練がなかったらしい。当たり前に僕の席に座っていて、僕はそれが心地良かった。
教室には他に誰もいなかった。
颯人の朝練がない日でも、僕たちは一緒には登校しない。颯人が顔をしかめながらそう決めたから。たまに電車や通学路で遭遇して、偶然一緒に登校するのを楽しもうと言っていた。本当はせっかくの機会だから一緒に登校したい。でも。それは颯人も同じなんだと思う。駿くんが教えてくれた。
ただ、颯人は僕のペースを大事に思ってくれていて、朝だけは僕は僕の思考に没頭するのだ。その後はずっと颯人のそばにいて、颯人の部活が終わるのを図書館で待って帰ったり、夕飯に招いたり、先に帰った日には、電話をしながら寝落ちする。
一人で登校できる朝が奏の唯一の自由時間だよ、と前に冗談のように言われた。それは颯人もそう。颯人が大好きな僕は、もらった「自由時間」を颯人に返すんだ。僕だってずっと颯人と一緒にいたいから。
これを言えば颯人は笑うかな。目を潤ませるかな。犬みたいにくっついてくるかな。
僕は颯人といる時間、一人でいる時間以上に僕でいられるんだと颯人は知っているかな。こんなに笑ったりドキドキしたり、緊張したり、自信を感じるのは颯人がいるときだけなんだ。颯人がそれをくれたんだ。
「おはよう、奏」
颯人の笑顔は十二月の薄暗い天気の中でもほっと溶ける太陽みたいだ。
「おはよう、颯人」
颯人が僕の席に座っているから、僕はその一つ前に座った。まっすぐ黒板の方を見ていれば、少し不安げな颯人の声がする。
「奏?」
僕が怒ってると思ったのかもしれない。でも僕は怒ってない。緊張している、だけ。
ポケットで温まった手紙を握りしめて、僕は颯人の方に勢いよく振り返った。僕の笑顔に颯人は戸惑いながらも同じだけの笑顔を返してくれる。
「これ読んで欲しい!」
握った手紙を机に置いて、颯人が手に取ってくれるのを待った。颯人はおずおずと僕の言葉が織られて重なった手紙を開いた。
綺麗な瞳が言葉を掬うのがわかる。
今どこを読んでるんだろう。僕の頬は赤くなる。耳は熱くなる。緊張が広がり、そのせいでまた熱ってくる。でも……、ずっと嫌いだったこの体質が、どうして今は心地良いんだろう。
颯人は最後まで読み終わってやっと顔を上げた。目が合えば、完璧な瞳がゆらゆら揺れながら煌めいているのがわかる。
「奏の言葉、大好きだよ」
—————————————————
番外編はここで終わりになります。
(……何か書きたい衝動に駆られてエピソードが増えるかもしれないですが)
ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。
奏が成長しながらもたまに自信を無くしてを繰り返している様子や、それでも日々を頑張っている様子を、颯人との恋愛を軸にして描くことができていたならとても良かったなと思います。
ありがとうございます!
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完結おめでとうございます!
このあと部員達から拡散されて、明日からは大騒ぎになるんでしょうね(*´艸`*)💕
また2人に会えるのを楽しみにしています♡
ありがとうございます!
もちろんこの後、部員たちによって拡散されました。休みを挟んで登校したとき、学校中の視線で奏はすごく恥ずかしい思いをしたと思います💦
ありがとうございます。また奏たちに会いにきてください!
奏くん!告白よく頑張ったね!(´;ω;`) 宮瀬くん嬉しいだろうなぁ✨
初めまして!ここまで読んでくださりありがとうございます!!!
本当に奏は頑張りました!自分との闘いでしたね。颯人はもう本当に嬉しかったと思います✨