神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井ゆの花

文字の大きさ
7 / 76
正編 第1章 追放、そして隣国へ

07

しおりを挟む
 海の見えるレストランでアメリアがラルドと愉しいひと時を過ごしている頃。時を同じくして、神殿内でも食事の準備は着々と進んでおり、珍しくレティアも料理人に混ざり王太子へのランチを制作することになった。

「へぇ。珍しくレティアがオレに、手料理を振る舞ってくれるのか。料理なんか作れたんだ……婚約が決定した記念の日だし、家族っぽいことをするのがいいのかもな」
「なぁに、それ。まるで私が一切、手料理を作れない女みたいじゃないっ。嫌味を言うためにキッチンまで様子を見に来たの?」
「だってキミって、何でもかんでもお姉さんのアメリアに面倒なことは押し付けて、功績だけは自分の手柄にしてしまう人だったから。意外だなって……楽しみにしてるよ」


 長年婚約していたアメリアを追放したものの、機嫌があまり良くない様子の王太子はレティアに対して八つ当たり気味だ。ピリピリとした空気が二人の間に流れたものの、仕事の続きを終わらせるため、王太子はキッチンを出て再び執務室に戻る。

 追い出しに成功し、次期王妃の座をも奪い、ようやく異母姉アメリアに勝てたと思っていた矢先の出来事。ふつふつと沸騰する鍋のように、レティアの心に異母姉に対するコンプレックスが甦ってきた。そして、チクチク嫌味を言う王太子に対する不満も。

(本当は、生贄の件……どうしようかと迷っていたけど。しょせん、王太子は馬鹿なんだって分かったわ。仮に魂が死んだって未練を残すほどの相手ではない、器ではない。そうよね?)

 ぐったりと煮込まれた人参を原形がなくなるまでミキサーにかけていると、暗部のメンバーが報告に現れた。

「レティア様、神殿追放の処分となったアメリア様ですが……。暗部追跡チームからの報告によると、どうやら例の運営者の男と港のレストランでのんびり食事をしているようで。だからと言って反逆行為をする訳でもなく、概ね安全なのではないかと」
「チッ……せっかく追放したのに、泣き喚きさえしないのね。ふんっ。あの姉がこの土地にいると私の計画が頓挫しかねないから、早く出て行ってくれるのを祈るばかりね」

 追放されて絶望しているはずの異母姉が、新しい男とランチデートを愉しんでいるとの報告が暗部から入り、ますます機嫌が悪くなるレティア。グルグルと回るミキサーの中身は、グチャグチャに引っ掻き回された心のようだ。

(せっかく、せっかく追放してやったのにっ。もっと泣いて、喚いて、私に土下座でもしたらこの国にいさせてやったのにっ……。けどお姉様、本当にこの国に未練がないんだ。この国が好きって昔は言っていたのに、私のことだって小さな頃は可愛がってくれていたのに)

『そうだよ、レティア。お前は小さい頃から一人なんだ。これからの人生、誰を崇拝すれば良いのかもう分かっただろう? 我だ……我なのだよ』

(あぁ、悪魔像の声がまた聞こえて来る。そうよ、お姉様も王太子も……私のこと、きっと仲が悪くなる前から嫌っていたに違いないわ。それなら、こんな国なんか……)

 時折、ほんの一瞬だけ姉を慕っていた頃の本来のレティアが顔を見せそうになると、途端に悪魔がその感情を掻き消す。レティアはどんどん、悪魔に心を傾けて言った。

「ところで、王太子様がお仕事を切り上げて、食堂で待っているそうですよ。せっかく次期王妃の座を掴めることになったのですから、ここは手作り料理で王太子様と仲を深めるのがよろしいかと」
「ふぅん……王太子様が。そうね、名案だわ。私の愛情を王太子様にもた~ぷり分らせてあげないとっ。さてと、ミキサーから人参を取り出して、もう一度煮込んで……うふふ。隠し味をちょこっと……ね」

 タイミングよく料理人がレティアの加虐心を刺激したのか、それとも最初からその手はずだったのか。
 薄ら笑いを浮かべながら、レティアは手作り人参スープに『隠し味の毒薬』を忍ばせた。もはや異母姉を精神面で痛ぶることは難しいと踏んだのか、彼女は憎しみの対象を身近な別の人物へとぶつけることにしたのである。


 * * *


 地下の儀式室では、未だ布をかけられた悪魔像が眠りから目覚めて、その身に命が宿る時を心待ちにしていた。自らの手足となり、心の奥底で繋がっている聖女レティアに、絶え間なく思念波を送り続ける。それは、どんな料理よりも高級な『食材』を手に入れるようにとの催促でもあった。

『我に捧げよ、我に生贄を。数百年ぶりの食事……待ち焦がれていたのだ。王家の魂を喰らう日を……』
『任せて下さいな、悪魔像様。すぐに下ごしらえが終わりますわ』
『生贄の食材としてふさわしいのは、やはり王族の血だろう。老齢した王よりもまだ若く、生命力にみなぎる王太子の方が好ましい。優れた容姿に恵まれ、運動や魔力にも長けて……思考力が落ちるのが玉に瑕だが、まぁ変に抵抗されても困るからな』
『ふふふ……本当にピッタリの、最適の食材がすぐに手に入りますから。若く美しく、体力や魔力に優れ、そして洗脳しやすい馬鹿な王太子がね……!』

 聖女レティアは料理をしながら、心の中で悪魔像に色良い返答を返していた。闇と手を結ぶための最高の手段を見出した眼差しで。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

母を亡くした公爵令嬢は、虐げられないが、今日も願いが叶わない

春風由実
恋愛
「何故お前が生きた?」 それは怪我をして長く眠っていたエルリカが、目覚めた直後に父親である公爵から掛けられた言葉だった。 「お前こそが、女神の元に行くべきだった!」 父親から強い口調で詰られたエルリカ。 普通の令嬢は、ここで泣くか、その後立ち直れなくなるという。 けれどエルリカは違った。 「あなたこそ、何をのうのうと元気にしているのですか?」 そうしてこの日父娘は、それぞれに絶縁を宣言した。 以来、母方の祖父母に引き取られ、侯爵領で過ごしてきたエルリカ。 ところが公爵は、いつまでもエルリカを除籍する手続きを実行しなかった。 おかげで名ばかりの公爵令嬢のまま、エルリカが王都へと戻る日がやって来てしまう──。

醜貌の聖女と呼ばれ、婚約破棄されましたが、実は本物の聖女でした

きまま
恋愛
王国の夜会で、第一王子のレオンハルトから婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リリエル・アルヴァリア。 顔を銀の仮面で隠していることから『醜貌の聖女』と嘲られ、不要と切り捨てられた彼女は、そのまま王城を追われることになる。 しかし、その後に待ち受ける国の運命は滅亡へと向かっていた——

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】全てを後悔しても、もう遅いですのよ。

アノマロカリス
恋愛
私の名前はレイラ・カストゥール侯爵令嬢で16歳。 この国である、レントグレマール王国の聖女を務めております。 生まれつき膨大な魔力を持って生まれた私は、侯爵家では異端の存在として扱われて来ました。 そんな私は少しでも両親の役に立って振り向いて欲しかったのですが… 両親は私に関心が無く、翌年に生まれたライラに全ての関心が行き…私はいない者として扱われました。 そして時が過ぎて… 私は聖女として王国で役に立っている頃、両親から見放された私ですが… レントグレマール王国の第一王子のカリオス王子との婚姻が決まりました。 これで少しは両親も…と考えておりましたが、両親の取った行動は…私の代わりに溺愛する妹を王子と婚姻させる為に動き、私に捏造した濡れ衣を着せて婚約破棄をさせました。 私は…別にカリオス王子との婚姻を望んでいた訳ではありませんので別に怒ってはいないのですが、怒っているのは捏造された内容でした。 私が6歳の時のレントグレマール王国は、色々と厄災が付き纏っていたので快適な暮らしをさせる為に結界を張ったのですが… そんな物は存在しないと言われました。 そうですか…それが答えなんですね? なら、後悔なさって下さいね。

聖女になんかなりたくない! 聖女認定される前に…私はバックれたいと思います。

アノマロカリス
恋愛
この作品の大半はコメディです。 侯爵家に生まれた双子のリアナとリアラ。 姉のリアナは光り輝く金髪と青い瞳を持つ少女。 一方、妹のリアラは不吉の象徴と言われた漆黒の髪に赤い瞳を持つ少女。 両親は姉のリアナを可愛がり、妹のリアラには両親だけではなく使用人すらもぞんざいに扱われていた。 ここまでは良くある話だが、問題はこの先… 果たして物語はどう進んで行くのでしょうか?

出来損ない令嬢は、双子の娘を持つ公爵様と契約結婚する~いつの間にか公爵様と7歳のかわいい双子たちに、めいっぱい溺愛されていました~

夏芽空
恋愛
子爵令嬢のエレナは、常に優秀な妹と比較され家族からひどい扱いを受けてきた。 しかし彼女は7歳の双子の娘を持つ公爵――ジオルトと契約結婚したことで、最低な家族の元を離れることができた。 しかも、条件は最高。公の場で妻を演じる以外は自由に過ごしていい上に、さらには給料までも出してくてれるという。 夢のような生活を手に入れた――と、思ったのもつかの間。 いきなり事件が発生してしまう。 結婚したその翌日に、双子の姉が令嬢教育の教育係をやめさせてしまった。 しかもジオルトは仕事で出かけていて、帰ってくるのはなんと一週間後だ。 (こうなったら、私がなんとかするしかないわ!) 腹をくくったエレナは、おもいきった行動を起こす。 それがきっかけとなり、ちょっと癖のある美少女双子義娘と、彼女たちよりもさらに癖の強いジオルトとの距離が縮まっていくのだった――。

「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」とやりがい搾取されたのでやめることにします。

木山楽斗
恋愛
平民であるフェルーナは、類稀なる魔法使いとしての才を持っており、聖女に就任することになった。 しかしそんな彼女に待っていたのは、冷遇の日々だった。平民が聖女になることを許せない者達によって、彼女は虐げられていたのだ。 さらにフェルーナには、本来聖女が受け取るはずの報酬がほとんど与えられていなかった。 聖女としての忙しさと責任に見合わないような給与には、流石のフェルーナも抗議せざるを得なかった。 しかし抗議に対しては、「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」といった心無い言葉が返ってくるだけだった。 それを受けて、フェルーナは聖女をやめることにした。元々歓迎されていなかった彼女を止める者はおらず、それは受け入れられたのだった。 だがその後、王国は大きく傾くことになった。 フェルーナが優秀な聖女であったため、その代わりが務まる者はいなかったのだ。 さらにはフェルーナへの仕打ちも流出して、結果として多くの国民から反感を招く状況になっていた。 これを重く見た王族達は、フェルーナに再び聖女に就任するように頼み込んだ。 しかしフェルーナは、それを受け入れなかった。これまでひどい仕打ちをしてきた者達を助ける気には、ならなかったのである。

処理中です...