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正編 第1章 追放、そして隣国へ
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しおりを挟む予定が急に変わるというのはよくあることで、今日のアメリアの1日はまさに急変そのものだ。トーラス王太子の魂をラルドの分霊であるエルドさんが眷属にしたという知らせはとても驚かされるし、飼う予定のなかった精霊鳩まで引き取ることになった。
気まぐれな神、いや精霊様達に振り回された日といえるだろう。そんな慌ただしいアメリアの休日も、ようやく終わりを迎える時間。夕食と風呂を寄宿舎で済ませて、ベッドに潜るとドレッサーデスクの上に飾ったポストカードがよく見える。
(そういえば、この国に伝わる聖女伝説って一体どんな内容なのかしら。ポストカードの内容が聖女伝説の重要な場面の一つだとしたら、白い山脈を登って奥の神殿で試練を受けるのよね。本当に今でも、その聖地は残っているの?)
いろいろな疑問が頭に浮かぶが、昨夜もよく眠れていないアメリアの瞼は早く閉じて休もうとしている。
ウトウトと……結局睡魔には勝てず、アメリアはそのまま深い深い夢の向こうに誘われて行った。
* * *
夢の中でアメリアはふわふわと浮遊して地上を見下ろす俯瞰の状態であり、まるで人間を見守る鳥になったような感覚だった。場所は……何処かで見たことのあるような白い山脈、もしかするとポストカードの絵の中と同じなのではないか、とアメリアは気づく。
(ここって多分、貰ったポストカードに描かれていた聖地の様子よね)
そしてタイミングよく誰かが現れて……男女二人組の冒険者とその二人をサポートする精霊鳩の姿も見えた。ジッと目を凝らしてよく見ると、その男女二人組こそが紛れもない自分とラルドだ。
(えっ……何この夢。夢のはずなのにやたらリアリティがあるのは何故?)
精霊鳩の胸元に装着された使い魔リボンのカラーは上級冒険者ランクを示す金色で、もしかするとこの夢は俗に言う【未来予知】なのではないかとアメリアは思い始めた。
側で浮かぶアメリアの魂のことなんか気にも留めず、未来のアメリアとラルドは山頂に辿り着いた喜びでいっぱいだ。
『ようやく着いたわ、聖地山頂。この身が引き締まるようなピリッとした空気は、気温が低いせいだけじゃないわよね』
『聖女認定試験に指定された地点は、本来ならば人間が立ち入らないような特別な場所でしたからね』
精霊鳩の導きもあり二人が雪に気を遣いながら少しずつ足を進めると、ようやく古代精霊が長を務めるという神殿が見えてくる。聖女認定試験の会場となっている神殿が座す山の頂には白い雪が積もり、水は非常に清らかで貴重な霊薬が自然の中で育っていた。
『ああ、普段は人間よりもオーラの圧に強い僕にも分かりますよ。この刺さるようなプレッシャーは、かなり上位の古代精霊が何処からともなく我々を見守っている証拠でしょう。聖女だけじゃなく、僕のことも試す気でいるのか? これ以上山頂に近づくといつも通りの錬金術が使えるかどうか……』
『まさかラルドまで審査対象だなんて、万が一お得意の錬金術が禁止されてもいいように、あらかじめ上等のコートを装備して来て正解だったみたい。いつもは緊急時にも装備錬金で対応出来ていたけど、今日はそうもいかないのね』
『えぇ、事前準備は冒険者の基本。もしかすると、安易に錬金に頼らずアメリアさん自身のチカラで試練を突破する意味でも、これらの魔力制限がかけられているのかも知れない』
入山するには必ず特別許可証が必要だと言い、その魔力も場合によっては制限がかかる……。アメリアはもちろん、精霊という立場のラルドですら例外ではない様子。
『今までは、精霊の血を引くラルドの魔力に助けられてばかりだった。きっと、私が真の聖女になるには私一人でも成り立っていけるような覚悟が必要なんだわ』
『アメリアさん』
荘厳な神殿に近づくごとに、古代精霊から発せられる霊力の高さに気持ちが震えるようだ。
すると、ラルドが『大丈夫ですよ、例え何かの理由で離れたとしても、僕と貴女の気持ちはひとつです』と耳元で囁き頭を撫でる。それから見間違いでなければ、二人はそっと口付けを交わした。
(えっ……何、この展開。随分と私とラルドさんの仲が発展しているような……まるで恋人のよう)
未来予知の夢はあくまでも可能性の一つを提示するための預言的夢だ。そのため、この夢の展開が現実化するかは不明瞭であり【アメリアとラルドが将来恋人になる可能性がある】ということを示しているだけなのだが。
(うぅ……可能性と分かっていても、顔が赤くなっちゃう!)
照れて動けなくなっている過去のアメリアのことを置いてきぼりにして、未来予知の二人はどんどん先へと進んでいった。
『ついに神殿に辿り着いたけど、このバリアは……無関係の人が立ち入れないように結界がかけられている』
『アメリアさん、受験者用の同封書類の中に魔法陣解除のコードが描かれた羊皮紙が同封されていたはずです。おそらく解除呪文が発動するはず』
『分かったわ! 我、聖女の称号を求めるものなり、古代精霊よ……その結界を解除したまえっ!』
決意を胸に神殿周辺にかけられた結界陣の前に立つ。聖女認定受験者である証の羊皮紙を掲げながら呪文を唱えると、光の波動と共に結界が解けた。
――すると封印が解けるのと引き換えに、古代神殿奥に仕舞われて居た大きな箱の蓋が『カタンッ』と音を立てて外れてしまう。
そして、箱の中から女性がひと言。
『ありがとう……全ての災いを詰めた秘密の箱を開けてくれて』
カタカタカタカタ……!
ぎぎぎぎぎぃ……!
キャハハハハ、あははっ!
あらゆる震え声、呻き声、恐怖で笑う声が響いてきて……箱の中から全ての絶望と災いが次々と飛び出し……。
(えっ……何、これは。やめて、やめてよっ!)
箱が空っぽになると過去のアメリアだけが真っ暗い世界の真ん中で、たった一人取り残された。
『神のいとし子アメリア・アーウィン、自動書記完了。精霊都市国家アスガイアの滅亡予言、受託しました』
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