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正編 第1章 追放、そして隣国へ

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「やめてぇえええええっ! はぁはぁ……夢? いえ、あれは予知夢。久方ぶりに見た強制的な予言予知夢。確か、自動書記魔法が無理矢理発動させられてたから……夢を見ながら魔法で作った予言の内容をどこかに書き記しているはず」

 あまりの夢の残酷な展開に、涙を流しながら目を覚ましたアメリアだったが、悪い内容の予知夢を見るのは初めてではない。これまで、異母妹レティアの影として密やかに予言を出して居た時も、たまにこのような部類の悪い夢は見たことがある。

 アメリアは乱れた髪を手櫛で直しながら、ベッドから起き上がり自動書記魔法で書かれているであろう予言の内容を探す。魔法が発動したのがアメリアの自室であれば、部屋の中で自動書記が終わってみるはずだ。予言の用紙はご丁寧に、ドレッサーデスクのに飾られた例のポストカードの隣に置いてあった。

「やっぱり、この聖地のポストカードの場所で将来起こる話だと言いたいのかしら」

 白い山脈を渡り、目的の聖地にたどり着く未来の夢。将来のアメリアは高ランクのギルド冒険者となり、正式な聖女として認定されるための試験を受けていた。パートナーのラルドとも今よりずっと良い仲になっているようで、そこまでは未来のアメリア的に順風満帆だったのだろう。

 昨日、使い魔センターの受付嬢から貰ったポストカードに描かれた聖地は、聖女が修行した場所としてこのペルキセウス国では有名だという。しかし、夢の内容が本当であれば実際には聖女として認定されるどころか、開けてはいけない秘密の箱の封印を解く道具として利用されるだけ。

『ありがとう……全ての災いを詰めた秘密の箱を開けてくれて』

 箱の中から聞こえて来た声が今も耳に残る。
 それは、絶望とは対照的な美しく可愛らしい少女のような声だった。

(私、将来……誰かに利用されて禁じられた箱の封印を解いてしまうのね。いや、今の時点でそのことが分かっていればその未来は回避出来る。問題は、あの箱の正体や中に潜んでいた女の神様だわ)

 予言の内容が記された紙は剥き出しというわけではなく、きちんと封がしてあって一見すると手紙のようだ。けれど、自動書記魔法特有の紋様が魔法で刻まれており、ここに禁じられた未来が記されていると警鐘を鳴らしているよう。

「けど、ペルキセウス国内の聖地で解放した災いが、祖国のアスガイアに向かうのよね。ううん、もしかするとアスガイアは悪魔に魂を売ったレティアしかいないから、滅亡となるの?」

 分からないことはたくさんあるが、今は本日のクエストに向かう準備をしなくてはいけない。顔を洗って歯を磨いて、軽くメイクをして髪をブラシで整えて……着替えたら、ラルドに会いに行こう……と。

「ラルドさんに……」

 思わず頬が赤くなる。ラルドと恋仲になる未来は、欲しい。だが、自らが不幸の箱を開けるような展開はいらない。アメリアはこれから自分自身の手で望む明日を選択し、絶望の未来を回避する活動をしなくてはいけないのだ。

(私が望む未来は小さな幸せ、不幸なことが起きず、優しい未来があればいい。例え、祖国アスガイアが私を追放した国だとしても、滅びを望んでいる訳じゃないのに。それに、私にとって大切なのはラルドさんとの……)

 絶望の未来を夢に見たアメリアにとっての唯一の救いは、徐々に心が惹かれているラルドと口付けを交わす仲になるという未来だけだった。


 * * *


 一方、祖国アスガイアでも変化が起きていた。一時期は聖女レティアと不仲になりかけた悪魔像だったが、なんとか説き伏せて仲を修復していた。

『どうだ、聖女レティアよ。そなたとはいろいろとあったが、ここで我とそなたが決裂しては悲願に遠のいてしまう。どうだろう? 改めて、我とパートナーの契約をしてみては』
『……まさか、悪魔像様自ら私達の関係修復を提案してくださるとは思いませんでしたわ。一体、どのような風の吹き回しで? ってきり、私のことはもう見限るのかと』
『ふむ。我は人とは違う。だが、今はトーラス王太子の振りをしなくてはならない。そのためにはサポート役が必要だからな。いずれ我が真の名を取り戻したら、このトーラス王太子の器自体無用となる。それまでは、そなたのチカラを借りるのが賢い選択だと感じてな』

 レティアはこの要求をのむ以外、選択肢はなかった。悪魔像にとってもレティアにとっても、お互い良くも悪くも無くてはならないパートナーだからだ。

 結局、レティアはこの悪魔を支配するつもりで徐々に支配されているのだが、そのことは見てみない振りをするしかない。そして、二人が仲睦まじい振りをする事で他者からの絶大な信頼を得られることには変わりなかった。


「なんとっ! 次期王妃のレティア様自ら、政策に加わって頂けると」
「大船に乗った気で任せて下さいな、大臣。私、これでも環境政策学には自信があるんですよ」

 悪魔像が王太子に成り代わったことにより、政策の一部を悪魔像とレティアが好きなように変えられることになった。本来はトーラス王太子が任されていた港町周辺の商業施設や自治の在り方について、レティアと悪魔像こと新トーラス王太子が話し合う。

 二人でソファに腰掛けて新トーラスがワイングラスを傾けながら、資料片手に話す姿はとてもではないが真面目な話し合いには見えない。が、これから国を自分好みに改変出来ると思うだけで、レティアは楽しくて仕方がないようだ。

「これで、この国は変わる! 私の私が理想とする……新たな楽園にっ」
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