公爵令嬢エイプリルは嘘がお嫌い〜断罪を告げてきた王太子様の嘘を暴いて差し上げましょう〜

星井ゆの花(星里有乃)

文字の大きさ
4 / 11

04

しおりを挟む

 無事に学校が終わり、下校時刻になった。その日のフェナス王太子の様子がおかしいことに気づいた者は、学校内でもごく少数だった。
 いつも通りのスケジュールなら、その日の授業を終えて車で王宮に帰るはずだ。しかし、今日の王太子はソワソワと落ち着かず、いつもの車をパスして別の車が到着するのを待っている様子。

「ねぇねぇエイプリルお姉様。フェナス王太子様って、昨日高熱が出たばかりなのに元気よね。お姉様、婚約者なんだし何かひと言声をかけてあげないの?」

 お世辞にも仲が良いとはいえないカコクセナイト公爵家の異母姉妹だが、同じ中学校に通わなければいけないため行き帰りは二人セットで車で送迎されていた。
 送迎車が待機する駐車場を利用する者は一割ほどだが、その日は他の生徒達が早く帰っていたせいで駐車場は寂しげな雰囲気だ。

 思春期のため恥ずかしいのか、それとも他に理由があるのか。婚約者同士なのに距離を置いている二人に疑問を抱いたイミテは、異母姉が声をかけないことを不思議に思い指摘する。

「それが、王宮の教育係があまり学校内では婚約者という立場を見せびらかさないようにって、注意して来て。特に今日は具合が良くないからそっとしておいてほしいとか……けど、一応下校時すぐに帰りの挨拶くらいはしたのよ。ただ、駐車場で鉢合わせるなんて予想外で……」
「……エイプリルお姉様って、本当に世間知らずよねぇ。いいわ……婚約者じゃない私がお姉様の代わりにいろいろと調べて来てあげる!」

 イミテにとって駐車場で待ちぼうけをしているフェナス王太子は、捕まえるにはもってこいの存在だった。一応異母姉の許可を取り、イミテはこの幸運を活かすことにした。

「今日も授業お疲れ様です、フェナス王太子様! あれれ、そういえば……さっき迎えの車に乗らなかったけど、もしかして病院か何処かに行く予定とか?」
「ん……まぁそんなところかな。この学校はエスカレーター式とはいえ、一応僕の学年は受験生だしね。体調は万全にしておかないと……」

 しどろもどろの返答に、いよいよイミテはこの王太子には何か秘密があると確信する。後一押し、と考えたイミテは少しずつ質問内容を意地悪なものに変えていくことにした。

「ふぅん。大丈夫だと思うけどなぁ……だって、昨日高熱を出して返事すら出来なかったのに、随分と快復がお早いじゃない?」
「えっ……そ、そうかな。きっとお医者様の薬とお粥が効いたんだよ」
「お粥? お手伝いさんが用意したのは、チキンスープだった気がしたけど。それと、食事も喉を通らないってお手伝いさん嘆いていらっしゃったわ」

 フェナス王太子の肩が、びくりと震える。
 まだ中学三年生だった頃の彼は、ひょろひょろとしているだけで背もさほど伸びておらず、少しばかり少女めいた雰囲気だった。だからだろうか、イミテも遠慮なく堂々とした口調で、どんどん不審な点を追及していく。

「高熱だったから、記憶が曖昧でね。そうか、チキンスープだったのか……うん。キミら姉妹が帰ってから、食事を少しだけ摂ったんだよ」
「へぇ……私、てっきり王宮の人達がお話ししていた【緊急時に呼ばれる彼】が貴方だと思ったんだけどなぁ」
「……一体、何の話だい。緊急時っていうことから推測すれば、おそらく高熱で王子が動けないからお医者様や民間療法の専門家を当たるって意味だろう」

 顔面蒼白、という言葉がピッタリなほど、王太子の顔がみるみる青ざめていく。

「はわわ! 大変っ。王太子様、やっぱりお顔の色が優れないわ。なぜか不思議とお迎えの車とは違う別の車で何処かに行かなきゃいけないようだし、けどなぜか手配が遅れて車が来ないみたいな。あら……それとも、もしかして私とお姉様が帰宅してから車に乗るつもりとか?」
「ごめんね、イミテちゃん。僕、まだ風邪が治らないみたいで、少し静かにしてもらいたいんだけど」

 だいぶイラついて来て本性が出て来たのか、王太子の眼光は鋭くなり、今まで見たことのないような表情を見せて来た。声色も作ったような優しげな声だったのが、地声の低い声になっている。

「あの……王太子、具合が悪いならそこのベンチで少し休んだら? 車が来たら、私が教えてあげるから」
「エイプリル……! 済まない、大丈夫だよ」

 何だか揉めているような空気を出している二人のやり取りを見兼ねて、エイプリルが間に入る。

「あっ……お姉様、介抱してくれるなら王太子様に清涼飲料水を買って来てあげてよ。駐車場の手前に売店があるでしょう? 私、今日お財布忘れちゃってお買い物が出来ないの。お願い」
「……分かったわ、王太子様のことちゃんと診てあげていてね」

 せっかく詮索が進んでいたのに異母姉に介入されては困ると思ったのか、イミテが上手くエイプリルをこの場から一旦去らせる。彼女が駐車場手前に設置されている売店まで足を伸ばしている間に、イミテは影武者らしき男にとどめの一言をさす。

「助けてあげたんだから感謝してよね、王太子様の影武者さん」
「……! き、貴様……!」

 この日を境に、イミテと影武者は共通の秘密を持つ仲となっていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の私、計画通り追放されました ~無能な婚約者と傾国の未来を捨てて、隣国で大商人になります~

希羽
恋愛
​「ええ、喜んで国を去りましょう。――全て、私の計算通りですわ」 ​才色兼備と謳われた公爵令嬢セラフィーナは、卒業パーティーの場で、婚約者である王子から婚約破棄を突きつけられる。聖女を虐げた「悪役令嬢」として、満座の中で断罪される彼女。 ​しかし、その顔に悲壮感はない。むしろ、彼女は内心でほくそ笑んでいた――『計画通り』と。 ​無能な婚約者と、沈みゆく国の未来をとうに見限っていた彼女にとって、自ら悪役の汚名を着て国を追われることこそが、完璧なシナリオだったのだ。 ​莫大な手切れ金を手に、自由都市で商人『セーラ』として第二の人生を歩み始めた彼女。その類まれなる才覚は、やがて大陸の経済を揺るがすほどの渦を巻き起こしていく。 ​一方、有能な彼女を失った祖国は坂道を転がるように没落。愚かな元婚約者たちが、彼女の真価に気づき後悔した時、物語は最高のカタルシスを迎える――。

そちらがその気なら、こちらもそれなりに。

直野 紀伊路
恋愛
公爵令嬢アレクシアの婚約者・第一王子のヘイリーは、ある日、「子爵令嬢との真実の愛を見つけた!」としてアレクシアに婚約破棄を突き付ける。 それだけならまだ良かったのだが、よりにもよって二人はアレクシアに冤罪をふっかけてきた。 真摯に謝罪するなら潔く身を引こうと思っていたアレクシアだったが、「自分達の愛の為に人を貶めることを厭わないような人達に、遠慮することはないよね♪」と二人を返り討ちにすることにした。 ※小説家になろう様で掲載していたお話のリメイクになります。 リメイクですが土台だけ残したフルリメイクなので、もはや別のお話になっております。 ※カクヨム様、エブリスタ様でも掲載中。 …ºo。✵…𖧷''☛Thank you ☚″𖧷…✵。oº… ☻2021.04.23 183,747pt/24h☻ ★HOTランキング2位 ★人気ランキング7位 たくさんの方にお読みいただけてほんと嬉しいです(*^^*) ありがとうございます!

【完結】悪役令嬢の本命は最初からあなたでした

花草青依
恋愛
舞踏会の夜、王太子レオポルドから一方的に婚約破棄を言い渡されたキャロライン。しかし、それは彼女の予想の範疇だった。"本命の彼"のために、キャロラインはレオポルドの恋人であるレオニーの罠すらも利用する。 ■王道の恋愛物(テンプレの中のテンプレ)です。 ■三人称視点にチャレンジしています。 ■画像は生成AI(ChatGPT)

婚約破棄と言われても、どうせ好き合っていないからどうでもいいですね

うさこ
恋愛
男爵令嬢の私には婚約者がいた。 伯爵子息の彼は帝都一の美麗と言われていた。そんな彼と私は平穏な学園生活を送るために、「契約婚約」を結んだ。 お互い好きにならない。三年間の契約。 それなのに、彼は私の前からいなくなった。婚約破棄を言い渡されて……。 でも私たちは好きあっていない。だから、別にどうでもいいはずなのに……。

だって悪女ですもの。

とうこ
恋愛
初恋を諦め、十六歳の若さで侯爵の後妻となったルイーズ。 幼馴染にはきつい言葉を投げつけられ、かれを好きな少女たちからは悪女と噂される。 だが四年後、ルイーズの里帰りと共に訪れる大きな転機。 彼女の選択は。 小説家になろう様にも掲載予定です。

婚約者と従妹に裏切られましたが、私の『呪われた耳』は全ての嘘をお見通しです

法華
恋愛
 『音色の魔女』と蔑まれる伯爵令嬢リディア。婚約者であるアラン王子は、可憐でか弱い従妹のセリーナばかりを寵愛し、リディアを心無い言葉で傷つける日々を送っていた。  そんなある夜、リディアは信じていた婚約者と従妹が、自分を貶めるために共謀している事実を知ってしまう。彼らにとって自分は、家の利益のための道具でしかなかったのだ。  全てを失い絶望の淵に立たされた彼女だったが、その裏切りこそが、彼女を新たな出会いと覚醒へと導く序曲となる。  忌み嫌われた呪いの力で、嘘で塗り固められた偽りの旋律に終止符を打つ時、自分を裏切った者たちが耳にするのは、破滅へのレクイエム。  これは、不遇の令嬢が真実の音色を見つけ、本当の幸せを掴むまでの逆転の物語。

残念ですが、その婚約破棄宣言は失敗です

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【婚約破棄宣言は、計画的に】 今夜は伯爵令息ブライアンと、同じく伯爵令嬢キャサリンの婚約お披露目パーティーだった。しかしブライアンが伴ってきた女性は、かねてより噂のあった子爵家令嬢だった。ブライアンはキャサリンに声高く婚約破棄宣言を突きつけたのだが、思わぬ事態に直面することになる―― * あっさり終わります * 他サイトでも投稿中

虐げられ令嬢の武器は、完璧すぎる記憶力でした~婚約者の嘘も家の不正も、全部覚えてます~

法華
恋愛
侯爵令嬢のサラは、家では継母と異母姉に虐げられ、唯一の希望である婚約者のハイルからも冷たくあしらわれていた。そんなある日、彼が姉と密通し、「地味で退屈なサラを追い出す」と画策しているのを知ってしまう。全てを失った彼女に残されたのは、一度見聞きした事を決して忘れない"完璧な記憶力"だけ。 ――あなたの嘘、家の不正、過去の失言。さあ、私の記憶が、あなたの罪を一つ残らず暴き出します。

処理中です...