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フェナス王太子影武者入れ替え事件の鍵を握るエイプリル嬢への聴き取りは、王宮警察の特別室で行われた。
「すべては小さな嘘が積み重なって、やがて大きな虚言になっていったのですわ。まずは異母妹のイミテが、どのように虚言症になったのか聴いてくださいな」
* * *
公爵令嬢エイプリルが異母妹イミテと家族になったのは、エイプリルが十二歳になる誕生日の日だった。
「お誕生日おめでとうエイプリル。今日から新年度が始まり、みんな新生活を迎える。それでだな……実は父さんも新たな生活をしようと思うんだよ。今日からエイプリルにも、妹と新しいお母様が出来るんだよ」
「妹? 新しいお母様? それが今年のお父様からの誕生日プレゼントなの」
「うん、うん。そうだよ……良い子だね、エイプリル。イザベラ、イミテ……入って来なさい」
エイプリルの誕生日パーティーのために美しく飾られた部屋だったが、イミテは部屋に入ってくるや否や、『私とママのために、こんな綺麗な飾りをしてくれてありがとうパパ!』と、部屋中に響くような大きな声ではしゃいだ。
イミテの気持ちを父親が汲み取り、いつの間にかエイプリルの誕生日パーティーは、後妻イザベラと異母妹イミテの歓迎パーティーに変更されていた。
「えぇと……初めましてイミテ。随分と、お父様に懐くのが早いのね。まるでもう本当の家族みたい」
「はぁ? 何言ってるのよ、元々私とパパは実の親子だもん。なつく懐かないの問題じゃないわ」
「元々、実の親子……?」
イミテとエイプリルの年齢差はたったの一歳で、イミテは長いこと愛人イザベラの子というポジションだった。が、エイプリルの母親が不可解な事故で帰らぬ人となり、後妻としてイミテの母の公爵家入りが認められたため、屋敷で同居する羽目になったのだ。
そのようなことの真相を知らぬはエイプリルだけで、家庭の事情をまったく聴かされていなかったエイプリルをイミテは心の奥底から馬鹿にした。
「ふぅん……なぁんにも知らないで、お姉様はぬくぬくとこのお屋敷で贅沢に暮らしていたのね。ふんっ……まぁいいわ。私が世間に知らずのお姉様に世間の厳しさを教えてあ・げ・る! はい、私からのプレゼントよ、可愛い襟巻きトカゲの赤ちゃん」
小さなカゴに入れられたその生き物は、確かに襟巻きトカゲと言えばそのように見える。爬虫類をペットにするのは珍しいが、小さなドラゴンのようで可愛いと積極的に飼いたがる魔法使いもチラホラいる。
エイプリルは特別襟巻きトカゲに憧れているわけではないが、嫌というわけでもなかったので思い切ってそのペットを受け取ることにした。
「トカゲさん? 初めて飼うけど可愛がるわね、ありがとう……。えっきゃあ! 何よこれ、魔物の幼生じゃない。危ないわ……早く、山に返さないと」
「キャハハ! 今時の子供は、襟巻きトカゲと魔物の幼生の区別くらい一瞬でつくわよ。意外とお姉様って魔力も知識も少ないのね」
「もうっ。まだ子どもの魔物だからいいものを、大きくなったら危険だわ。それをこんな悪戯に使うなんて……」
エイプリルが注意をしても、イミテは聴く耳すら持たない。それどころか、公爵令嬢という地位の割に横柄さがなく真面目なエイプリルを、完全に下に見るようになった。
「だって、今日はエイプリル・フールだもん! せっかくエイプリル・フールの日に生まれているのに、そんなんじゃ騙されるだけの人生になっちゃうわよお姉様! キャハハッ」
そして、イミテはエイプリルに対してたとえその日がエイプリル・フールではなくても、たわいもない嘘をついて揶揄うようになっていく。最初は、思春期特有の虚言の一種だと周囲の人間も受け流していたが、フェナス王太子の影武者との出会いがイミテを変えてしまう。
* * *
「あれっ……フェナス王太子って、昨日あんなに高熱を出していたからの今日は学校お休みだと思っていたのに。ちゃんと出席しているのね。まぁ上級生は教室も違うし、見間違いかなぁ」
きっかけは、些細なことだった。
異母妹イミテが中学校に進学して来た年の春のことだ。一歳ずつ年齢が違うイミテ、エイプリル、フェナスがこの年だけは同じ中学校に通う。そのため、学校の後輩となるイミテをフェナス王太子にも頻繁に合わせるように周囲が仕向けていたのだ。
この日……本物のフェナス王太子は前日に高熱を出していて、婚約者であるエイプリルとのお茶会をキャンセルしていた。招かれて、エイプリルにくっついて王宮に遊びにいったイミテは、話の流れで異母姉と共にフェナス王太子のお見舞いをしたはずだ。
『こんなに酷い高熱じゃ、明日の学校は休まねばなりませんな』
『けど、公務で出席日数だってギリギリなのにこれ以上休むのは……』
『仕方がないが、彼を呼んで……』
フェナス王太子の教育係達が、ヒソヒソと何やら相談していたことをイミテは思い出した。フェナス王太子が高熱を出すと呼ばれる彼とは誰なのか、何となく気になってイミテは珍しくフェナス王太子に声をかけてみたいと考えた。
運命の輪が、少しずつ廻り始めていた。
「すべては小さな嘘が積み重なって、やがて大きな虚言になっていったのですわ。まずは異母妹のイミテが、どのように虚言症になったのか聴いてくださいな」
* * *
公爵令嬢エイプリルが異母妹イミテと家族になったのは、エイプリルが十二歳になる誕生日の日だった。
「お誕生日おめでとうエイプリル。今日から新年度が始まり、みんな新生活を迎える。それでだな……実は父さんも新たな生活をしようと思うんだよ。今日からエイプリルにも、妹と新しいお母様が出来るんだよ」
「妹? 新しいお母様? それが今年のお父様からの誕生日プレゼントなの」
「うん、うん。そうだよ……良い子だね、エイプリル。イザベラ、イミテ……入って来なさい」
エイプリルの誕生日パーティーのために美しく飾られた部屋だったが、イミテは部屋に入ってくるや否や、『私とママのために、こんな綺麗な飾りをしてくれてありがとうパパ!』と、部屋中に響くような大きな声ではしゃいだ。
イミテの気持ちを父親が汲み取り、いつの間にかエイプリルの誕生日パーティーは、後妻イザベラと異母妹イミテの歓迎パーティーに変更されていた。
「えぇと……初めましてイミテ。随分と、お父様に懐くのが早いのね。まるでもう本当の家族みたい」
「はぁ? 何言ってるのよ、元々私とパパは実の親子だもん。なつく懐かないの問題じゃないわ」
「元々、実の親子……?」
イミテとエイプリルの年齢差はたったの一歳で、イミテは長いこと愛人イザベラの子というポジションだった。が、エイプリルの母親が不可解な事故で帰らぬ人となり、後妻としてイミテの母の公爵家入りが認められたため、屋敷で同居する羽目になったのだ。
そのようなことの真相を知らぬはエイプリルだけで、家庭の事情をまったく聴かされていなかったエイプリルをイミテは心の奥底から馬鹿にした。
「ふぅん……なぁんにも知らないで、お姉様はぬくぬくとこのお屋敷で贅沢に暮らしていたのね。ふんっ……まぁいいわ。私が世間に知らずのお姉様に世間の厳しさを教えてあ・げ・る! はい、私からのプレゼントよ、可愛い襟巻きトカゲの赤ちゃん」
小さなカゴに入れられたその生き物は、確かに襟巻きトカゲと言えばそのように見える。爬虫類をペットにするのは珍しいが、小さなドラゴンのようで可愛いと積極的に飼いたがる魔法使いもチラホラいる。
エイプリルは特別襟巻きトカゲに憧れているわけではないが、嫌というわけでもなかったので思い切ってそのペットを受け取ることにした。
「トカゲさん? 初めて飼うけど可愛がるわね、ありがとう……。えっきゃあ! 何よこれ、魔物の幼生じゃない。危ないわ……早く、山に返さないと」
「キャハハ! 今時の子供は、襟巻きトカゲと魔物の幼生の区別くらい一瞬でつくわよ。意外とお姉様って魔力も知識も少ないのね」
「もうっ。まだ子どもの魔物だからいいものを、大きくなったら危険だわ。それをこんな悪戯に使うなんて……」
エイプリルが注意をしても、イミテは聴く耳すら持たない。それどころか、公爵令嬢という地位の割に横柄さがなく真面目なエイプリルを、完全に下に見るようになった。
「だって、今日はエイプリル・フールだもん! せっかくエイプリル・フールの日に生まれているのに、そんなんじゃ騙されるだけの人生になっちゃうわよお姉様! キャハハッ」
そして、イミテはエイプリルに対してたとえその日がエイプリル・フールではなくても、たわいもない嘘をついて揶揄うようになっていく。最初は、思春期特有の虚言の一種だと周囲の人間も受け流していたが、フェナス王太子の影武者との出会いがイミテを変えてしまう。
* * *
「あれっ……フェナス王太子って、昨日あんなに高熱を出していたからの今日は学校お休みだと思っていたのに。ちゃんと出席しているのね。まぁ上級生は教室も違うし、見間違いかなぁ」
きっかけは、些細なことだった。
異母妹イミテが中学校に進学して来た年の春のことだ。一歳ずつ年齢が違うイミテ、エイプリル、フェナスがこの年だけは同じ中学校に通う。そのため、学校の後輩となるイミテをフェナス王太子にも頻繁に合わせるように周囲が仕向けていたのだ。
この日……本物のフェナス王太子は前日に高熱を出していて、婚約者であるエイプリルとのお茶会をキャンセルしていた。招かれて、エイプリルにくっついて王宮に遊びにいったイミテは、話の流れで異母姉と共にフェナス王太子のお見舞いをしたはずだ。
『こんなに酷い高熱じゃ、明日の学校は休まねばなりませんな』
『けど、公務で出席日数だってギリギリなのにこれ以上休むのは……』
『仕方がないが、彼を呼んで……』
フェナス王太子の教育係達が、ヒソヒソと何やら相談していたことをイミテは思い出した。フェナス王太子が高熱を出すと呼ばれる彼とは誰なのか、何となく気になってイミテは珍しくフェナス王太子に声をかけてみたいと考えた。
運命の輪が、少しずつ廻り始めていた。
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