婚約者候補を見定めていたら予定外の大物が釣れてしまった…

矢野りと

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14.そして婚約者候補はいなくなった

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とりあえずお腹が空いたので夜会で出されていたケーキを全種類こっそりとバルコニーへと持っていき、そこでパクパクと美味しいケーキを食べながら私はトナに愚痴を聞いてもらっていた。

「別にあの二人に好意があったわけではないからこの結果は受け入れるわよ。
あの二人だってきっと私と同じように家の事情とかで無理矢理婚約者候補にされた被害者だと思うしね。

でもね、お祖父様は絶対に彼らが同性愛者だって知っていたはずだと思うの。
そのうえで天使のひ孫誕生の確率重視で勧めてきたのよ。
きっと私が何も気が付かずにどちらかと婚約していたら初夜の時に媚薬を渡して『ほらこれを飲ませて新郎を朦朧とさせて全力で頑張れ』って笑いながら言うつもりだったんだわ」

私は怒りながらトナに今までの祖父の暴走行動も含めすべてを話していた。普通の祖父は孫にそんなことはしないものである。だから信じてもらえなくても仕方がない、聞き流してくれても構わないと思っていたけれども、彼は『うん、うん。やりそうだな』とやけに納得しながら相槌を打ってくれる。



「あら、トナはお祖父様と面識があるの?」

「いや…面識というほどのものでもないが、ちょっとは知っているかな…」

世間とは狭いものである。まさか彼があの祖父を知っていたなんて。途端に祖父が祖母絡みで彼に迷惑を掛けたのではないかと不安になる。

「もしかしてお祖父様が迷惑を掛けていたのかしら?ごめんなさい、祖母絡みだと暴走しちゃうことがあるの」

とりあえず先に謝っておくと、彼は『大丈夫だ』と言いながら苦笑いしていた。やっぱり何か祖父はやらかしていたようだ。


 う、うう…お祖父様め。
 何をやったんですか!
 許しませんよ…、トナに迷惑をかけるのは。
 

何年掛かろうとも祖父の頭にフサフサな毛を生やさせて藁人形作戦に再び挑戦しようと心のなかで誓っていると、トナは話しかけてきた。


「それでこれからどうするともりだ?婚約者を決めなければ修道院行きだと言われてるんだろう」

「・・・・・」

良い考えが浮かんでないから答えられない。
あの二人は無理と祖父に言っても『それなら次だ!』と新たな候補者達を嬉々として提示するだろう。そしてそれらは絶対に顔重視の訳あり物件に間違い。

祖父の目は曇っているのではなく、完全に腐っている。


「はあ…、いい案が浮かばないわ。どうしよう…」

思わず弱音を吐いてしまうと、トナが真剣な表情で訊ねてきた。

「エミリア、どんな奴と結婚したいんだ?」

「うーん、とりあえず犯罪者ではなくて同性愛者じゃない人かな??」

「……おい、世の中の男の殆どは犯罪者でも同性愛者でもねーぞ。求めるものが低すぎるだろうがっ。
もっと具体的に絞ってみろ」

おっと、そうだった。立て続けに大当たりくじ?に当たっていたから感覚が麻痺してしまっていた。
危ない危ない、これでは祖父に熊を差し出されても『犯罪者でも同性愛でもないわ!』と喜んで飛びついてしまうところだ。


気を取り直して自分の理想を思い浮かべてそれを素直に言葉にしてみる。

「そうね…。特別に美男子でなくてもいいから優しい人がいいわ。つまらないお世辞を言わなくて、お互いに笑い合いながら話せる人だと最高ね。
他の人の前では猫を被っていても私の前では素でいてくれるの。それに以心伝心なんて出来たら凄く嬉しいな。
うーん、あと照れ隠しでちょっと乱暴でもいいかも」

不思議と自分でも驚くほど具体的に言葉が出てきた。
どうしてだろうか、特に結婚相手について具体的な理想像は持っていなかったはずなのに。


 むむっ、私ったらどうした???
 

その言葉を聞いてトナは口元を手で隠している。よく見ると顔も真っ赤になっているように見える。
まさかケーキが喉に詰まったんだろうか。
私も経験したことがあるのでその辛さは分かる。そういう時はまずは何かを飲まなければ。

『ほら、これで流し込んで。楽になるからね』と急いで飲み物を差し出した。

彼は『…違うから』と小声で呟きながらも一口水を飲んだ。
その後はまた質問を続けてきた。

「なあエミリア、もし自分が好きになった相手が訳ありならどうする?諦めるか、それとも嫌いになるか…」

「ふふふ、変なことを聞くのね。諦めないし嫌いにもならないわ。
自分が好きになった人にどんな事情があろうともその事情を抱えているその人自身を好きになったんだから好きなままよ」

「例えば、その訳でお前が危険に晒されるとしたら…」

まだ質問を続けてくる彼の表情はとても辛そうだった。
彼にはそんな顔をして欲しくないなと思った。
でもどんな答えが正解か分からないから、偽りのない思いを伝える。

「危険なら二人で乗り越えたい。危険だからといって諦めたら、私きっと幸せにならないと思うわ。
私って儚げで守ってあげたいとか言われるけど、実はいろいろと凄く強いのよ。
ふふふ、知らなかったでしょう、驚いた?」

「はっはっは、ああ…驚いたな。本当にお前には驚かされる、エミリア」

そう言った彼の顔はもう辛そうではなかった。
そして二人でまた笑いながら夜会が終わるまで話し続けていた。


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