婚約者候補を見定めていたら予定外の大物が釣れてしまった…

矢野りと

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15.新たな婚約者候補〜第三王子視点〜

夜会が終わり滞在中の屋敷に密かに戻った。

まだ胸の高鳴りが続いていて高揚感が抑えきれない。
今夜は特別な夜だった、エミリアも俺と同じ気持ちを持ってくれていると分かり生まれて初めてというものを知った。

今までの俺にとって幸せとは書物に載っていて知識としては理解していたがそれがどんなものなのか分かっていなかった。

肉親からも与えられなかったものを与えてくれる存在がいるということがこんな素晴らしいことだと初めて知ったのだ。



一人で嬉しさのあまりにやけていると侍従のヤンが呼びもしないのに扉をノックしてから部屋へと入ってきた。
その足取りはいつもと違ってステップを踏んでいるかのように見える。

「…まだ呼んでないぞ」

もう少しだけ一人でこの幸せを噛みしめるつもりだったのに、優秀な侍従は呼ばれるまで待てなかったようだ。

「指示することがあると思いましたので気を利かせて自ら参りました」

ヤンは丁寧な口調だが、俺のこの状況を喜んでいるのが声から滲み出ている。
この態度を見れば彼が指示を待たずにすでに自ら指示を察して先回りして動いていたことが分かった。


 ったく、コイツはどんだけ優秀なんだ。
 クックック、俺を知りすぎているな。


俺が思う以上にヤンが俺とエミリアのことを喜んでいるのがなんだか照れくさかった。
だからいつものようにぶっきら棒に話す。

「どうせすでに手配済みなんだろう。結果を話せ」

「はい、ご報告致します。前ダートン子爵には明日の朝イチで面会できるように手配しております。アトナ殿下もあちらも余計な時間を取られるのが嫌いなタイプですから、訪問の理由はすでに伝えてあります。
あとは直接会った時に殿下の口から必要なことをお伝え下さい」


流石ヤンだった。俺が求めていることを最短で終わらせている、文句のつけようがない。

あとは俺次第ということだ。

エミリアには詳しく話せなかったが、実は彼女の祖父とはかなり前に面識があった。俺が信頼できる者を集めていた時に自ら目をつけ誘ったのだ。彼は一見平凡を装っているがかなりのやり手だった。
『私の味方にならんか。その手腕を発揮できる力と地位を与えてやる』
『買いかぶり過ぎですな。老いぼれにはこの地で愛する妻と残りの時間を過ごすのが大切なんでお断りします』
『私の裏を知って断るか…』
『貴方様なら私を味方に出来なくても敵に回すこともしないでしょう。殿下はあの王族の中では飛び抜けて優秀ですから』

本当に食えない狸爺だった。
でも昔も今も妻命なのは変わっていないらしい。

それなら今回は俺に勝算があるだろう。




翌日、ヤンだけを伴って隠居している前ダートン子爵の屋敷を訪ねた。
どうやら夫人は留守にしているようで、応接室には俺と前ダートン子爵が向かい合って座り、ヤンは壁際に立って控えている。屋敷の使用人は下がらせているので三人だけしかこの部屋にはいない。
つまり本音で話せるということだ。

「久しぶりだなダートン。相変わらず元気そうでなによりだ」

「アトナ殿下、私達には余計な話はいらんでしょう」

早く話せと言外に催促され、俺は単刀直入に話す。

「エミリアと結婚を望んでいる。邪魔をするな」

「結婚ですか…。殿下の隣は危険過ぎやしませんか、良い返事は出来ませんな」

やはりそうきたか。この狸親父は愛妻家だが家族のことも大切にしている。どんなに金品を積まれても毒蛇の巣に孫を放り込むことはしないだろう。この男は金でも名誉でも動かない。

「知っているだろう、私は昔と違って力を持った。それにエミリアは強い、お前の血だろうな」

「まあ、そうですな。否定はしません」

彼は俺の言葉に嘘はないと分かっている、だから心が少し揺らいでいる。もうひと押しだ、ここで切り札を出すことにする。

「エミリアと私は相思相愛だ。きっと可愛いひ孫がすぐに見れるな。それも一人ではなく三人以上は確実だろう。
お前の妻は大喜びするんじゃないか?」

俺の言葉を聞き、彼は目を輝かせた。いくらなんでも妻命が過ぎるだろう。きっとひ孫が出来なかったら…俺は処分される未来が見えた。


「アトナ殿下、今日の午後新しい婚約者候補として孫に会わせましょう。その後はご自分の努力でお願い致します」

ダートンは前のめりになってつばを飛ばしながら話してくる。


 おいおい、予想通りの反応だな…。
 少しは悩め、いやふりでいいからしろ。
 ったく、この狸は変わらねーな。


俺が少し眉をしかめたので何を考えているかは彼には伝わったようだ。


「変わりませんよ、もう老いぼれは成長しませんからな。ですが殿下は変わりましたね、あの時と違っていい目になりました。ハハハッ、我が孫娘のせいですかな」

本当に第三王子に対しても遠慮がない狸だった。だがこの狸の孫だからこそ、きっとエミリアはあんなに素敵な女性になったのだろう。有り難いような、悔しいような複雑な気分になった。

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