どうかこの偽りがいつまでも続きますように…

矢野りと

文字の大きさ
48 / 71

48.定期報告会①

しおりを挟む
そう言いながらナンシーはケラケラと笑っている。でも殿下の噂が流れた経緯を知っている私として笑えない。
思わず遠い目をしてしまう。
 
 …………ナンシー…。

まことしやかに流れているルカディオ殿下の男色疑惑説。その噂が生まれるきっかけを作ったのは目の前の彼女に他ならない。


彼女がここで働き始めてすぐに、彼女の魔力を妬んだ一人の年配の魔術師から陰険な仕打ちを受けたらしい。
そしてナンシーは泣き寝入りするタイプではなかった、しようと計画し、それを事前に察知した殿下に『上が対処するから』と止められた。

それが当たり前の対応だろう。

でも彼女は大人しく頷くだけで終わらなかった。
思いの丈を殿下に遠慮することなくぶつけた…らしい。
それは今や伝説となっている。

『あの時は腹が立って思わず言っちゃったのよねー。王子のくせして婚約者もいないのは男色だからだなバレてるぞって、えへ。
でもあの時に止めてくれなかったら首になっていただろうし、今は悪いことしたなってちょっとだけ反省している』

それから今に至るまで男色疑惑は消えずに残っているのだ。
本当に反省をしているのならこの噂を消してあげたほうが良いだろうと思ってしまう。

「…全力で噂を否定してあげたほうがいいと思うわ」

真面目な顔でそう言ってみる。きっとナンシーは否定しないだろうと思いながらも…。

「えー、今更消えても記憶に残っているから意味ないじゃん。それにもしかしたら自然に消える日も近いかもしれないしねー」

…ちっとも反省はしていないようだ。
だがこれもナンシーらしい、苦笑いしながらそれ以上は言わなかった。
自然に消える日が来ることを祈っておこう。


「それじゃあ行ってくるわ。またねナンシー」

「適当に頑張ってー」

ひらひらと手を振るナンシーに見送られながら私はルカディオ殿下の執務室に向かった。

この国に来てから私はルカ様とは呼ばなくなった。
彼は王族だし、今の私は彼の臣下でもある。
ルカ様は『君と私は友人なのだから』と言ってくれたが、それでは周りに示しがつかない。
だから二人だけの時でしかとは呼ばないようにしている。



『トントンッ』と扉を叩いてから執務室の中に入るといつものメンバーがすでにそこには揃っていた。

ルカディオ殿下とその側近であるジェイクと数人の魔術師達。
みなの視線が最後に来た私に集まる。

「遅れて申し訳ございません」

一番の下っ端が最後に来るなんてと焦ってしまうが、誰もそんなことを気にしている様子はなかった。
ルカディオ殿下は私に目で座るようにと優しく促してくれる。
私が空いている椅子に座ると、殿下が口を開いた。

「気にすることはない、シシリア。
では始めようか」

殿下の言葉とともに一人の魔術師が立ち上がり報告書を片手にいつものように報告を始めた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

カメリア――彷徨う夫の恋心

来住野つかさ
恋愛
ロジャーとイリーナは和やかとはいえない雰囲気の中で話をしていた。結婚して子供もいる二人だが、学生時代にロジャーが恋をした『彼女』をいつまでも忘れていないことが、夫婦に亀裂を生んでいるのだ。その『彼女』はカメリア(椿)がよく似合う娘で、多くの男性の初恋の人だったが、なせが卒業式の後から行方不明になっているのだ。ロジャーにとっては不毛な会話が続くと思われたその時、イリーナが言った。「『彼女』が初恋だった人がまた一人いなくなった」と――。 ※この作品は他サイト様にも掲載しています。

【完結】堅物な婚約者には子どもがいました……人は見かけによらないらしいです。

大森 樹
恋愛
【短編】 公爵家の一人娘、アメリアはある日誘拐された。 「アメリア様、ご無事ですか!」 真面目で堅物な騎士フィンに助けられ、アメリアは彼に恋をした。 助けたお礼として『結婚』することになった二人。フィンにとっては公爵家の爵位目当ての愛のない結婚だったはずだが……真面目で誠実な彼は、アメリアと不器用ながらも徐々に距離を縮めていく。 穏やかで幸せな結婚ができると思っていたのに、フィンの前の彼女が現れて『あの人の子どもがいます』と言ってきた。嘘だと思いきや、その子は本当に彼そっくりで…… あの堅物婚約者に、まさか子どもがいるなんて。人は見かけによらないらしい。 ★アメリアとフィンは結婚するのか、しないのか……二人の恋の行方をお楽しみください。

それは確かに真実の愛

宝月 蓮
恋愛
レルヒェンフェルト伯爵令嬢ルーツィエには悩みがあった。それは幼馴染であるビューロウ侯爵令息ヤーコブが髪質のことを散々いじってくること。やめて欲しいと伝えても全くやめてくれないのである。いつも「冗談だから」で済まされてしまうのだ。おまけに嫌がったらこちらが悪者にされてしまう。 そんなある日、ルーツィエは君主の家系であるリヒネットシュタイン公家の第三公子クラウスと出会う。クラウスはルーツィエの髪型を素敵だと褒めてくれた。彼はヤーコブとは違い、ルーツィエの嫌がることは全くしない。そしてルーツィエとクラウスは交流をしていくうちにお互い惹かれ合っていた。 そんな中、ルーツィエとヤーコブの婚約が決まってしまう。ヤーコブなんかとは絶対に結婚したくないルーツィエはクラウスに助けを求めた。 そしてクラウスがある行動を起こすのであるが、果たしてその結果は……? 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。

行ってらっしゃい旦那様、たくさんの幸せをもらった私は今度はあなたの幸せを願います

木蓮
恋愛
サティアは夫ルースと家族として穏やかに愛を育んでいたが彼は事故にあい行方不明になる。半年後帰って来たルースはすべての記憶を失っていた。 サティアは新しい記憶を得て変わったルースに愛する家族がいることを知り、愛しい夫との大切な思い出を抱えて彼を送り出す。 記憶を失くしたことで生きる道が変わった夫婦の別れと旅立ちのお話。

処理中です...