11 / 16
11.過ぎてゆくそれぞれの時間②〜シンシア視点〜
しおりを挟む
あの街を離れてから半年が経った。
幸いなことに体調に変化はなく、いたって元気に毎日過ごしている。
やはり丈夫な体だから毒の影響が出るのが遅いのかもしれない。
それは嬉しいことだけれども、いつ死を迎えてもおかしくない状況で新たな人間関係を作るのが怖い。
もし私に親しい友人が出来たら、その人は私が死んだ時に少なからず悲しんでくれるだろう。それにもし私が毒の影響で動けなくなり寝込んでしまったら、手助けをしてくれるかもしれない。
…そんなふうに迷惑を掛けたくはない。
だから大切な人達に何も告げずにここにいるのだ。
あの最低なルイアンから、贅沢をしなければ暮らせるだけのお金は毟り取ってきた。だから働かずとも一人で静かに暮らせていけるし、誰にも迷惑をかけずに死を迎えることも出来る。
だからそれを実践している。
町外れに小さな家を借り、人付き合いは必要最低限に押さえて、一人で生活をしている。
貴族として生きてきたけど、その人生の大半は貧乏だったので自分で何でもできるから使用人も必要がない。
一応はまだ伯爵夫人だけれども、この町の人達は誰もその事実を知らない。訳ありの女性が一人寂しく暮らしていると思ってくれているのは都合が良かった。
正直に言えば寂しくて仕方がなかった。
でも数ヶ月前から子犬が我が家に住み着いたので、その寂しさはだいぶましになっている。
「ジェイ、ごはんよ。虫を追いかけるのはやめて戻ってきなさい」
「ワン、ワンワン!」
こっちを見て元気よく返事?をするけれど、戻っては来ない。蝶を追いかけるのに夢中なのだろう。
ふふ、こういうところがジェイにそっくりなのよね。
ジェイとはこの子犬につけた名前だ。自由奔放で可愛くて手が掛かるところがあの幼馴染みにそっくりだったから、その名を拝借した。
きっとジェイが知ったら『シン姉、俺の名前を犬につけるなよー!』とむくれそうだ。でもその後に一番犬を可愛がるのだろう。『お前、俺に似て見所があるぞっ!』て頭を撫でて甘やかす姿が想像できる。
ジェイは動物にも好かれていたものね…。
大切な人達を思い出さない日はない。
――彼も私にとって大切な人の一人。
偶然の再会によって、私の中の彼は少年の頃の彼ではなく、もう立派な青年になっている。
最後に目に焼き付けた眩しい笑顔は、私の心を温かくする宝物だ。
「ワン、ワン!」
犬のジェイは泥水のなかを転げ回って泥だらけになっている。あの姿で家に入られては、家の中が悲惨なことになるのは目に見えている。
なんとしてもそれは阻止したい。
「ジェイ、ごはんの前に川でその泥を落としましょうね」
「……」
私の言葉を理解したのか、それとも雰囲気で察したのか、返事をせずに一目散に逃げていく。
大抵の犬と同じように、ジェイも体を洗われるのが嫌いだ。
私とジェイの鬼ごっこが始まった。
犬と人間では、もちろん犬のほうが断然有利だ。まだ子犬なのに、全然追いつけない。
はぁ、はぁ…。なんでこんなに逃げ足が速いのよ…。
こんなところまで元祖に似なくともいいのに。
「こらっ、待ちなさーい!ジェーイ!」
「お前もジェイって言うのか。うん?あれが付いてないな…」
逃げるジェイを捕まえたのは本物のジェイだった。
抱き上げた子犬に男の子の印が付いていないのを確認すると眉をしかめて、私を見る。
「シンシア、雌に俺の名前なんてつけるなよー」
「ごめんね、勝手につけて」
目の前でそう言いながら、ジェイは笑っている。
ここにいるはずはないない人。
もう二度と会うはずはない人…。
それなのに、私は彼につられて普通に言葉を返していた。
幸いなことに体調に変化はなく、いたって元気に毎日過ごしている。
やはり丈夫な体だから毒の影響が出るのが遅いのかもしれない。
それは嬉しいことだけれども、いつ死を迎えてもおかしくない状況で新たな人間関係を作るのが怖い。
もし私に親しい友人が出来たら、その人は私が死んだ時に少なからず悲しんでくれるだろう。それにもし私が毒の影響で動けなくなり寝込んでしまったら、手助けをしてくれるかもしれない。
…そんなふうに迷惑を掛けたくはない。
だから大切な人達に何も告げずにここにいるのだ。
あの最低なルイアンから、贅沢をしなければ暮らせるだけのお金は毟り取ってきた。だから働かずとも一人で静かに暮らせていけるし、誰にも迷惑をかけずに死を迎えることも出来る。
だからそれを実践している。
町外れに小さな家を借り、人付き合いは必要最低限に押さえて、一人で生活をしている。
貴族として生きてきたけど、その人生の大半は貧乏だったので自分で何でもできるから使用人も必要がない。
一応はまだ伯爵夫人だけれども、この町の人達は誰もその事実を知らない。訳ありの女性が一人寂しく暮らしていると思ってくれているのは都合が良かった。
正直に言えば寂しくて仕方がなかった。
でも数ヶ月前から子犬が我が家に住み着いたので、その寂しさはだいぶましになっている。
「ジェイ、ごはんよ。虫を追いかけるのはやめて戻ってきなさい」
「ワン、ワンワン!」
こっちを見て元気よく返事?をするけれど、戻っては来ない。蝶を追いかけるのに夢中なのだろう。
ふふ、こういうところがジェイにそっくりなのよね。
ジェイとはこの子犬につけた名前だ。自由奔放で可愛くて手が掛かるところがあの幼馴染みにそっくりだったから、その名を拝借した。
きっとジェイが知ったら『シン姉、俺の名前を犬につけるなよー!』とむくれそうだ。でもその後に一番犬を可愛がるのだろう。『お前、俺に似て見所があるぞっ!』て頭を撫でて甘やかす姿が想像できる。
ジェイは動物にも好かれていたものね…。
大切な人達を思い出さない日はない。
――彼も私にとって大切な人の一人。
偶然の再会によって、私の中の彼は少年の頃の彼ではなく、もう立派な青年になっている。
最後に目に焼き付けた眩しい笑顔は、私の心を温かくする宝物だ。
「ワン、ワン!」
犬のジェイは泥水のなかを転げ回って泥だらけになっている。あの姿で家に入られては、家の中が悲惨なことになるのは目に見えている。
なんとしてもそれは阻止したい。
「ジェイ、ごはんの前に川でその泥を落としましょうね」
「……」
私の言葉を理解したのか、それとも雰囲気で察したのか、返事をせずに一目散に逃げていく。
大抵の犬と同じように、ジェイも体を洗われるのが嫌いだ。
私とジェイの鬼ごっこが始まった。
犬と人間では、もちろん犬のほうが断然有利だ。まだ子犬なのに、全然追いつけない。
はぁ、はぁ…。なんでこんなに逃げ足が速いのよ…。
こんなところまで元祖に似なくともいいのに。
「こらっ、待ちなさーい!ジェーイ!」
「お前もジェイって言うのか。うん?あれが付いてないな…」
逃げるジェイを捕まえたのは本物のジェイだった。
抱き上げた子犬に男の子の印が付いていないのを確認すると眉をしかめて、私を見る。
「シンシア、雌に俺の名前なんてつけるなよー」
「ごめんね、勝手につけて」
目の前でそう言いながら、ジェイは笑っている。
ここにいるはずはないない人。
もう二度と会うはずはない人…。
それなのに、私は彼につられて普通に言葉を返していた。
99
あなたにおすすめの小説
『話さない王妃と冷たい王 ―すれ違いの宮廷愛
柴田はつみ
恋愛
王国随一の名門に生まれたリディア王妃と、若き国王アレクシス。
二人は幼なじみで、三年前の政略結婚から穏やかな日々を過ごしてきた。
だが王の帰還は途絶え、宮廷に「王が隣国の姫と夜を共にした」との噂が流れる。
信じたいのに、確信に変わる光景を見てしまった夜。
王妃の孤独が始まり、沈黙の愛がゆっくりと崩れていく――。
誤解と嫉妬の果てに、愛を取り戻せるのか。
王宮を舞台に描く、切なく美しい愛の再生物語。
【完結】恋人にしたい人と結婚したい人とは別だよね?―――激しく同意するので別れましょう
冬馬亮
恋愛
「恋人にしたい人と結婚したい人とは別だよね?」
セシリエの婚約者、イアーゴはそう言った。
少し離れた後ろの席で、婚約者にその台詞を聞かれているとも知らずに。
※たぶん全部で15〜20話くらいの予定です。
さくさく進みます。
婚約破棄と言われても、どうせ好き合っていないからどうでもいいですね
うさこ
恋愛
男爵令嬢の私には婚約者がいた。
伯爵子息の彼は帝都一の美麗と言われていた。そんな彼と私は平穏な学園生活を送るために、「契約婚約」を結んだ。
お互い好きにならない。三年間の契約。
それなのに、彼は私の前からいなくなった。婚約破棄を言い渡されて……。
でも私たちは好きあっていない。だから、別にどうでもいいはずなのに……。
お母様!その方はわたくしの婚約者です
バオバブの実
恋愛
マーガレット・フリーマン侯爵夫人は齢42歳にして初めて恋をした。それはなんと一人娘ダリアの婚約者ロベルト・グリーンウッド侯爵令息
その事で平和だったフリーマン侯爵家はたいへんな騒ぎとなるが…
【完結済】自由に生きたいあなたの愛を期待するのはもうやめました
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
伯爵令嬢クラウディア・マクラウドは長年の婚約者であるダミアン・ウィルコックス伯爵令息のことを大切に想っていた。結婚したら彼と二人で愛のある家庭を築きたいと夢見ていた。
ところが新婚初夜、ダミアンは言った。
「俺たちはまるっきり愛のない政略結婚をしたわけだ。まぁ仕方ない。あとは割り切って互いに自由に生きようじゃないか。」
そう言って愛人らとともに自由に過ごしはじめたダミアン。激しくショックを受けるクラウディアだったが、それでもひたむきにダミアンに尽くし、少しずつでも自分に振り向いて欲しいと願っていた。
しかしそんなクラウディアの思いをことごとく裏切り、鼻で笑うダミアン。
心が折れそうなクラウディアはそんな時、王国騎士団の騎士となった友人アーネスト・グレアム侯爵令息と再会する。
初恋の相手であるクラウディアの不幸せそうな様子を見て、どうにかダミアンから奪ってでも自分の手で幸せにしたいと考えるアーネスト。
そんなアーネストと次第に親密になり自分から心が離れていくクラウディアの様子を見て、急に焦り始めたダミアンは─────
(※※夫が酷い男なので序盤の数話は暗い話ですが、アーネストが出てきてからはわりとラブコメ風です。)(※※この物語の世界は作者独自の設定です。)
危ない愛人を持つあなたが王太子でいられるのは、私のおかげです。裏切るのなら容赦しません。
Hibah
恋愛
エリザベスは王妃教育を経て、正式に王太子妃となった。夫である第一王子クリフォードと初めて対面したとき「僕には好きな人がいる。君を王太子妃として迎えるが、僕の生活には極力関わらないでくれ」と告げられる。しかしクリフォードが好きな人というのは、平民だった。もしこの事実が公になれば、クリフォードは廃太子となり、エリザベスは王太子妃でいられなくなってしまう。エリザベスは自分の立場を守るため、平民の愛人を持つ夫の密会を見守るようになる……。
なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい
木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」
私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。
アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。
これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。
だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。
もういい加減、妹から離れたい。
そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。
だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる