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13.ともに歩む未来へ②
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頭を抱えるジェイと首を傾げる私。
どちらが先に口を開いたかというとそれはジェイの方だった。
「シンシアは俺の、その…、なんていうか…」
はっきりとは言わずに、ジェイはガシガシと髪の毛を乱暴に掻きむしっている。これは彼が照れている証拠でもある。
子供の頃もこんなふうにもじもじと照れることがたまにあったなと思い出す。
あの頃は可愛いと呟き思わず抱きしめたけれど、今となっては、大きな体をした男性がもじもじしている姿に一歩引いてしまう。
…なんというか……微妙だわ。
でも彼が誤魔化そうとしていないのは伝わってくるから、口を挟まずに待ってみる。
「あーー、早い話が俺の妻はシンシアだってことだよっ!」
「つま?!…えっと、もしかしてうまって言ったの?」
妻でも馬でも、どちらでも意味は通じない。
でも妻のほうがより意味が分からない気がしたので聞き返す。
ジェイは『妻だよ!馬じゃないからなっ!!』と何度も叫ぶように言っているから、私の聞き間違えではないようだ。
「分かった?」
「……分かったのは妻という単語だけよ」
「えーーー!」
「……」
残念な子を見るような眼差しをジェイに向ける。
それは当然だった、だって全然説明が足りてない。
彼は私の視線から察したのだろう、慌てて最初に伝えるべきだった説明を口にする。
「まずはルイアン・ブラックリーとシンシアは数ヶ月前に正式に離縁している。これはナンバル子爵も了承済みのことで、シンシアの妹達にも影響はないから安心してくれ」
事実だけを簡潔にまず伝えてくる。
その事実がもう問題山盛りで聞きたいことはあったが、とりあえずは妹達に影響がないと聞いて安心した。
彼の言葉だから信じられる、こんなことで嘘を付く人ではないから。
だから彼の話を遮らずに聞いていた。
「そしてその後すぐに俺は妻の欄にシンシアの名前が記入してある婚姻届を役所に出して、正式に夫婦になった。だからシンシアはもう『シンシア・ミン』で俺の妻だ。これで分かったかな?」
「…とりあえず事実は分かったわ。でも私は婚姻届に署名していないわよね…。それにあのナンバル子爵はどうして離縁を認めたのかしら、息子が伯爵位を持つことに固執していたはずだわ」
まずは簡単かつ重大な質問を先にする。
それ以前の二人の問題はその後からじっくりと話し合おう。なぜなら短い話では終わりそうもないからだ…。
「シンシアの名前の欄は俺が書いておいた。昔からシンシアの文字は知っているから、かなり上手に書けたから問題はないよ」
胸を張って言っているけれど、これは完全に文書偽造でしかない。
…問題がない?その認識が問題だわ。
ここでそれを指摘したら先に話が進まないので、とりあえず重要なことだけど聞き流すことにする。
決して犯罪を黙認したわけではない。
「ナンバル子爵のことだけど、これも問題はない。実は以前見回りをしていた時に上等な服を着た子供が危ないことをしてたから叱ったんだ。周りにいる大人がその子を注意せずにいたからさー。子供の顔色を窺っているっていうのかな、あれは駄目だよね。シンシアみたいに、駄目なものは駄目って眉間に皺を寄せてビシッと言わないと。だってその子の為には、叱ったほうが良いんだから。そしたらなぜか懷かれて、その子の爺さんとも顔見知りになった。そして俺がルイアンを叩きのめした後、どこからか爺さんがそれを聞きつけてやって来てた」
ナンバル子爵の件から話がいきなり飛んでしまう。
でも必要がない話をするはずはないので、これがナンバル子爵に繋がっていくのだろうと黙って聞いている。
ジェイも私の相槌を求めることなく、そのお爺さんとのやり取りの続きを話す。
「理由を説明しろと言われたけど、ただ頭に血が上っただけだとしか言わなかった。すると爺さんは何も言わずに黙って立ち去って、数日後にまた現れてこう言ったんだ『お前さんの事情は分かった。それでこれからどうするつもりだ』って」
「それって…」
「うん、実はその爺さんかなりのお偉いさんだったんだ」
知らないうちにジェイは大物と懇意になっていたのだという。彼は子供の頃から人の懐に入るのが上手い。本人にその気がなくとも、相手から好かれるのだ。
それはジェイの性格ゆえだろう。
そしてお爺さんは、ジェイの暴走には訳があると察して、彼の行動を探ってその理由に辿り着いたのだろう。
そのお爺さんから今後のことを聞かれた時にジェイは、ルイアンを脅して離縁させた後、私との婚姻届を出すことは決めていたけれども、ナンバル子爵をどう黙らすか考え中で動けなかったらしい。下手なことをして妹達に影響が及んではと悩んでいたと。
黙ったままのジェイにその人は『単純なお前はこうするつもりなんだろ』ってスラスラと彼が考えていることを当てたらしい。
『余計な手出しは無用だから。俺は自分の手でシンシアを守るんだ!』
『大切なものなら尚更、利用出来るものは賢く使えばいい。お前が決めたなら、儂が手を出したことにはならんだろって』
『それって屁理屈じゃないのか?』
『気にするな、大人は大概そんなもんだ。結果を良ければ全て良しだ。ふぉっふぉふぉ』
『…爺さん、悪だな』
…その人って何者なの……。
そんな会話を交わし、ジェイはナンバル子爵を黙らせる手段を手に入れることが出来たという。
「だからシンシアを気にすることなんて一切ないから安心してくれ」
「……え、ええ」
とりあえずはジェイの身に危険が及ぶことはなさそうだと分かり安心する。納得はしていないけれど、聞かなくてもいいことが世の中にはある…。
いろいろなことは分かったので、今度は二人の事をちゃんと話し合わなくてはならない。
私はもうすぐ死ぬ運命にある。
だからこのまま流されるわけにはいかない。
それにジェイが私を妻としたのはたぶん、優しさから同情したのだ。一人で逝かせるよりは、自分が寄り添ってあげようと思ったのだろう。昔から困った人がいると放っておけない性分なのだ。
でも寂しいからと、彼の優しさに甘えるつもりはない。
私には未来はないけれど、そこに彼を巻き込みたくはないから。
――ジェイの未来を壊したくない。
「ジェイと私が今現在夫婦なのは分かったわ。だからすぐに離縁しましょう」
私は彼の目を真っ直ぐに見ながら、迷うことなくそう告げた。
どちらが先に口を開いたかというとそれはジェイの方だった。
「シンシアは俺の、その…、なんていうか…」
はっきりとは言わずに、ジェイはガシガシと髪の毛を乱暴に掻きむしっている。これは彼が照れている証拠でもある。
子供の頃もこんなふうにもじもじと照れることがたまにあったなと思い出す。
あの頃は可愛いと呟き思わず抱きしめたけれど、今となっては、大きな体をした男性がもじもじしている姿に一歩引いてしまう。
…なんというか……微妙だわ。
でも彼が誤魔化そうとしていないのは伝わってくるから、口を挟まずに待ってみる。
「あーー、早い話が俺の妻はシンシアだってことだよっ!」
「つま?!…えっと、もしかしてうまって言ったの?」
妻でも馬でも、どちらでも意味は通じない。
でも妻のほうがより意味が分からない気がしたので聞き返す。
ジェイは『妻だよ!馬じゃないからなっ!!』と何度も叫ぶように言っているから、私の聞き間違えではないようだ。
「分かった?」
「……分かったのは妻という単語だけよ」
「えーーー!」
「……」
残念な子を見るような眼差しをジェイに向ける。
それは当然だった、だって全然説明が足りてない。
彼は私の視線から察したのだろう、慌てて最初に伝えるべきだった説明を口にする。
「まずはルイアン・ブラックリーとシンシアは数ヶ月前に正式に離縁している。これはナンバル子爵も了承済みのことで、シンシアの妹達にも影響はないから安心してくれ」
事実だけを簡潔にまず伝えてくる。
その事実がもう問題山盛りで聞きたいことはあったが、とりあえずは妹達に影響がないと聞いて安心した。
彼の言葉だから信じられる、こんなことで嘘を付く人ではないから。
だから彼の話を遮らずに聞いていた。
「そしてその後すぐに俺は妻の欄にシンシアの名前が記入してある婚姻届を役所に出して、正式に夫婦になった。だからシンシアはもう『シンシア・ミン』で俺の妻だ。これで分かったかな?」
「…とりあえず事実は分かったわ。でも私は婚姻届に署名していないわよね…。それにあのナンバル子爵はどうして離縁を認めたのかしら、息子が伯爵位を持つことに固執していたはずだわ」
まずは簡単かつ重大な質問を先にする。
それ以前の二人の問題はその後からじっくりと話し合おう。なぜなら短い話では終わりそうもないからだ…。
「シンシアの名前の欄は俺が書いておいた。昔からシンシアの文字は知っているから、かなり上手に書けたから問題はないよ」
胸を張って言っているけれど、これは完全に文書偽造でしかない。
…問題がない?その認識が問題だわ。
ここでそれを指摘したら先に話が進まないので、とりあえず重要なことだけど聞き流すことにする。
決して犯罪を黙認したわけではない。
「ナンバル子爵のことだけど、これも問題はない。実は以前見回りをしていた時に上等な服を着た子供が危ないことをしてたから叱ったんだ。周りにいる大人がその子を注意せずにいたからさー。子供の顔色を窺っているっていうのかな、あれは駄目だよね。シンシアみたいに、駄目なものは駄目って眉間に皺を寄せてビシッと言わないと。だってその子の為には、叱ったほうが良いんだから。そしたらなぜか懷かれて、その子の爺さんとも顔見知りになった。そして俺がルイアンを叩きのめした後、どこからか爺さんがそれを聞きつけてやって来てた」
ナンバル子爵の件から話がいきなり飛んでしまう。
でも必要がない話をするはずはないので、これがナンバル子爵に繋がっていくのだろうと黙って聞いている。
ジェイも私の相槌を求めることなく、そのお爺さんとのやり取りの続きを話す。
「理由を説明しろと言われたけど、ただ頭に血が上っただけだとしか言わなかった。すると爺さんは何も言わずに黙って立ち去って、数日後にまた現れてこう言ったんだ『お前さんの事情は分かった。それでこれからどうするつもりだ』って」
「それって…」
「うん、実はその爺さんかなりのお偉いさんだったんだ」
知らないうちにジェイは大物と懇意になっていたのだという。彼は子供の頃から人の懐に入るのが上手い。本人にその気がなくとも、相手から好かれるのだ。
それはジェイの性格ゆえだろう。
そしてお爺さんは、ジェイの暴走には訳があると察して、彼の行動を探ってその理由に辿り着いたのだろう。
そのお爺さんから今後のことを聞かれた時にジェイは、ルイアンを脅して離縁させた後、私との婚姻届を出すことは決めていたけれども、ナンバル子爵をどう黙らすか考え中で動けなかったらしい。下手なことをして妹達に影響が及んではと悩んでいたと。
黙ったままのジェイにその人は『単純なお前はこうするつもりなんだろ』ってスラスラと彼が考えていることを当てたらしい。
『余計な手出しは無用だから。俺は自分の手でシンシアを守るんだ!』
『大切なものなら尚更、利用出来るものは賢く使えばいい。お前が決めたなら、儂が手を出したことにはならんだろって』
『それって屁理屈じゃないのか?』
『気にするな、大人は大概そんなもんだ。結果を良ければ全て良しだ。ふぉっふぉふぉ』
『…爺さん、悪だな』
…その人って何者なの……。
そんな会話を交わし、ジェイはナンバル子爵を黙らせる手段を手に入れることが出来たという。
「だからシンシアを気にすることなんて一切ないから安心してくれ」
「……え、ええ」
とりあえずはジェイの身に危険が及ぶことはなさそうだと分かり安心する。納得はしていないけれど、聞かなくてもいいことが世の中にはある…。
いろいろなことは分かったので、今度は二人の事をちゃんと話し合わなくてはならない。
私はもうすぐ死ぬ運命にある。
だからこのまま流されるわけにはいかない。
それにジェイが私を妻としたのはたぶん、優しさから同情したのだ。一人で逝かせるよりは、自分が寄り添ってあげようと思ったのだろう。昔から困った人がいると放っておけない性分なのだ。
でも寂しいからと、彼の優しさに甘えるつもりはない。
私には未来はないけれど、そこに彼を巻き込みたくはないから。
――ジェイの未来を壊したくない。
「ジェイと私が今現在夫婦なのは分かったわ。だからすぐに離縁しましょう」
私は彼の目を真っ直ぐに見ながら、迷うことなくそう告げた。
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