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24.嫌われる勇気①
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この展開にザラ王女の顔から笑みが消えていく。侍女達もどうして良いか分からずに落ち着きを失っている。
私もタイアンの言葉は意外だった。
彼は公平な人だから、無条件に王女の肩を持つことはないと信じていた。でも、もっと姪である王女に寄り添った――この場で責めることなく、あとで窘めるような形で事を収めると思っていた。
私の中でもともと高かった彼への評価が急上昇する。
そして、もっと意外だったのは王女の反応だった。しゅんと、してしまったのだ。
彼に言われたのが堪えているようだった。きっと彼女にとってタイアンは大好きな叔父なのだろう。
その気持ちは分かる。王位継承権を放棄したことで変わり者と言われているけど、彼はみなから好かれている。
「ごめんなさい、叔父様」
「謝罪する相手を間違えていますよ、ザラ」
「シャロン様。……ただの偶然を勘違いして申し訳ありませんでした」
濡れ衣を着せようとしたのに、勘違いで済ませるつもりのようだ。本当に勝手な王女様。どうしてルークライが彼女を選んだのか分からない。
本当に見る目がないな……。
そう思いながら、私は頬を無理矢理緩ませる。報告書の作成がまだ終わっていないので、さっさと終わりにしたい。
「誤解が解けて良かったです」
王女はこれでいいですよね? という感じでタイアンを窺い見る。叔父に嫌われないための謝罪なのだ。まあ、いいけど……。
よく出来ましたというように、タイアンは彼女に笑みを返した。
「では、リディア、早く戻りましょう。今日の分の報告書がまだですよね。それから、ザラ」
「アクセル叔父様、なんでしょうか?」
王女は嬉しそうに答えた。
「今日のことは兄上に報告しておきます。それと、三度目がないことを心から祈っていますよ。私とて姪を嫌いにはなりたくないので」
「……分かりました、叔父様」
王女の声が分かりやすく萎む。素直な人なのだろう。
溺愛されて育ったからか自分本位なところがある。でも、彼女の魅力によって、それは天真爛漫という表現に変わる。
私をこの場に呼び出さずに、明日公衆の面前で貶めることも可能だった。それを考えたら、性根は腐っていない――百歩譲って天真爛漫で間違ってないのもしれない。
……けど、やはりルークには似合わないと思う。
タイアンは私の背に軽く手をあてエスコートするように空中庭園から退出した。
ふたり並んで歩いていると、すれ違う人達が恭しく道を譲ってくれる。彼が王弟だからだ。早く戻って報告書を仕上げたいので助かる。
「リディア。ザラが本当に申し訳ありませんでした。そして、何があったか教えてくれませんか? 正確に把握しておきたいので」
私は頷いてから、呼び出された後のこと話した。
今回はシャロンのこともちゃんと伝える。そうしないと王女の行動の辻褄が合わなくなってしまうから。もちろん、『私の憶測ですけど』と最後に付け加えた。証拠はないから。
彼は聞いている途中で何度も謝ってきた。特に頬を叩いたと知った時は、土下座する勢いだったので必死で止めた。本当に姪とは大違いである。
そして、私の話を聞き終わった彼は首をひねった。
「だいたい予想通りでしたが、一点だけ疑問があります。ザラとルークライが互いに想い合っている関係という前提ですが、これはどこからの情報ですか?」
彼の指摘に、私は目を泳がせる。勢いでつい話してしまったけど、これはまだ公になっていないことだった。
どうしよう……。
シャロンの名は出せない。
今回のことは勘違いして注進に及んだ彼女にも落ち度がある。だから、今度あったら注意するつもり。でも、それはそれだ。
「あの……、えっと、小耳に挟んで。でも、タイアン魔法士長もそれを知っていたからこそ、あの判断だったのですよね?」
「いいえ、違います。私は王族が使うはずない布とザラの様子、それからあの子が誰かさんに熱を上げているのを知っていただけです」
「では、ふたりが婚約間近というのは誤りですか?」
期待から思わず声が上ずってしまう。
「さあ、どうでしょうか? 私は王弟ですが、数多いる王族のひとりに過ぎません。情報が私のところにおりてくるのに、時間がかかることもありますので」
「……そうですよね」
たぶん、まだ彼が知らないだけだろう。糠喜びに終わってしまった。私が曖昧な笑みを受かべて落ち込んでいるのを誤魔化していると、彼が窺うように覗き込んでくる。
「仮に、婚約の話が事実だとしたら、リディアはどう思いますか?」
「……」
もの凄く嫌だ。ルークライには幸せになって欲しいから。
ここでの正しい返事は『祝福します』の一択だ。でも、言いたくなかった。この前はルークライにおめでとうと言ったけど、あの時はザラ王女がこんな人なんて知らなかった。
今、祝福しますと言ったら、彼の不幸せを望んでいると言うのと一緒だ。
答えない私にむかって、タイアンは「ここだけの話ですから」と軽く片目をつぶってみせる。
「どうぞ、忌憚ない意見を聞かせてください、リディア。ルークライの妹として」
私もタイアンの言葉は意外だった。
彼は公平な人だから、無条件に王女の肩を持つことはないと信じていた。でも、もっと姪である王女に寄り添った――この場で責めることなく、あとで窘めるような形で事を収めると思っていた。
私の中でもともと高かった彼への評価が急上昇する。
そして、もっと意外だったのは王女の反応だった。しゅんと、してしまったのだ。
彼に言われたのが堪えているようだった。きっと彼女にとってタイアンは大好きな叔父なのだろう。
その気持ちは分かる。王位継承権を放棄したことで変わり者と言われているけど、彼はみなから好かれている。
「ごめんなさい、叔父様」
「謝罪する相手を間違えていますよ、ザラ」
「シャロン様。……ただの偶然を勘違いして申し訳ありませんでした」
濡れ衣を着せようとしたのに、勘違いで済ませるつもりのようだ。本当に勝手な王女様。どうしてルークライが彼女を選んだのか分からない。
本当に見る目がないな……。
そう思いながら、私は頬を無理矢理緩ませる。報告書の作成がまだ終わっていないので、さっさと終わりにしたい。
「誤解が解けて良かったです」
王女はこれでいいですよね? という感じでタイアンを窺い見る。叔父に嫌われないための謝罪なのだ。まあ、いいけど……。
よく出来ましたというように、タイアンは彼女に笑みを返した。
「では、リディア、早く戻りましょう。今日の分の報告書がまだですよね。それから、ザラ」
「アクセル叔父様、なんでしょうか?」
王女は嬉しそうに答えた。
「今日のことは兄上に報告しておきます。それと、三度目がないことを心から祈っていますよ。私とて姪を嫌いにはなりたくないので」
「……分かりました、叔父様」
王女の声が分かりやすく萎む。素直な人なのだろう。
溺愛されて育ったからか自分本位なところがある。でも、彼女の魅力によって、それは天真爛漫という表現に変わる。
私をこの場に呼び出さずに、明日公衆の面前で貶めることも可能だった。それを考えたら、性根は腐っていない――百歩譲って天真爛漫で間違ってないのもしれない。
……けど、やはりルークには似合わないと思う。
タイアンは私の背に軽く手をあてエスコートするように空中庭園から退出した。
ふたり並んで歩いていると、すれ違う人達が恭しく道を譲ってくれる。彼が王弟だからだ。早く戻って報告書を仕上げたいので助かる。
「リディア。ザラが本当に申し訳ありませんでした。そして、何があったか教えてくれませんか? 正確に把握しておきたいので」
私は頷いてから、呼び出された後のこと話した。
今回はシャロンのこともちゃんと伝える。そうしないと王女の行動の辻褄が合わなくなってしまうから。もちろん、『私の憶測ですけど』と最後に付け加えた。証拠はないから。
彼は聞いている途中で何度も謝ってきた。特に頬を叩いたと知った時は、土下座する勢いだったので必死で止めた。本当に姪とは大違いである。
そして、私の話を聞き終わった彼は首をひねった。
「だいたい予想通りでしたが、一点だけ疑問があります。ザラとルークライが互いに想い合っている関係という前提ですが、これはどこからの情報ですか?」
彼の指摘に、私は目を泳がせる。勢いでつい話してしまったけど、これはまだ公になっていないことだった。
どうしよう……。
シャロンの名は出せない。
今回のことは勘違いして注進に及んだ彼女にも落ち度がある。だから、今度あったら注意するつもり。でも、それはそれだ。
「あの……、えっと、小耳に挟んで。でも、タイアン魔法士長もそれを知っていたからこそ、あの判断だったのですよね?」
「いいえ、違います。私は王族が使うはずない布とザラの様子、それからあの子が誰かさんに熱を上げているのを知っていただけです」
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期待から思わず声が上ずってしまう。
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「……そうですよね」
たぶん、まだ彼が知らないだけだろう。糠喜びに終わってしまった。私が曖昧な笑みを受かべて落ち込んでいるのを誤魔化していると、彼が窺うように覗き込んでくる。
「仮に、婚約の話が事実だとしたら、リディアはどう思いますか?」
「……」
もの凄く嫌だ。ルークライには幸せになって欲しいから。
ここでの正しい返事は『祝福します』の一択だ。でも、言いたくなかった。この前はルークライにおめでとうと言ったけど、あの時はザラ王女がこんな人なんて知らなかった。
今、祝福しますと言ったら、彼の不幸せを望んでいると言うのと一緒だ。
答えない私にむかって、タイアンは「ここだけの話ですから」と軽く片目をつぶってみせる。
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