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9.別れ③
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「…何もいりません。ただ離縁出来ればそれで良いんです。
誰も悪くなんてないのだから。
待ち続けた私も、記憶を失ったあなたも、親切からあなたを助け恋に落ちたラミアも。
それに生まれてきたケビンにも罪はない。
誰にも悪意なんてなかった。
そこにあったのはそれぞれの想いだけだわ。
そうでしょう?エド。
不幸な事故と不運が重なって運命に翻弄されてしまっただけ。
今回のことで責任を負う必要は誰にもないし、負って欲しくもありません」
これは偽りのない気持ちだった。
だって誰も悪い人はいないのだから。
みんな自分からこんな運命を望んだわけではない。
それはそれぞれの立場になって考えれば分かることで、ある意味みんな避けられない運命の被害者だった。
それが分かっていながら誰が誰を責められると言うんだろう。
この運命を肯定はしない、でも断罪するべき人もいない。もし誰かをと言われたら私は…残酷な試練を与えた愚かな神に怒りをぶつけたい。
「…マリア……」
何かを言いたそうな表情の彼にあえて気づかないふりをする。
彼が何を言いたいのかは分からないけれども、このまま聞かないほうがいい。
優しくされたら縋ってしまうかもしれない。
…それでは駄目だ。
こんな風に二人だけでいて、名を呼ばれるの最後になるだろう。私の名を呼ぶ彼の声音を心に刻みつける。
『さあ、一歩前へ』弱い自分の背中を自分自身でそっと押してあげる。
「だから私が去るのをあなたは黙って見送ってくれませんか。
少しだけでいいから私の幸せを願いながら。
それが私からの最後のお願いです。
……叶えてくれますか?エド」
「……あ…あぁ、叶えるよ。マリア」
彼は声を詰まらせながら『是』と返事をしてくれた。
ありがとう…エド。
これでいい、これで私は進める。
…離れられる、ここから。
「あなたを愛したことは後悔していません。
かけがえのない時間をありがとう。
あなたから離れて私は前に進みます。
私も幸せになろうと思います。
新しい幸せをこれから探してみせます。
だから笑って別れましょう。
……エドワード、あなたもお幸せに……」
涙を流すことなく彼のことを真っ直ぐ見つめ、偽りのない言葉を紡いでいく。
私は上手に微笑んでいるだろうか。
彼には泣き顔ではなく私の笑顔を覚えておいて欲しい。
そして彼の笑顔を目に焼き付けておきたい。
だって幸せだった短い結婚生活では私達はいつでも笑い合っていたから。
ねえ…笑って、前のように。
あなたの笑顔を見ると幸せになれるから。
決別の言葉を口にし、私は後戻りする道を自ら断った。
「…本当にすまない、そして有り難う。
私も君の幸せをどんな時も祈っているよ、マリア」
微笑んでいる彼の言葉にも偽りはない。
今度は彼でなく私がこの部屋から先に出ていく。
彼はもう何も声を掛けてくることはない。きっと約束を守って彼は心のなかで私の幸せを祈ってくれているのだろう。
それでいい、…それだけでいい。
……エド、あ…いして…くれてありがとう。
あなたを愛せて、よかった。
あり、がと…う……っ、うう……。
私は振り返ることなく屋敷を去っていく。
使用人達はみな涙を流しがら見送ってくれ、そこにはラミアの姿もあった。
彼女は涙を流してはいないけれども、私に向かって詫びるように頭を下げ続けていた。
そう彼女はいつも謙虚で正妻の私を気遣うことを忘れないそんな女性だった。
きっとこんな出会いでなければ私と彼女は友人になれていたかもしれない。
そう思えるほど夫が愛している彼女は素敵な人だった。
でも私と彼女が友人になることはない、私だってそこまで良い人でなんていられない。だから彼女には言葉を掛けることはなかった。
こうして私とエドワード・ダイソンは正式に離縁し、私は実家であるクーガー伯爵家へ戻りマリア・クーガーに戻った。
誰も悪くなんてないのだから。
待ち続けた私も、記憶を失ったあなたも、親切からあなたを助け恋に落ちたラミアも。
それに生まれてきたケビンにも罪はない。
誰にも悪意なんてなかった。
そこにあったのはそれぞれの想いだけだわ。
そうでしょう?エド。
不幸な事故と不運が重なって運命に翻弄されてしまっただけ。
今回のことで責任を負う必要は誰にもないし、負って欲しくもありません」
これは偽りのない気持ちだった。
だって誰も悪い人はいないのだから。
みんな自分からこんな運命を望んだわけではない。
それはそれぞれの立場になって考えれば分かることで、ある意味みんな避けられない運命の被害者だった。
それが分かっていながら誰が誰を責められると言うんだろう。
この運命を肯定はしない、でも断罪するべき人もいない。もし誰かをと言われたら私は…残酷な試練を与えた愚かな神に怒りをぶつけたい。
「…マリア……」
何かを言いたそうな表情の彼にあえて気づかないふりをする。
彼が何を言いたいのかは分からないけれども、このまま聞かないほうがいい。
優しくされたら縋ってしまうかもしれない。
…それでは駄目だ。
こんな風に二人だけでいて、名を呼ばれるの最後になるだろう。私の名を呼ぶ彼の声音を心に刻みつける。
『さあ、一歩前へ』弱い自分の背中を自分自身でそっと押してあげる。
「だから私が去るのをあなたは黙って見送ってくれませんか。
少しだけでいいから私の幸せを願いながら。
それが私からの最後のお願いです。
……叶えてくれますか?エド」
「……あ…あぁ、叶えるよ。マリア」
彼は声を詰まらせながら『是』と返事をしてくれた。
ありがとう…エド。
これでいい、これで私は進める。
…離れられる、ここから。
「あなたを愛したことは後悔していません。
かけがえのない時間をありがとう。
あなたから離れて私は前に進みます。
私も幸せになろうと思います。
新しい幸せをこれから探してみせます。
だから笑って別れましょう。
……エドワード、あなたもお幸せに……」
涙を流すことなく彼のことを真っ直ぐ見つめ、偽りのない言葉を紡いでいく。
私は上手に微笑んでいるだろうか。
彼には泣き顔ではなく私の笑顔を覚えておいて欲しい。
そして彼の笑顔を目に焼き付けておきたい。
だって幸せだった短い結婚生活では私達はいつでも笑い合っていたから。
ねえ…笑って、前のように。
あなたの笑顔を見ると幸せになれるから。
決別の言葉を口にし、私は後戻りする道を自ら断った。
「…本当にすまない、そして有り難う。
私も君の幸せをどんな時も祈っているよ、マリア」
微笑んでいる彼の言葉にも偽りはない。
今度は彼でなく私がこの部屋から先に出ていく。
彼はもう何も声を掛けてくることはない。きっと約束を守って彼は心のなかで私の幸せを祈ってくれているのだろう。
それでいい、…それだけでいい。
……エド、あ…いして…くれてありがとう。
あなたを愛せて、よかった。
あり、がと…う……っ、うう……。
私は振り返ることなく屋敷を去っていく。
使用人達はみな涙を流しがら見送ってくれ、そこにはラミアの姿もあった。
彼女は涙を流してはいないけれども、私に向かって詫びるように頭を下げ続けていた。
そう彼女はいつも謙虚で正妻の私を気遣うことを忘れないそんな女性だった。
きっとこんな出会いでなければ私と彼女は友人になれていたかもしれない。
そう思えるほど夫が愛している彼女は素敵な人だった。
でも私と彼女が友人になることはない、私だってそこまで良い人でなんていられない。だから彼女には言葉を掛けることはなかった。
こうして私とエドワード・ダイソンは正式に離縁し、私は実家であるクーガー伯爵家へ戻りマリア・クーガーに戻った。
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