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10.記憶の喪失①〜エドワード視点〜
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ゴッボ、ゴッホゲホ…。
咳き込んだとともに大量の水を吐き出す。
身体が痛い、どこが痛いのか分からないくらい全身を殴りつけられたような痛みに襲われる。
いったい…俺はどうしたんだ…。
なぜ水を吐き出している?
どうして体が痛いんだ?
ここは…どこだ…、それに…。
疑問は次々浮かび上がるが、その答えはいくら待っても出てこない。
何も分からないのはこの酷い痛みのせいだろうか。
正確に言うとこの時の俺は何が分かっていないのかも実際には分かっていなかった。
目を開けているはずなのに何も見えず、目の前に広がるのはぼんやりとした闇だけだった。
不安と痛みに襲われながら懸命に声を上げようとする。
「…た…たすけっ、ゲホッ…だれ…かっ、」
出てきた声はかすれた小さな声だけ。
くそっ…、これじゃ誰にも聞こえない。
だれか…誰か…!
何人かの足音と『なにか聞こえたぞ』『こっちからだ』という会話が近づいてくる。
誰にも届かないと思っていた声は幸運なことに近くを通りかかった人の耳に届いていたようだ。
すぐ側まで来てくれたことは気配で分かった。
これで助けてもらえると思ったが、彼らの目的は助けることではなかった。
動けずにいる俺から身に着けていたものを次々と乱暴に剥ぎ取っていく。抵抗しようにもそんな力はなく、無様にもされるがままだった。
「はっはっは、これはいいな。きっと金になるぞ」
「とにかく早く取れるものは全部取れ。誰かに見つかると厄介だから、急げ!」
彼らの目的は救助ではなく弱っている俺から身に付けているものを盗むことだった。
容赦ない扱いに痛む身体が悲鳴を上げる。
「…うっうう…、やめろ…」
出てきたのはうめき声と拒絶。
だがそれに対する答えは汚い言葉と暴行だった。
「この死にぞこないがっ、くたばっちまえっ!」
「何言ってるんだよっ。俺達に抵抗すらできずにいるくせにさ、あっはっは」
ボコッ、ボキッ…!!
笑いながら殴られ、俺は意識が遠のいていく。
「おいコイツどうする?生かしておいたらまずいんじゃないか?」
「このままほっといたらすぐに死ぬさ。俺たちが殺したんじゃ目覚めが悪いが勝手に死ぬんなら関係ねぇ。それともお前が息の根を止めるか?
俺はやだぜ、盗みはやるが殺しはごめんだ。
さぁ、これで旨いものでも食おうぜ!」
そんな言葉とともに遠ざかって行く足音を聞きながら俺は死を意識する。
ここで……死ぬのか俺は。
……一人で…。
そう考える俺の頭には誰の顔も浮かんでこない。
死ぬ間際に見るという走馬灯は嘘だったのか…。
そう思いながら意識を手放していった。
キツイ消毒液の匂いが鼻について目覚める。俺は生きているのだろうか。
身体を動かそうとすると痛みで顔が歪み、自分がまだ生きていることを実感する。
ここが温かいベットのうえなのは感触で分かるがどうしてここに自分がいるのだろう。
ここがどこか確かめたくて目を開けようとするが、目が何かで覆われていて瞼を開けることすらできない。
いったいなんだこれは?
布が巻かれているのか?
自分の目元に手をやりそれを取ろうとすると誰かが声を上げた。
「だめ、だめよ!その包帯を取ってはいけないわ。
お医者様の許可がおりてからでないと、完全に視力を失ってしまうから」
「そうだぞ。お前さんは身体中打撲と擦り傷があるが、それより目が一番厄介な状態なんだ。体の傷は痛むだろうが重傷ではない。だがな目はかなり傷ついているから暫くは絶対に包帯が必要だ」
女性の慌てた声と年配の男性の落ち着いた声。
あんな目にあった俺は警戒心を顕にして訊ねる。
「…誰ですか…?それにここは…?」
「ああ、すまんかったな。まずはそこからちゃんと話さないと目が見えないお前さんには何も分からんな。
儂は医者のマイクだ。お前さんは川岸で裸の状態で発見された。
怪我の具合から見て、流されてここに流れ着いたんだろう。全裸だったのは、誰かに身ぐるみを剥がされたんだろうな。ここら辺には貧しさからそんな真似をする馬鹿な奴等もいるんだ。
まあ、あの激流で死なずにここに流れ着いたのも奇跡だし、目以外は打撲と擦り傷で済んだのも有り得ないくらいの奇跡なんだ。
この川に流れてきた者は殆ど土左衛門になっているし、辛うじて生きていても酷い怪我を負っているものだ。
本当に幸運な奴だな、お前さんって男は。目だってちゃんと朝晩薬をつけ半年ほど使わなかったら元に戻る見立てだ。
とにかく神様とお前さんを見つけて看病している男爵家の者達に感謝することだな。今だってこの家の三女が面倒を見てくれているんだ」
どうやら俺は親切な人に助けられたようだ。不幸中の幸いにホッとする。
「助けていただいて有り難うございます」
どちらを向いて話したらいいのか分からないので前を向いたまま礼を伝える。
「いいえ、当たり前のことをしただけですから。それよりあなたの名前と家の場所を教えてくれませんか?ここにあなたがいることをご家族に連絡をしますから。きっと川に流されたあなたを心配しているわ」
そう言ったのは若い女性の声で、きっと男爵家の三女なのだろう。
「ああ…そうですね、よろしくお願いします。俺の名前、…なまえは……」
簡単な質問に答えるだけなのに、なぜかその先が続かなかった。
咳き込んだとともに大量の水を吐き出す。
身体が痛い、どこが痛いのか分からないくらい全身を殴りつけられたような痛みに襲われる。
いったい…俺はどうしたんだ…。
なぜ水を吐き出している?
どうして体が痛いんだ?
ここは…どこだ…、それに…。
疑問は次々浮かび上がるが、その答えはいくら待っても出てこない。
何も分からないのはこの酷い痛みのせいだろうか。
正確に言うとこの時の俺は何が分かっていないのかも実際には分かっていなかった。
目を開けているはずなのに何も見えず、目の前に広がるのはぼんやりとした闇だけだった。
不安と痛みに襲われながら懸命に声を上げようとする。
「…た…たすけっ、ゲホッ…だれ…かっ、」
出てきた声はかすれた小さな声だけ。
くそっ…、これじゃ誰にも聞こえない。
だれか…誰か…!
何人かの足音と『なにか聞こえたぞ』『こっちからだ』という会話が近づいてくる。
誰にも届かないと思っていた声は幸運なことに近くを通りかかった人の耳に届いていたようだ。
すぐ側まで来てくれたことは気配で分かった。
これで助けてもらえると思ったが、彼らの目的は助けることではなかった。
動けずにいる俺から身に着けていたものを次々と乱暴に剥ぎ取っていく。抵抗しようにもそんな力はなく、無様にもされるがままだった。
「はっはっは、これはいいな。きっと金になるぞ」
「とにかく早く取れるものは全部取れ。誰かに見つかると厄介だから、急げ!」
彼らの目的は救助ではなく弱っている俺から身に付けているものを盗むことだった。
容赦ない扱いに痛む身体が悲鳴を上げる。
「…うっうう…、やめろ…」
出てきたのはうめき声と拒絶。
だがそれに対する答えは汚い言葉と暴行だった。
「この死にぞこないがっ、くたばっちまえっ!」
「何言ってるんだよっ。俺達に抵抗すらできずにいるくせにさ、あっはっは」
ボコッ、ボキッ…!!
笑いながら殴られ、俺は意識が遠のいていく。
「おいコイツどうする?生かしておいたらまずいんじゃないか?」
「このままほっといたらすぐに死ぬさ。俺たちが殺したんじゃ目覚めが悪いが勝手に死ぬんなら関係ねぇ。それともお前が息の根を止めるか?
俺はやだぜ、盗みはやるが殺しはごめんだ。
さぁ、これで旨いものでも食おうぜ!」
そんな言葉とともに遠ざかって行く足音を聞きながら俺は死を意識する。
ここで……死ぬのか俺は。
……一人で…。
そう考える俺の頭には誰の顔も浮かんでこない。
死ぬ間際に見るという走馬灯は嘘だったのか…。
そう思いながら意識を手放していった。
キツイ消毒液の匂いが鼻について目覚める。俺は生きているのだろうか。
身体を動かそうとすると痛みで顔が歪み、自分がまだ生きていることを実感する。
ここが温かいベットのうえなのは感触で分かるがどうしてここに自分がいるのだろう。
ここがどこか確かめたくて目を開けようとするが、目が何かで覆われていて瞼を開けることすらできない。
いったいなんだこれは?
布が巻かれているのか?
自分の目元に手をやりそれを取ろうとすると誰かが声を上げた。
「だめ、だめよ!その包帯を取ってはいけないわ。
お医者様の許可がおりてからでないと、完全に視力を失ってしまうから」
「そうだぞ。お前さんは身体中打撲と擦り傷があるが、それより目が一番厄介な状態なんだ。体の傷は痛むだろうが重傷ではない。だがな目はかなり傷ついているから暫くは絶対に包帯が必要だ」
女性の慌てた声と年配の男性の落ち着いた声。
あんな目にあった俺は警戒心を顕にして訊ねる。
「…誰ですか…?それにここは…?」
「ああ、すまんかったな。まずはそこからちゃんと話さないと目が見えないお前さんには何も分からんな。
儂は医者のマイクだ。お前さんは川岸で裸の状態で発見された。
怪我の具合から見て、流されてここに流れ着いたんだろう。全裸だったのは、誰かに身ぐるみを剥がされたんだろうな。ここら辺には貧しさからそんな真似をする馬鹿な奴等もいるんだ。
まあ、あの激流で死なずにここに流れ着いたのも奇跡だし、目以外は打撲と擦り傷で済んだのも有り得ないくらいの奇跡なんだ。
この川に流れてきた者は殆ど土左衛門になっているし、辛うじて生きていても酷い怪我を負っているものだ。
本当に幸運な奴だな、お前さんって男は。目だってちゃんと朝晩薬をつけ半年ほど使わなかったら元に戻る見立てだ。
とにかく神様とお前さんを見つけて看病している男爵家の者達に感謝することだな。今だってこの家の三女が面倒を見てくれているんだ」
どうやら俺は親切な人に助けられたようだ。不幸中の幸いにホッとする。
「助けていただいて有り難うございます」
どちらを向いて話したらいいのか分からないので前を向いたまま礼を伝える。
「いいえ、当たり前のことをしただけですから。それよりあなたの名前と家の場所を教えてくれませんか?ここにあなたがいることをご家族に連絡をしますから。きっと川に流されたあなたを心配しているわ」
そう言ったのは若い女性の声で、きっと男爵家の三女なのだろう。
「ああ…そうですね、よろしくお願いします。俺の名前、…なまえは……」
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