41 / 57
38.開かれた心③
しおりを挟む
私はこれから話すことの後ろめたさからか、わざと明るい口調で話し始める。
「ねえ、ヒューイ聞いてくれる。私ね…今日エドワード達に会って彼らが想いを合っている姿を見て良かったと思ったの。大変なこともあるだろうけど彼らなりに幸せなんだなって…」
「…マリアは本当に優しすぎるな」
そう言うとヒューイの顔にもう悲愴感はない。愛しむような眼差しを私に向けている。
きっとそれもすぐに変わる、だって彼が知らない本当の私を今から伝えるのだから。
それは醜い心を持つ私。
彼を失うのが怖いくて仕方がない。
でも私は彼の手を掴んではいけない。だから彼の為に話そう。
深く息を吸い込み再び話し出す。
「ふふ、でもね…そう思いながら同時に二人のことを心のなかで罵倒していたわ。
『なんでもっと気を使わないの!どうして幸せですって顔を平気で私に見せつけるの!』って思っていたの。
それにね、ラミアからケビンの話をされた時、彼女を殴りつけたかった。
『私の子は生まれてこれなかったのに、泣き声すらあげられなかったのに、あの子の歩むはずだった人生にどうしてあなたの子が居座っているのっ』て。
ケビンに罪なんてなにもないのに…。
『私の子は名前さえつけられずにこの世をから去ってしまったのに、なんであなただけが子供の名を嬉しそうに呼べるの、そんなの不公平だわ』て恨んでいたの。
嬉しそうに話す彼女はこの世に誕生しなかった私の子の存在を知らないわ。私がみんなに口止めをして二人に何も知らせなかったくせして、私は幸せな彼女を勝手に憎んだの。
不幸になれって心のなかで叫んでいた。
うっ、うう…、本当の私はね。こんなに汚いの、ちっとも優しくなんてない。
人の幸せを妬むような酷い人間…なのよ」
途中で止まらないように一気に話した。微笑もうとするけれども出来ない、勝手に涙が溢れてくる。
彼らの幸せを祝福しながら一方で相反する気持ちを隠していた。微笑みの下にこんな感情があるなんて誰も知らなかっただろう。
もし知られていたら、みんな私を見限っていたと思う。そして一人で孤独に苛まれていたに違いない。
臆病な私はそれが怖かった。
一人でこの状況を耐えられる自信なんてなかった。
私はただの偽善者。
彼も私の子がこの世に誕生しなかったことを知っている。彼がダイソン伯爵家へ来た時に『まだ公にはしていないが…』とエドワードが嬉しそうに伝えていたから。
そしてエドワードが行方知れずとなってすぐに、まだお腹の膨らみにさえならなかった我が子は天に召されてしまった。
このことはごく親しい者しか知らない。
私の希望でエドワードとラミアには絶対に知られないようにした。それは彼らの為というより天国へ行ったあの子の為だった。
幸せそうな二人があの子の存在をどう思うか。心から悲しんでくれないならば父に忘れられたあの子が可哀想だと思った。
だから告げなかった。
心から大切に思ってくれる人だけにあの子を覚えていて欲しかったから。
醜い私にヒューイはきっと呆れているだろう、軽蔑しているだろう。彼が私の元から去っていくのを覚悟して待っていたが、彼は動かなかった。
「ねえ、ヒューイ聞いてくれる。私ね…今日エドワード達に会って彼らが想いを合っている姿を見て良かったと思ったの。大変なこともあるだろうけど彼らなりに幸せなんだなって…」
「…マリアは本当に優しすぎるな」
そう言うとヒューイの顔にもう悲愴感はない。愛しむような眼差しを私に向けている。
きっとそれもすぐに変わる、だって彼が知らない本当の私を今から伝えるのだから。
それは醜い心を持つ私。
彼を失うのが怖いくて仕方がない。
でも私は彼の手を掴んではいけない。だから彼の為に話そう。
深く息を吸い込み再び話し出す。
「ふふ、でもね…そう思いながら同時に二人のことを心のなかで罵倒していたわ。
『なんでもっと気を使わないの!どうして幸せですって顔を平気で私に見せつけるの!』って思っていたの。
それにね、ラミアからケビンの話をされた時、彼女を殴りつけたかった。
『私の子は生まれてこれなかったのに、泣き声すらあげられなかったのに、あの子の歩むはずだった人生にどうしてあなたの子が居座っているのっ』て。
ケビンに罪なんてなにもないのに…。
『私の子は名前さえつけられずにこの世をから去ってしまったのに、なんであなただけが子供の名を嬉しそうに呼べるの、そんなの不公平だわ』て恨んでいたの。
嬉しそうに話す彼女はこの世に誕生しなかった私の子の存在を知らないわ。私がみんなに口止めをして二人に何も知らせなかったくせして、私は幸せな彼女を勝手に憎んだの。
不幸になれって心のなかで叫んでいた。
うっ、うう…、本当の私はね。こんなに汚いの、ちっとも優しくなんてない。
人の幸せを妬むような酷い人間…なのよ」
途中で止まらないように一気に話した。微笑もうとするけれども出来ない、勝手に涙が溢れてくる。
彼らの幸せを祝福しながら一方で相反する気持ちを隠していた。微笑みの下にこんな感情があるなんて誰も知らなかっただろう。
もし知られていたら、みんな私を見限っていたと思う。そして一人で孤独に苛まれていたに違いない。
臆病な私はそれが怖かった。
一人でこの状況を耐えられる自信なんてなかった。
私はただの偽善者。
彼も私の子がこの世に誕生しなかったことを知っている。彼がダイソン伯爵家へ来た時に『まだ公にはしていないが…』とエドワードが嬉しそうに伝えていたから。
そしてエドワードが行方知れずとなってすぐに、まだお腹の膨らみにさえならなかった我が子は天に召されてしまった。
このことはごく親しい者しか知らない。
私の希望でエドワードとラミアには絶対に知られないようにした。それは彼らの為というより天国へ行ったあの子の為だった。
幸せそうな二人があの子の存在をどう思うか。心から悲しんでくれないならば父に忘れられたあの子が可哀想だと思った。
だから告げなかった。
心から大切に思ってくれる人だけにあの子を覚えていて欲しかったから。
醜い私にヒューイはきっと呆れているだろう、軽蔑しているだろう。彼が私の元から去っていくのを覚悟して待っていたが、彼は動かなかった。
267
あなたにおすすめの小説
氷の貴婦人
羊
恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。
呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。
感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。
毒の強めなお話で、大人向けテイストです。
あなただけが私を信じてくれたから
樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。
一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。
しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。
処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。
報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜
矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』
彼はいつだって誠実な婚約者だった。
嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。
『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』
『……分かりました、ロイド様』
私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。
結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。
なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。
※この作品の設定は架空のものです。
※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。
〈完結〉だってあなたは彼女が好きでしょう?
ごろごろみかん。
恋愛
「だってあなたは彼女が好きでしょう?」
その言葉に、私の婚約者は頷いて答えた。
「うん。僕は彼女を愛している。もちろん、きみのことも」
月夜に散る白百合は、君を想う
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。
彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。
しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。
一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。
家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。
しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。
偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。
幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!
ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。
同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。
そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。
あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。
「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」
その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。
そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。
正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。
[完結]「私が婚約者だったはずなのに」愛する人が別の人と婚約するとしたら〜恋する二人を切り裂く政略結婚の行方は〜
h.h
恋愛
王子グレンの婚約者候補であったはずのルーラ。互いに想いあう二人だったが、政略結婚によりグレンは隣国の王女と結婚することになる。そしてルーラもまた別の人と婚約することに……。「将来僕のお嫁さんになって」そんな約束を記憶の奥にしまいこんで、二人は国のために自らの心を犠牲にしようとしていた。ある日、隣国の王女に関する重大な秘密を知ってしまったルーラは、一人真実を解明するために動き出す。「国のためと言いながら、本当はグレン様を取られたくなだけなのかもしれないの」「国のためと言いながら、彼女を俺のものにしたくて抗っているみたいだ」
二人は再び手を取り合うことができるのか……。
全23話で完結(すでに完結済みで投稿しています)
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる